17 / 57
16
しおりを挟む
16
「カイル殿下、妹が申し訳ありません」
生徒会室でライアンがカイルに頭を下げた。
「ライアン…いやハミルトン先生が謝る謂れはない」
「しかし」
「それにレイラはアリスに特に何もしていなかったではないか」
よく事情を聞くと、むしろアリスの方がレイラの神経を逆撫でするような事を言っていたのだ。
「殿下?」
「…ハミルトン先生は良いのか?アリスを好きなんだろう?」
「私はアリスがカイル殿下を望むなら、後押しをする。それだけです」
「フレディも同じような事を言っていたな」
「アンソニー君も、サミュエル君も同じ気持ちですよ。殿下」
殿下、か。
昔はこのライアンの事も兄上と同じようにライアン兄様と呼んで慕っていた。ライアンも、その兄ライナスと一緒に弟のようにカイルを扱い、かわいがってくれていた。しかし年月が経つと、王子と臣下の立場が固まり、ライアンもライナスもレイラもカイルを「殿下」と呼ぶ。
それでもライアンはカイルの兄サイラスと同じ歳で、二人の時は昔のように気さくに話すらしい。
今日レイラに「カイル殿下なんて大嫌い」と言われた。振り絞るような小さな声だった。カイルに聞こえても良いが、本当は聞かせるつもりはなかったのかも知れない。
この間は「カイルなんて大嫌い」と言っていたが、今日は呼び捨てではなかった。
兄上の言うように、敬称を外して呼ばれるのはあれが最後になるのか?
いや、それで何の問題もないじゃないか。
「幼なじみと婚約者様にまで一線を引かれる立場だなんて、カイル殿下かわいそう…」
そう言って涙ぐんだのはアリスだ。
「私も男爵家に引き取られてから、それまでのお友達に線を引かれたんです。『貴族様とは世界が違うんだ』って。…淋しかった」
「アリス…」
「カイル殿下も淋しかったんですよね?」
うるうると潤んだ青い瞳。俺の手に小さな手が重ねられる。
…ああ、そうだ。
湖に落ちた時、助けてくれた大人も、駆け寄って来た大人も、兄上を取り囲んだ。俺の周りには数人しかいない。
兄上は第一王子だ。俺は第二王子。当たり前だ。
そう思っていたら、レイラが真っ直ぐに俺に駆け寄って来たんだ。俺の名を呼び、泣きながら。
でもそのレイラも、今は俺に…王家に対して線を引いている。
そうだ。俺はずっと淋しかった。
丁寧に、儀礼的に接される度、必要なのは「カイル」ではなく「第二王子」だと言われているように感じた。
アリスは俺の気持ちを判ってくれる。アリスだけが…
-----
「前世の事?」
サイラスが言うと、向かいのソファに座るミシェルが
「ええ」
と頷く。
「サイラス殿下は前世の事、どのくらい覚えておられます?」
「どうした?急に」
「前にうちのイアンもこの世界へ生まれ変わって来た元ニホンジンだってお話しましたよね?」
「ああ。ミシェルに『前世の記憶があるんですか?』っていきなり聞かれた時だな」
「よく考えたらかなり不躾でしたね。私」
ミシェルはふふふと笑いながらお茶を飲む。
「いや、俺はミシェルのそういう処、気に入ってるぞ」
「あら。ありがとうございます。それで、イアンは前世では両親と姉の四人暮らしで、姉にゲームをやらされてたのを覚えてると言うんです。後、二十五歳でサラリーマン?をしてて、事故で亡くなったんだ、と。この世界では『スマホがあれば…』とよく思うらしいです」
「ああ、スマホは俺も欲しいな」
「そんなに便利なんですか?スマホって」
「スマホと言うか、ネット環境かな。便利なのは」
「ネット?」
小首を傾げるミシェル。サイラスは笑う。
「そのスマホでゲームをしてたってイアンは言うんですけど、どうも私には想像つかなくて。サイラス殿下はゲームなどしておられました?」
「ゲームはあまり…暇つぶしにパズルくらいか」
「恋愛シミュレーションゲームは?イアンはよく姉に『進めておいて』って押し付けられてたらしいですけど」
「いやあ。ないなあ」
「そうなんですか」
なるほど、サイラス殿下は「恋する生徒会2」は知らないって事ね。
「…俺は高校生の時だったな。亡くなったの」
「こうこう?」
「ここで言う学園のような、高等教育機関だ。学園とは違い三年制だが十八で卒業するのは一緒だな。その三年の時、病気で」
「十八で…」
「ずっと好きだった幼なじみの女の子に告白して、両想いになって、少し経った頃に病気が判ったんだ。悔しかったな…あの時は」
サイラスは少し遠くを見るようにして言う。
「幼なじみの女の子…」
「…まあ、俺は『幼なじみの女の子』とは縁がない運命なんだろう」
サイラスは少し目を伏せ、苦く笑う。
あ。
今のは多分レイラの事だわ。
サイラス殿下、レイラの事……
「カイル殿下、妹が申し訳ありません」
生徒会室でライアンがカイルに頭を下げた。
「ライアン…いやハミルトン先生が謝る謂れはない」
「しかし」
「それにレイラはアリスに特に何もしていなかったではないか」
よく事情を聞くと、むしろアリスの方がレイラの神経を逆撫でするような事を言っていたのだ。
「殿下?」
「…ハミルトン先生は良いのか?アリスを好きなんだろう?」
「私はアリスがカイル殿下を望むなら、後押しをする。それだけです」
「フレディも同じような事を言っていたな」
「アンソニー君も、サミュエル君も同じ気持ちですよ。殿下」
殿下、か。
昔はこのライアンの事も兄上と同じようにライアン兄様と呼んで慕っていた。ライアンも、その兄ライナスと一緒に弟のようにカイルを扱い、かわいがってくれていた。しかし年月が経つと、王子と臣下の立場が固まり、ライアンもライナスもレイラもカイルを「殿下」と呼ぶ。
それでもライアンはカイルの兄サイラスと同じ歳で、二人の時は昔のように気さくに話すらしい。
今日レイラに「カイル殿下なんて大嫌い」と言われた。振り絞るような小さな声だった。カイルに聞こえても良いが、本当は聞かせるつもりはなかったのかも知れない。
この間は「カイルなんて大嫌い」と言っていたが、今日は呼び捨てではなかった。
兄上の言うように、敬称を外して呼ばれるのはあれが最後になるのか?
いや、それで何の問題もないじゃないか。
「幼なじみと婚約者様にまで一線を引かれる立場だなんて、カイル殿下かわいそう…」
そう言って涙ぐんだのはアリスだ。
「私も男爵家に引き取られてから、それまでのお友達に線を引かれたんです。『貴族様とは世界が違うんだ』って。…淋しかった」
「アリス…」
「カイル殿下も淋しかったんですよね?」
うるうると潤んだ青い瞳。俺の手に小さな手が重ねられる。
…ああ、そうだ。
湖に落ちた時、助けてくれた大人も、駆け寄って来た大人も、兄上を取り囲んだ。俺の周りには数人しかいない。
兄上は第一王子だ。俺は第二王子。当たり前だ。
そう思っていたら、レイラが真っ直ぐに俺に駆け寄って来たんだ。俺の名を呼び、泣きながら。
でもそのレイラも、今は俺に…王家に対して線を引いている。
そうだ。俺はずっと淋しかった。
丁寧に、儀礼的に接される度、必要なのは「カイル」ではなく「第二王子」だと言われているように感じた。
アリスは俺の気持ちを判ってくれる。アリスだけが…
-----
「前世の事?」
サイラスが言うと、向かいのソファに座るミシェルが
「ええ」
と頷く。
「サイラス殿下は前世の事、どのくらい覚えておられます?」
「どうした?急に」
「前にうちのイアンもこの世界へ生まれ変わって来た元ニホンジンだってお話しましたよね?」
「ああ。ミシェルに『前世の記憶があるんですか?』っていきなり聞かれた時だな」
「よく考えたらかなり不躾でしたね。私」
ミシェルはふふふと笑いながらお茶を飲む。
「いや、俺はミシェルのそういう処、気に入ってるぞ」
「あら。ありがとうございます。それで、イアンは前世では両親と姉の四人暮らしで、姉にゲームをやらされてたのを覚えてると言うんです。後、二十五歳でサラリーマン?をしてて、事故で亡くなったんだ、と。この世界では『スマホがあれば…』とよく思うらしいです」
「ああ、スマホは俺も欲しいな」
「そんなに便利なんですか?スマホって」
「スマホと言うか、ネット環境かな。便利なのは」
「ネット?」
小首を傾げるミシェル。サイラスは笑う。
「そのスマホでゲームをしてたってイアンは言うんですけど、どうも私には想像つかなくて。サイラス殿下はゲームなどしておられました?」
「ゲームはあまり…暇つぶしにパズルくらいか」
「恋愛シミュレーションゲームは?イアンはよく姉に『進めておいて』って押し付けられてたらしいですけど」
「いやあ。ないなあ」
「そうなんですか」
なるほど、サイラス殿下は「恋する生徒会2」は知らないって事ね。
「…俺は高校生の時だったな。亡くなったの」
「こうこう?」
「ここで言う学園のような、高等教育機関だ。学園とは違い三年制だが十八で卒業するのは一緒だな。その三年の時、病気で」
「十八で…」
「ずっと好きだった幼なじみの女の子に告白して、両想いになって、少し経った頃に病気が判ったんだ。悔しかったな…あの時は」
サイラスは少し遠くを見るようにして言う。
「幼なじみの女の子…」
「…まあ、俺は『幼なじみの女の子』とは縁がない運命なんだろう」
サイラスは少し目を伏せ、苦く笑う。
あ。
今のは多分レイラの事だわ。
サイラス殿下、レイラの事……
8
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵令息から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
私の存在
戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。
何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。
しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。
しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる