悪役令嬢なのに「赤い糸」が見えるようになりました!

ねーさん

文字の大きさ
75 / 79

74

しおりを挟む
74

 普段は歓談などで和やかなフォスター家のサロンだが、今はピンと張り詰めた空気に覆われている。
 家長であるイライザたちの父が一人掛けのソファに座り、その隣のソファには母、父の斜め前の一人掛けソファにはアドルフ、長ソファにはイライザとブリジットが並んで座る。
 皆の中央にあるテーブルの、それぞれの前にはティーカップが置かれ、湯気を立てているが、まだそれに口を付ける者はいない。

「アンリはイライザの隣に座ると良い」
 父が優しい口調で言うと、イライザの後ろに立っていたアンリがふるふると首を振った。
「私はまだ養子縁組をされている訳ではありませんので…」
 アンリがそう言うと、母も微笑んで頭を振る。
「家族会議なのよ、アンリ。正式に手続きするのはまだ先でも家族になるのだから。ね?」
「そうよアンリ」
 イライザが振り向いて手を伸ばし、アンリの手を握った。
「…はい」
 緊張した面持ちのアンリの手を引き、自分の隣へとイライザは誘導する。所在なげにソファに浅く腰掛けたアンリは膝の上で拳を握りしめた。
 イライザがアンリの片方の拳の上に手を置いて、少し撫でると、アンリはイライザの方へ視線を向ける。
「ふふ。何て顔をしてるの」
「…お嬢様ぁ」
 眉を下げたアンリを見てイライザは笑う。アンリも笑うイライザを見て少し安心したように息を吐いた。
「アンリ、これから父上も母上もアンリを本当の娘のようにかわいがってくれる。それは私が保証するよ」
 アドルフがそう言うと、イライザとブリジットが大きく頷き、その場の空気が緩んだ。

「今日は私が皆に集まってもらったのだが、そもそもこんなに深刻になる話しではないんだ」
 アドルフが頭を掻きながら言う。
「決めたのか?」
 父が言うと、アドルフは頷いた。

「私はサクソン公爵家に行きます」

 決意を感じさせるハッキリとした口調でアドルフが言う。
「そうか」
 父と母が頷くと、アドルフはソファから立ち上がった。
「そして、ブリジットを私の妻として娶るお許しをいただけますよう、お願いいたします」
 頭を下げるアドルフ。
 ブリジットも立ち上がって両親の方へ頭を下げた。

「もちろんそのつもりだ。ただ公爵家の方はどうなんだ?」
 アドルフの従兄弟に当たるサクソン公爵家の嫡男はアドルフより二つ歳上の二十二歳だった。
 アドルフの両親が死去した時、祖父がアドルフを「何の関係もない」と切り捨てたのは、その時すでに自身の後継の後継が存在していたからなのだ。
「…亡くなった従兄弟は、弟妹もいない独り子だったので、当主である祖父に随分とにされていたそうで…つまり少しでも危険な可能性のある行動は全て禁じられて、とても窮屈な思いをしていたそうです。そして幼い内に婚約者を決められ学園を卒業したら直ぐに結婚し後継をもうける事を決められていたそうで…」
「え?でもその従兄弟の方、独身でしたよね?」
 イライザが言うと、アドルフは頷く。
「ああ。従兄弟が学園を卒業する前に、祖父が脳溢血で倒れたんだそうだ。それで祖父に後遺症が残り、伯父上が爵位を継いだ。するとそれまで押さえ付けられていた従兄弟は反発し、婚約は解消。自由を満喫したくて『まだ結婚はしない』と言っていたんだそうだ」
「そうなんですか…」
「伯父上は自分が父に逆らえず、息子を伸び伸びと育ててやれなかった事を悔いておられた。だから私にしろ、エドモンド殿下にしろ、公爵家を継いでくれる者が選ぶ伴侶に口出しするつもりはないと仰いました」
 アドルフは父の方を見ながら言った。

「そうか。それなら良い」
 父が頷くと、母が口元に指を当てて言う。
「あら。現当主の伯父様は良い人のようだけど…ではアドルフに公爵家に戻れと言いに来た、あのいけ好かない使者は?前当主の遣いでしょう?今でも前当主の発言権が強いのなら、アドルフとブリジットをサクソン公爵家へやるのは心配だわ」
 確かに。お母様の言う通り、あのお祖父さんにお兄様とブリジットが虐められたりしたら嫌だわ。
 母の言葉にイライザもうんうんと頷いた。
「あの使者を差し向けたのは確かに祖父の独断だそうです。伯父上は時期を見てフォスター家の当主である父上へ正式に申し入れようとしていたらしいですが…しかしこの件を受けて、祖父の公爵家での権限を全て剥奪し、近侍の者も全員入れ替えたと」
「では、アドルフやブリジットが前公爵に傷付けられる恐れはないのね?」
「はい」
 アドルフが力強く頷く。
 イライザが「良かった」とブリジットを見ると、ブリジットは嬉しそうに笑った。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

処理中です...