悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

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 ミアが目を覚ましたとの知らせがイライザに届いたのは、事件から六日後の事だった。
 その知らせを受けて、直ぐに王城の医療棟へと駆け付けたイライザが病室へ向かう廊下を歩いていると、ミアの病室の前に騎士服の男性が立っている。
 誰だろう?ミアの関係者?
「イライザ様」
 騎士服の男性はイライザに身体を向けると、その場に跪いた。
「え?…あ!」
 イライザはその男性の手首から赤い糸が延びているのに気付く。
の警守の騎士です。鎧で顔は見えなかったのでおわかりにならないかと思いますが…」
 やっぱり。ミアが刺された時の見張りの、無理矢理手甲を外されて手を私の顔に押し付けられた、あの騎士様だわ。
「わかります。あの…えーと…あ、声。声で」
 赤い糸でわかったとは言えないもんね。

「イライザ様が私の失態を庇ってくださったと聞きました。お陰で大した処罰もなく、本日はお礼を申し上げたく参上致しました」
 騎士は跪いたまま更に深く頭を下げる。
 イライザは両手を翳してブンブンと振った。
「あの状況ではミアが刺されないように庇ったり、エレノーラ様を取り押さえたりするのは無理です。ミアが騎士様の手を掴んでいたんですもの。だから私はそのようにグレイ殿下に申し上げただけですから」
「それでも。本当に有り難く…」
 騎士の赤い糸の先に繋がるのはイライザの知らない女性だ。
 もしも騎士様が警守の役割が果たせなかったと罰せられたら、恋人との関係も変わってしまっていたかも知れないわ。
 逆に「例え騎士団を辞めさせられたとしても、私が貴方を養うから大丈夫よ!」なんて女性なら良いけど…この中世ヨーロッパみたいな世界じゃ、それもなかなか難しいだろうし…
「このご恩に報いるべく、イライザ様が王子妃になられた際には護衛騎士として全力でお護り致す所存です」

 ん?
 おうじひ?
「…はい?」
 イライザが首を傾げると、騎士も少し首を傾げた。
「グレイ殿下よりこの度イライザ様が私を擁護してくださった事を伺った時に、殿下が『俺はイライザを妃にする。そうなったら護衛としてお前が全身全霊で護れ』と仰られたのです…が」
「きさき!?」
 おうじひって王子の妃って事!?
 グレイ殿下が?
 イライザを妃にするって仰られた!?
 え?断言?
 妃?私が?グレイ殿下の?

 軽くパニック状態になるイライザ。騎士が困惑した顔でイライザを見上げている。
 すると、イライザの後ろから「コホン」と咳払いが聞こえた。
 騎士が床に片方の拳をつく。騎士の敬礼だ。
「え…?」
 イライザがゆっくりと振り向くと、グレイが口元に手を当てて立っていた。

「本人にまだ決意表明プロポーズしていないのに、このような形で本人に知られてしまうとは…これはなかなか恥ずかしい状況だな」

ーーーーー

「…近い」
 ベッドに横たわったミアが薄く目を開けると、目の前にイライザの顔があった。
 ベッドに手をついてミアの顔を覗き込んでいたイライザは涙ぐんでミアの頬をペチンと軽く叩く。
「もう」
「何でヒロインが刺されて悪役令嬢が泣くのよ」
 ミアは少し笑いながら弱々しい声で言った。
悪役令嬢だもん」
「…そうだったわ」
 二人は視線を合わせてクスクスと笑う。

 ふと、ミアが真面目な表情になった。
「ねえイライザ…私、多分赤い糸…見えなくなったと思う」
「え?」
「…、あの騎士様に、確かに触ったのに、見えるようにならなかった」
「そうなの?今まで見えてた人のは?」
「会ってないからわからないけど…多分見えないんじゃないかな」
「……」
 イライザが何を言えば良いのかと当惑していると、ミアはニコリと笑う。
「でもね、見えなくなって良かったかなって」
「…え?」
「これでもう、誰の運命も狂わせなくて済むし」
「ミア…」

「ねぇイライザ、パイロット版の『赤い糸の伝説』って、サブタイトル『乙女は運命を覆す』だったよね?」
「え?うん」
「製品版は『乙女は運命を翻す』なのよ」
「そうなの?」
「そ。どっちも『裏返す』とかって同じような意味ではあるんだけど、他人ひとを変えるのが『覆す』で、自分を変えるのが『翻す』。私は翻すヒロインなのに、他人ひとばかり変えようとしたから…ゲームの神様が怒ったのね。きっと」
 ミアは目を閉じてそう言った。



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