悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

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フォスター家の応接室の窓の側に立って庭を眺めているエドモンドに、廊下側の扉の側に立つアンリは恐る恐る声を掛ける。
「エドモンド殿下、何をご覧に…?」
「グレイとイライザだよ。この窓から東屋が見える」
 窓の外に視線を向けたまま、エドモンドが言った。
「まだ正式に婚約できないから部屋で二人きりになれなくて…冬になろうと言うのに外でお茶とは、少し気の毒だね」
 肩を竦めてそう言うと、エドモンドはアンリの方を見て笑う。
「はい」
「俺だけ易々とアンリと二人きりになれて申し訳ないな」
「私は侍女ですから。二人きりとは違いますよ」
「まあね。でもアンリは男爵令嬢でもある」
「……」
 アンリは困ったように口角を上げると少し俯いた。

 エドモンドが扉の側に立つアンリの前に近付き、その前で立ち止まる。
 アンリはますます深く俯いた。
「俺はアンリを困らせているだけなのかな?」
「……」
 黙って俯くアンリは下に向けた視線を左右に彷徨わせる。
「…今はアンリの休憩時間で、応接室とは言え、フォスター家の皆にも俺と二人だけで話せるよう配慮してもらい、俺も何度もソファに座って一緒にお茶をと誘った。何日それを繰り返しても、アンリは侍女然として部屋の隅に立ったままだ」
 ため息混じりに言いながら、エドモンドはアンリの顔の横に手を伸ばし、後ろの壁に手をついた。

「殿下…?」
 アンリが顔を上げると、エドモンドは壁についた自分の手の甲に額をつける。
 アンリの肩の上にエドモンドの頭が乗っているように見えるが、実際は触れていない。
 それでも身体が触れるか触れないかの位置にエドモンドを感じて、アンリは心臓がドキドキと鳴るのを感じた。

「…留学を切り上げるかも知れない」
「え?」
 アンリが少し顔をエドモンドの方に向けると、エドモンドは額を手の甲に着けたまま、アンリから顔を背ける。
「俺が居るせいでイライザとグレイも進展しないし…俺は侯爵この家か公爵家を継ぐから、父上から『いずれ隣国に住むなら留学など必要ないから帰って来い』って手紙が来たしね」
「それは…」

「アンリ、俺はイライザを本当に好きだったよ。それは赤い糸のせいだけではなかったと思う」
 アンリから顔を背けたままでエドモンドは言った。
「…はい」
「それでも赤い糸が失くなり、イライザへの気持ちが多少薄れた時、赤い糸の事やグレイの気持ちを知って…やがて、この家に来てアンリと話すのが楽しみになっている自分に気が付いたんだ」
「……」
「俺はアンリと出会うためにこの国に来たんだと思った。アンリと出会うためにイライザが俺のガイド役になったのだと。これが…本当の俺の『運命』なのだと」
「……」
「それが俺一人の思い込みでしかなく、アンリを困らせるだけならば、俺はグレイの卒業パーティが終われば留学を切り上げて帰国しようと思う。そして、次にこの国に来るのはイライザが卒業した後になるかな。ああ、帰国する前にアドルフ殿に俺にサクソン公爵家を継がせてくれとお願いしておかなくては。それにサクソン公爵にも挨拶をしておかなくてはならないな」
「…え…?」

 エドモンドが顔を背けたままで頭を上げて、壁を押してアンリの傍から身体を離す。
「…あの」
 そのままアンリの方を見ないまま、ソファへと歩いて行き、アンリに背を向けて座った。
「イライザがグレイと結婚するまでにはまだ数年掛かるだろうし、俺がこの家に入れば…アンリも気不味いだろう?」
「え…」
 アンリは大きく目を見開く。
「イライザが結婚すればアンリも付いて王宮へ行くのだろうが…俺もその内どこかの令嬢を娶るだろう。イライザが里下がりした時などに、アンリにその姿をみられるのは嫌だな。結婚相手の令嬢も気にするといけないしね」
「!」
 少し笑いながらエドモンドは言うと、アンリはますます目を見開いた。
「だから、サクソン公爵家の方が良いんだよ」
「……」

 エドモンドは上着の内ポケットから懐中時計を取り出すと、パチンッとそれを開く。
「そろそろ時間切れだな。アンリ、グレイを呼んで来てくれるかい?」
「……嫌です」
「ん?」
 エドモンドがアンリの方へ振り向こうとすると、エドモンドの首に何かがぶつかるように巻き付いてきた。

「…アンリ?」
 アンリがソファ越しに後ろからエドモンドの首に抱き付いて、エドモンドの頸に額を付けている。
「嫌です…」
 小さな声でアンリが言う。
 エドモンドは自分の首に巻き付くアンリの腕が震えている事に気付いた。
「どうした?アンリ。グレイを呼びに行くのが嫌なのか?」
 何事もないかのような口調で言い、エドモンドは懐中時計をパチンッと閉じて、上着の内ポケットへ仕舞う。
「違います」
 震える声で言うアンリ。

「はあ…」
 エドモンドは大きくため息を吐きながら、首に巻き付いたアンリの腕を掴んだ。



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