悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

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 ………ら。

 ふと、聞き慣れた声がイライザの耳に届いた。
 目を開けると、見慣れたベッドの天蓋。
「そうなのね…」 
 イライザは呟く。

「ありがとう、イライザ」
 
 そう言うと、また目を閉じた。

ーーーーー

「アンリ…隈すごいわよ?」
 イライザは紅茶を注ぐアンリを見ながら言う。
 アンリの目の下には黒々とした隈があった。
「…寝てません…いえ、寝られませんでしたから」
 アンリは唇を尖らせて、イライザの前にカップを置く。
「隣国の王子にプロポーズされたんですもの、それは眠れる訳がないわ」
 ブリジットが頷きながら言うと、アンリは恨めしそうにブリジットを見た。
「ブリジットお嬢様、やめてください。私お断りしたのに…」
「あら『無理です』じゃ断った事にはならないわよ」
 ブリジットが言うと、イライザも頷く。
「そうね。エドモンド殿下、全然諦めるつもりなさそうだったし」
「…うぅ」
 ブリジットのカップに紅茶を注ぎながら小さく唸るアンリ。
「それにお父様もお母様もお兄様も、アンリを養女にするの、大賛成だったじゃない」
「そうそう」
 そうイライザが言うと、ブリジットも頷いた。
「…どうして旦那様も奥様もアドルフ様もこんな荒唐無稽な話をあっさりと受け入れられるのでしょうか?それまで使用人として使っていた人間が娘で姉妹になるんですよ?嫌ですよ普通。それに他の使用人だってやりにくいし、嫌がります」
 ブリジットの前にカップを置きながら言う。
「そうかしら?ヘレンは嫌?やりにくい?」
 イライザは首を傾げながらワゴンの上でお菓子を準備しているヘレンへと話し掛けた。
 
「私は…確かに慣れるまではやりにくいかも知れませんが、嫌ではないです」
 ワゴンから降ろしたお菓子をテーブルに置きながらヘレンが言う。
「それは本人を前に嫌だとは言えないだけでしょう?」
 アンリはジトッとヘレンを睨んだ。
「本当にそんな事はありませんよ。それに、アンリ様は使用人の中でも一目置かれてますから、皆んなアンリ様なら認めると思います」
「そうなの?」
 イライザがきょとんとして言うと、ブリジットがニヤリと笑う。
「アンリは荒ぶるイライザお嬢様を御する事ができた、ただ一人の侍女ですもんね?」
 御するって…馬かい!?
 いやでも悪役令嬢イライザは暴れ馬みたいなものだったから、あながち間違ってないわ。
 確かにイライザの側でただ一人耐えて、尚且つイライザを諭したり意見したりできたのはアンリだけだったもん。他の使用人たちに一目置かれるのも頷ける。

「私なんて…一応うちは男爵家ですけど、裕福でもないし、私はエドモンド殿下より歳上だし、教養も美貌もないし、侯爵家の養女なんて…更に王子と結婚なんて想像もした事ありませんし、無理です」
 アンリが頭を抱えて言うと、イライザはふるふると頭を振った。
「そういう懸念は昨日エドモンド殿下にことごとく潰されてたじゃない」

 昨日、跪いてアンリに手を差し出したエドモンドと、壁に張り付くようにして顔を強張らせるアンリをイライザとグレイは見ていたのだ。

「無理って何が?」
 ニッコリ笑いながらエドモンドが言う。
「…男爵家の娘では王子と釣り合いません」
 ウロウロと視線を彷徨わせながらアンリが言った。
「だからこその養女だよ」
「旦那様や奥様だって、イライザお嬢様やブリジットお嬢様を差し置いて使用人に跡を継がせるなんてきっとお嫌です」
「でもイライザはグレイに、ブリジット嬢はアドルフ殿に嫁ぐから、もしアドルフ殿がサクソン家へ戻れば必然的にフォスター家を継ぐ人はいなくなるんだよ?」
「だ…だからと言って…私など、教養もありませんし」
「学園を出ているんだろう?それで充分だし、勉強はこれからでもできるよ」
「よ…容貌も美しい訳ではないですし」
「そう?すごくかわいいけど?」
 アンリを見上げながら小さく首を傾げるエドモンド。アンリの頬が真っ赤に染まる。
「かっ……そ、それに私、エドモンド殿下より歳上ですし」
「たった二歳だよ?政略結婚ならもっと離れている場合もある」
「……」
 アンリが絶句し、口をパクパクと開け閉めしていると、エドモンドはニッコリと笑った。
「俺自身を受け入れられないのでないなら、諦める理由はないよね」



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