悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

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「え?ドレス、ですか?」
 フォスター家の庭の東屋でグレイとお茶を飲んでいたイライザの前に、グレイがドレスの型録を差し出した。
「ああ。俺の卒業パーティでイライザをエスコートしようと思う」
 グレイが真剣な表情で言う。
「ええ!?でもエドモンド殿下の留学期間は…」
 私、今の処まだエドモンド殿下の婚約者候補だから留学期間中は進展はないって、宰相様とかが言ってたわよね?
「ああ。だが俺の意向を無視して王宮主導でイライザをガイド役にしたからこんな状況になったのだから、婚約は待つ代わりにエスコートは認めろと交渉した」

 エレノーラの父が王太子の側近で、イライザをガイド役にするよう働きかけた。グレイの祖父である国王、父である王太子にもイライザがミアに嫌がらせをし、グレイに付き纏っていたのを知っていたので、イライザが隣国へ嫁げばグレイから遠ざけられるとイライザをガイド役にしたのだ。
 イライザは自分をガイド役にする事について、当然グレイも承知していると思っていたのだが、グレイはそれを否定した。
「イライザがエドのガイド役になると知った時の苛立ちや焦燥感は何とも形容し難い…率直に言えば『嫌だ』と思った。付き纏われて辟易としていた筈なのにな」
 グレイにそう言われて、イライザはグレイが心底自分を疎んじていた訳ではない事を知り安堵したのだった。

「来年、イライザが卒業する時には俺が色も形も選んだドレスを贈り、正式に婚約者としてエスコートする。今年はイライザが選んだドレスを贈らせてくれ」
「エスコート…大丈夫なんですか?」
 婚約者でもない、更に隣国の王子の婚約者候補をエスコートして、何か変な騒ぎになったりしないのかな?
「…まあ舞踏会での騒ぎを思えば、ミアからイライザに心変わりした俺が生徒たちの顰蹙を買うくらいのモノだろう」
 確かにあの舞踏会でグレイ殿下はミアを庇って、ミアを泣かせた私は退場した訳で。
 夏期休暇が終わるとミアは消えて、端から見れば手の平を返したように友好的になったグレイ殿下と私が居る。
 色々面白おかしく噂されてるのは知ってるけど…
「殿下が顰蹙を買うの、嫌ですけど…」
 イライザが唇を尖らせて言う。
「……」
 グレイが黙ってイライザを見た。

「…あ」
 名前。
 心の中では名前を呼べるようになったけど、口に出すのは無意識に躊躇ってるみたいで…でもそろそろいい加減呆れられてるのかも。
「イライザ」
 グレイが真剣な表情で言葉を発する。
「は…はい」
 どうしよう。いつまでも直らないから呆れられ…ううん、もしかして怒って…
「『殿下』禁止にしよう」
「…はい?」
「殿下と言う称号があるから名前を呼ばなくても会話は成立する。だが俺はイライザに名を、呼ばれたいんだ」
 そう言うと、グレイは型録を持っているイライザの手の甲に指先で触れた。
 呼ばれたい…グレイ殿下が私に…名前を?
 ぎゅっとイライザの手を握るとグレイはイライザに顔を近付け、耳元で囁く。
「グレイと、呼んで。イライザ」

 ひゃああああ!
 耳元でグレイ殿下の声!顔近い!
「イライザ…呼んで?」
「…グ…グレイ殿下…あの…」
「殿下は禁止」
「…グレイさ…ま…」
「呼び捨て」
「よ」
 び、すて?
「むむむ無理!無理です!」
 真っ赤になったイライザが顔を背けながらグレイの肩を押した。
「アンリがエドに言ったみたいな『無理』だな。つまり、イライザは照れているのか」
 肩を押すイライザの手を取り、ニッコリと微笑むグレイ。
「……」
 あうあうと口をパクパクさせるイライザの手にグレイはチュッとキスをする。
「呼び捨てが無理なら『グレイ様』にしよう。今後公の場以外ではそう呼ばないと…」
「よっ…呼ばないと?」
「俺もイライザの名前を呼ばない」
「!」
 ヒュッと息を飲むイライザ。
 それに気付いたグレイはイライザを抱きしめた。

「ごめん…」
 グレイはゆっくりとイライザの髪を撫でる。
 抱きしめられたイライザは髪を撫でられる手の優しさに息を吐いた。
「嘘だよ。済まない。イライザ」
「……」
 息が止まるかと思った…
 グレイ殿下に名前を呼ぶ事を禁じられた事、名前を呼んでもらえなかった事、こんなにトラウマになってるなんて…自分でも知らなかった。
「不謹慎だが…少し嬉しい」
「え…?」
「イライザが、どれ程俺の事を好きか、よくわかった」
 ぎゅうっと抱きしめる腕に力を込めるグレイ。
 イライザもグレイの背中に手を回す。

「では…呼べなければ罰として『グレイ様愛しています』と三回昌和してもらおうか」
 イライザを抱きしめたまま面白そうにグレイが言うと、イライザは顔を上げてグレイを見た。
「え…それは…」
「言えない?」
 グレイはイライザの額に自分の額をコツンと当てる。
「いえ、逆に何度でも言えますので、罰にならないかと」

 至極真面目な表情で言うイライザに、グレイは破顔して額にキスを落とした。



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