72 / 79
71
しおりを挟む
71
「え?ドレス、ですか?」
フォスター家の庭の東屋でグレイとお茶を飲んでいたイライザの前に、グレイがドレスの型録を差し出した。
「ああ。俺の卒業パーティでイライザをエスコートしようと思う」
グレイが真剣な表情で言う。
「ええ!?でもエドモンド殿下の留学期間は…」
私、今の処まだエドモンド殿下の婚約者候補だから留学期間中は進展はないって、宰相様とかが言ってたわよね?
「ああ。だが俺の意向を無視して王宮主導でイライザをガイド役にしたからこんな状況になったのだから、婚約は待つ代わりにエスコートは認めろと交渉した」
エレノーラの父が王太子の側近で、イライザをガイド役にするよう働きかけた。グレイの祖父である国王、父である王太子にもイライザがミアに嫌がらせをし、グレイに付き纏っていたのを知っていたので、イライザが隣国へ嫁げばグレイから遠ざけられるとイライザをガイド役にしたのだ。
イライザは自分をガイド役にする事について、当然グレイも承知していると思っていたのだが、グレイはそれを否定した。
「イライザがエドのガイド役になると知った時の苛立ちや焦燥感は何とも形容し難い…率直に言えば『嫌だ』と思った。付き纏われて辟易としていた筈なのにな」
グレイにそう言われて、イライザはグレイが心底自分を疎んじていた訳ではない事を知り安堵したのだった。
「来年、イライザが卒業する時には俺が色も形も選んだドレスを贈り、正式に婚約者としてエスコートする。今年はイライザが選んだドレスを贈らせてくれ」
「エスコート…大丈夫なんですか?」
婚約者でもない、更に隣国の王子の婚約者候補をエスコートして、何か変な騒ぎになったりしないのかな?
「…まあ舞踏会での騒ぎを思えば、ミアからイライザに心変わりした俺が生徒たちの顰蹙を買うくらいのモノだろう」
確かにあの舞踏会でグレイ殿下はミアを庇って、ミアを泣かせた私は退場した訳で。
夏期休暇が終わるとミアは消えて、端から見れば手の平を返したように友好的になったグレイ殿下と私が居る。
色々面白おかしく噂されてるのは知ってるけど…
「殿下が顰蹙を買うの、嫌ですけど…」
イライザが唇を尖らせて言う。
「……」
グレイが黙ってイライザを見た。
「…あ」
名前。
心の中では名前を呼べるようになったけど、口に出すのは無意識に躊躇ってるみたいで…でもそろそろいい加減呆れられてるのかも。
「イライザ」
グレイが真剣な表情で言葉を発する。
「は…はい」
どうしよう。いつまでも直らないから呆れられ…ううん、もしかして怒って…
「『殿下』禁止にしよう」
「…はい?」
「殿下と言う称号があるから名前を呼ばなくても会話は成立する。だが俺はイライザに名を、呼ばれたいんだ」
そう言うと、グレイは型録を持っているイライザの手の甲に指先で触れた。
呼ばれたい…グレイ殿下が私に…名前を?
ぎゅっとイライザの手を握るとグレイはイライザに顔を近付け、耳元で囁く。
「グレイと、呼んで。イライザ」
ひゃああああ!
耳元でグレイ殿下の声!顔近い!
「イライザ…呼んで?」
「…グ…グレイ殿下…あの…」
「殿下は禁止」
「…グレイさ…ま…」
「呼び捨て」
「よ」
び、すて?
「むむむ無理!無理です!」
真っ赤になったイライザが顔を背けながらグレイの肩を押した。
「アンリがエドに言ったみたいな『無理』だな。つまり、イライザは照れているのか」
肩を押すイライザの手を取り、ニッコリと微笑むグレイ。
「……」
あうあうと口をパクパクさせるイライザの手にグレイはチュッとキスをする。
「呼び捨てが無理なら『グレイ様』にしよう。今後公の場以外ではそう呼ばないと…」
「よっ…呼ばないと?」
「俺もイライザの名前を呼ばない」
「!」
ヒュッと息を飲むイライザ。
それに気付いたグレイはイライザを抱きしめた。
「ごめん…」
グレイはゆっくりとイライザの髪を撫でる。
抱きしめられたイライザは髪を撫でられる手の優しさに息を吐いた。
「嘘だよ。済まない。イライザ」
「……」
息が止まるかと思った…
グレイ殿下に名前を呼ぶ事を禁じられた事、名前を呼んでもらえなかった事、こんなにトラウマになってるなんて…自分でも知らなかった。
「不謹慎だが…少し嬉しい」
「え…?」
「イライザが、どれ程俺の事を好きか、よくわかった」
ぎゅうっと抱きしめる腕に力を込めるグレイ。
イライザもグレイの背中に手を回す。
「では…呼べなければ罰として『グレイ様愛しています』と三回昌和してもらおうか」
イライザを抱きしめたまま面白そうにグレイが言うと、イライザは顔を上げてグレイを見た。
「え…それは…」
「言えない?」
グレイはイライザの額に自分の額をコツンと当てる。
「いえ、逆に何度でも言えますので、罰にならないかと」
至極真面目な表情で言うイライザに、グレイは破顔して額にキスを落とした。
「え?ドレス、ですか?」
フォスター家の庭の東屋でグレイとお茶を飲んでいたイライザの前に、グレイがドレスの型録を差し出した。
「ああ。俺の卒業パーティでイライザをエスコートしようと思う」
グレイが真剣な表情で言う。
「ええ!?でもエドモンド殿下の留学期間は…」
私、今の処まだエドモンド殿下の婚約者候補だから留学期間中は進展はないって、宰相様とかが言ってたわよね?
「ああ。だが俺の意向を無視して王宮主導でイライザをガイド役にしたからこんな状況になったのだから、婚約は待つ代わりにエスコートは認めろと交渉した」
エレノーラの父が王太子の側近で、イライザをガイド役にするよう働きかけた。グレイの祖父である国王、父である王太子にもイライザがミアに嫌がらせをし、グレイに付き纏っていたのを知っていたので、イライザが隣国へ嫁げばグレイから遠ざけられるとイライザをガイド役にしたのだ。
イライザは自分をガイド役にする事について、当然グレイも承知していると思っていたのだが、グレイはそれを否定した。
「イライザがエドのガイド役になると知った時の苛立ちや焦燥感は何とも形容し難い…率直に言えば『嫌だ』と思った。付き纏われて辟易としていた筈なのにな」
グレイにそう言われて、イライザはグレイが心底自分を疎んじていた訳ではない事を知り安堵したのだった。
「来年、イライザが卒業する時には俺が色も形も選んだドレスを贈り、正式に婚約者としてエスコートする。今年はイライザが選んだドレスを贈らせてくれ」
「エスコート…大丈夫なんですか?」
婚約者でもない、更に隣国の王子の婚約者候補をエスコートして、何か変な騒ぎになったりしないのかな?
「…まあ舞踏会での騒ぎを思えば、ミアからイライザに心変わりした俺が生徒たちの顰蹙を買うくらいのモノだろう」
確かにあの舞踏会でグレイ殿下はミアを庇って、ミアを泣かせた私は退場した訳で。
夏期休暇が終わるとミアは消えて、端から見れば手の平を返したように友好的になったグレイ殿下と私が居る。
色々面白おかしく噂されてるのは知ってるけど…
「殿下が顰蹙を買うの、嫌ですけど…」
イライザが唇を尖らせて言う。
「……」
グレイが黙ってイライザを見た。
「…あ」
名前。
心の中では名前を呼べるようになったけど、口に出すのは無意識に躊躇ってるみたいで…でもそろそろいい加減呆れられてるのかも。
「イライザ」
グレイが真剣な表情で言葉を発する。
「は…はい」
どうしよう。いつまでも直らないから呆れられ…ううん、もしかして怒って…
「『殿下』禁止にしよう」
「…はい?」
「殿下と言う称号があるから名前を呼ばなくても会話は成立する。だが俺はイライザに名を、呼ばれたいんだ」
そう言うと、グレイは型録を持っているイライザの手の甲に指先で触れた。
呼ばれたい…グレイ殿下が私に…名前を?
ぎゅっとイライザの手を握るとグレイはイライザに顔を近付け、耳元で囁く。
「グレイと、呼んで。イライザ」
ひゃああああ!
耳元でグレイ殿下の声!顔近い!
「イライザ…呼んで?」
「…グ…グレイ殿下…あの…」
「殿下は禁止」
「…グレイさ…ま…」
「呼び捨て」
「よ」
び、すて?
「むむむ無理!無理です!」
真っ赤になったイライザが顔を背けながらグレイの肩を押した。
「アンリがエドに言ったみたいな『無理』だな。つまり、イライザは照れているのか」
肩を押すイライザの手を取り、ニッコリと微笑むグレイ。
「……」
あうあうと口をパクパクさせるイライザの手にグレイはチュッとキスをする。
「呼び捨てが無理なら『グレイ様』にしよう。今後公の場以外ではそう呼ばないと…」
「よっ…呼ばないと?」
「俺もイライザの名前を呼ばない」
「!」
ヒュッと息を飲むイライザ。
それに気付いたグレイはイライザを抱きしめた。
「ごめん…」
グレイはゆっくりとイライザの髪を撫でる。
抱きしめられたイライザは髪を撫でられる手の優しさに息を吐いた。
「嘘だよ。済まない。イライザ」
「……」
息が止まるかと思った…
グレイ殿下に名前を呼ぶ事を禁じられた事、名前を呼んでもらえなかった事、こんなにトラウマになってるなんて…自分でも知らなかった。
「不謹慎だが…少し嬉しい」
「え…?」
「イライザが、どれ程俺の事を好きか、よくわかった」
ぎゅうっと抱きしめる腕に力を込めるグレイ。
イライザもグレイの背中に手を回す。
「では…呼べなければ罰として『グレイ様愛しています』と三回昌和してもらおうか」
イライザを抱きしめたまま面白そうにグレイが言うと、イライザは顔を上げてグレイを見た。
「え…それは…」
「言えない?」
グレイはイライザの額に自分の額をコツンと当てる。
「いえ、逆に何度でも言えますので、罰にならないかと」
至極真面目な表情で言うイライザに、グレイは破顔して額にキスを落とした。
25
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる