16 / 57
15
しおりを挟む
15
「イアン」
「何でしょうか?」
「何で今年はイアン一人だったの?」
レイラの家から王都へ戻る馬車の中でミシェルは言った。
「ご不満ですか?」
ミシェルの斜め前の座席に座ったイアンが表情を変えずに言う。
「エマがいないと割と困るわ」
エマはミシェルより二歳上、子爵家の三女で、幼い頃からモーリス公爵家に住み込んでいるミシェル付きの侍女だ。
「レイラ様の侍女にお世話になれましたよね?」
「自分の侍女の方が良いわ。アンはよく気がつく侍女だけどやっぱり気を使うし」
「…では来年はエマを伴います」
「来年は来られないかも知れないわ」
「何故ですか?」
「私が学園を卒業したその次の年にはサイラス殿下との婚儀だもの。来年の長期休暇はその準備だから」
王族の婚儀は準備期間が長い。一年二年かかる事もよくある。更にサイラスは第一王子、いずれ王太子になる王子なのだから、準備もその分大変なのだ。
「……」
「サイラス殿下、転生者だから私が婚約破棄される事もなさそうだしね」
ミシェルはクスッと笑いながら思った。
サイラス殿下じゃなくて、カイル殿下が転生者なら良かったのにな。そうしたらレイラも私も辛くなかったのに。
-----
「レイラ様ぁ聞いてくださいよお」
「アリス様?」
秋期が始まり、学園の食堂で昼食を摂っているレイラとミシェルの元へアリスが小走りに近付いて来た。
「男爵令嬢である貴女が伯爵令嬢であるレイラ様に話し掛けるだなんて、許されませんわ」
アリスの後ろに同じく小走りでついて来たモニカが言った。
「ここは学園だから、身分とかないんですう」
ぷうっと頬を膨らませてアリスが言う。
ああやっぱりあざとかわいいな。それにしても、いつも思うけど、こんな話し掛けられ方する程アリスと親しくなってないと思うんだけど…
ゲームでは悪役令嬢の方からヒロインを苛めに行くけど、私はこっちからは行かないから向こうから来るのかしら?
「社交界に出てからじゃ改められないだろうから教えて差し上げているんですわ」
「卒業したらちゃんとできます!レイラ様、モニカ様にこの調子で付き纏われて迷惑なんです。何とかしてください」
「付き纏ってるって…失礼ね!」
レイラとミシェルの前でアリスとモニカはぎゃあぎゃあと言い合っている。
「二人とも少し静かに…」
ミシェルの言葉も無視して二人は言い合いを続ける。
公爵令嬢のミシェルを無視するなんて、モニカもモニカだわ。
広い食堂にいる全ての人がアリスとモニカに注目していた。
「いちいちモニカ様に『貴族とは』とか、教えられなくても大丈夫なんです!」
「何が大丈夫なのよ!?」
「だってカイル殿下が庇ってくださるもの!」
ピタリとモニカが固まる。
レイラとミシェルも一瞬動きが止まった。
「レイラ…」
ミシェルが心配そうにレイラを見る。
「あ…」
アリスは誰の前で何を言ったのかに気付いたようで、青褪めていた。
レイラは無言で席を立つ。
カタンと椅子の音が響いた。
「レ…レイラ様…」
「アリス様」
何かを言おうとするアリスに、レイラは笑顔を向ける。
「王子妃になるつもりなら最低限の貴族としてのマナーは身に付けた方がよろしいわ」
そう言うとレイラは食堂の出入口に向かって歩き出した。
すると、出入口からカイルと、レイラの兄ライアンが入って来た。
「レイラ…」
カイルとライアンが驚いた様子でレイラを見ている。
「あら、ライアンお兄様、お久しぶりですね」
レイラはニッコリ笑う。カイルの方は見ない。
「うう…カイル殿下…」
後ろからアリスの甘えたような泣き声が聞こえた。
やめてよ。泣きたいのはこっちだわ。
「アリス、どうしたんだ?」
意外にも先にアリスに駆け寄ったのはライアンだった。
カイルは黙ったままレイラを見ていた。
レイラはカイルを見ないまま、また出入口へ歩き出す。
カイルとすれ違おうかと言う時、カイルがレイラの腕を掴んだ。
「どうしてアリスが泣いているんだ?」
低い声。私がアリスに何かしたと思って怒ってるのね。
「ご本人にお聞きください」
「……」
「…カイル殿下なんて大嫌い」
レイラは小さな声で呟くと、カイルの手を振り払って食堂を出て行った。
「イアン」
「何でしょうか?」
「何で今年はイアン一人だったの?」
レイラの家から王都へ戻る馬車の中でミシェルは言った。
「ご不満ですか?」
ミシェルの斜め前の座席に座ったイアンが表情を変えずに言う。
「エマがいないと割と困るわ」
エマはミシェルより二歳上、子爵家の三女で、幼い頃からモーリス公爵家に住み込んでいるミシェル付きの侍女だ。
「レイラ様の侍女にお世話になれましたよね?」
「自分の侍女の方が良いわ。アンはよく気がつく侍女だけどやっぱり気を使うし」
「…では来年はエマを伴います」
「来年は来られないかも知れないわ」
「何故ですか?」
「私が学園を卒業したその次の年にはサイラス殿下との婚儀だもの。来年の長期休暇はその準備だから」
王族の婚儀は準備期間が長い。一年二年かかる事もよくある。更にサイラスは第一王子、いずれ王太子になる王子なのだから、準備もその分大変なのだ。
「……」
「サイラス殿下、転生者だから私が婚約破棄される事もなさそうだしね」
ミシェルはクスッと笑いながら思った。
サイラス殿下じゃなくて、カイル殿下が転生者なら良かったのにな。そうしたらレイラも私も辛くなかったのに。
-----
「レイラ様ぁ聞いてくださいよお」
「アリス様?」
秋期が始まり、学園の食堂で昼食を摂っているレイラとミシェルの元へアリスが小走りに近付いて来た。
「男爵令嬢である貴女が伯爵令嬢であるレイラ様に話し掛けるだなんて、許されませんわ」
アリスの後ろに同じく小走りでついて来たモニカが言った。
「ここは学園だから、身分とかないんですう」
ぷうっと頬を膨らませてアリスが言う。
ああやっぱりあざとかわいいな。それにしても、いつも思うけど、こんな話し掛けられ方する程アリスと親しくなってないと思うんだけど…
ゲームでは悪役令嬢の方からヒロインを苛めに行くけど、私はこっちからは行かないから向こうから来るのかしら?
「社交界に出てからじゃ改められないだろうから教えて差し上げているんですわ」
「卒業したらちゃんとできます!レイラ様、モニカ様にこの調子で付き纏われて迷惑なんです。何とかしてください」
「付き纏ってるって…失礼ね!」
レイラとミシェルの前でアリスとモニカはぎゃあぎゃあと言い合っている。
「二人とも少し静かに…」
ミシェルの言葉も無視して二人は言い合いを続ける。
公爵令嬢のミシェルを無視するなんて、モニカもモニカだわ。
広い食堂にいる全ての人がアリスとモニカに注目していた。
「いちいちモニカ様に『貴族とは』とか、教えられなくても大丈夫なんです!」
「何が大丈夫なのよ!?」
「だってカイル殿下が庇ってくださるもの!」
ピタリとモニカが固まる。
レイラとミシェルも一瞬動きが止まった。
「レイラ…」
ミシェルが心配そうにレイラを見る。
「あ…」
アリスは誰の前で何を言ったのかに気付いたようで、青褪めていた。
レイラは無言で席を立つ。
カタンと椅子の音が響いた。
「レ…レイラ様…」
「アリス様」
何かを言おうとするアリスに、レイラは笑顔を向ける。
「王子妃になるつもりなら最低限の貴族としてのマナーは身に付けた方がよろしいわ」
そう言うとレイラは食堂の出入口に向かって歩き出した。
すると、出入口からカイルと、レイラの兄ライアンが入って来た。
「レイラ…」
カイルとライアンが驚いた様子でレイラを見ている。
「あら、ライアンお兄様、お久しぶりですね」
レイラはニッコリ笑う。カイルの方は見ない。
「うう…カイル殿下…」
後ろからアリスの甘えたような泣き声が聞こえた。
やめてよ。泣きたいのはこっちだわ。
「アリス、どうしたんだ?」
意外にも先にアリスに駆け寄ったのはライアンだった。
カイルは黙ったままレイラを見ていた。
レイラはカイルを見ないまま、また出入口へ歩き出す。
カイルとすれ違おうかと言う時、カイルがレイラの腕を掴んだ。
「どうしてアリスが泣いているんだ?」
低い声。私がアリスに何かしたと思って怒ってるのね。
「ご本人にお聞きください」
「……」
「…カイル殿下なんて大嫌い」
レイラは小さな声で呟くと、カイルの手を振り払って食堂を出て行った。
7
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵令息から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
私の存在
戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。
何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。
しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。
しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
