37 / 57
36
しおりを挟む
36
「弟だけでも良かったのに、貴女も貴族令嬢にしてあげたんだから、貴女にはヴィーナス男爵家の役に立ってもらわなくちゃね」
ヴィーナス男爵の愛人だったアリスの母が亡くなり、弟と共に父の元に引き取られたアリス。初めて会った男爵の妻は、義理の娘であるアリスにそう言った。
「役に立つ…?」
「ええ、そうよ。でも大丈夫。貴女は『ヒロイン』なんだから」
義母は楽しそうに笑う。
「ヒロイン?」
「やっぱり第一王子が良いかしらね。公爵家の養女になって、後の王太子妃、王妃だもの。ヴィーナス男爵家も公爵家からも王家からも引き立ててもらえるものね」
「王太子妃?何を…」
「第二王子も良いわ。王妃はさすがに庶民育ちの娘じゃあ国民が受け入れないかも知れないけれど、第二王子妃ならそんなに表に出る事はないし。男爵家が王家との縁を得られるのは大きな利点だもの」
義理の娘に与えた豪奢な部屋で義母は歌うように言う。
「侯爵家の次男は、次男だから侯爵は継げないけれど、後には宰相になるから安泰だし、子爵家の長男も近衛騎士になればエリートコースだものね。公爵家の執事は使用人だけど貴女の弟の相談役としてヴィーナス男爵家を盛り立ててくれるし、宝石販売店の息子は何しろ大金持ちよ。顧問の教師はハミルトン伯爵家の次男だもの。ハミルトン家は表向きは一線引いていても、実はどの貴族より王家に近い存在なのよ」
「……」
アリスは呆然として義母を見る。
…この人は何を言ってるんだろう?
「あら、不安気な顔ね」
「あの…」
「大丈夫よ。貴女、ヒロインだから。あの女の存在を知った時にはもう貴女が生まれていたけど、貴女のそのピンクの髪と青い瞳を見て、そして名前を聞いて、判ったの」
あの女って母さんの事?
「その時、私には子が生まれない事も、あの女が次に男子を生む事も判ったわ。正確には、思い出したの」
「思い出した?」
「そう。ここが『恋する生徒会2』の世界で、貴女がヒロインだと」
「恋する…?」
義母はソファから立ち上がると、アリスの前に立つ。
そして、扇をアリスの顎の下に当て、アリスを上に向かせた。
「見れば見るほどあの女にそっくりね」
憎しみの篭った眼でアリスを見る義母。
アリスの背筋にゾクリと寒感が走った。
「旦那様から愛人と子供の存在を告げられた時、私は初めて知った風に物凄く驚いてそして嘆いたわ。あの女が病で長くないと言われて、もしもの時は貴女と弟を男爵家に引き取りましょうと提案したのは私なの。これで私は『旦那様を愛する寛容で理解のある健気な妻』の座を手に入れたわ」
「……」
「でもね。私、知っていたの。あの女が病で亡くなる事。だから愛人の存在を知らぬ振りをしていたのよ」
義母はニコリと笑う。
-----
「貴女がその中の誰かを選べば、必ずその人に愛されて、結ばれるわ」
「かな、らず?」
「そう。必ず。まあその前にその人の婚約者や恋人に苛められるけど」
「婚約者や恋人…?」
婚約者や恋人がいる人なのに、私が必ず愛されて、結ばれるの?
「そうよ。どんな女にどんなに苛められても大丈夫。むしろ積極的に苛められて男性たちの好感度を手に入れなさい。どんな事をされても最後には貴女と結ばれるんだから、スパイスのような物よ。…それに他人の男を奪うのは得意でしょう?あの女の娘ですものね」
義母は扇でアリスの頬をピタピタと叩いた。
「誰を選んでも男爵家に利はあるけど、やはり第一王子を狙いなさいな。第一王子が駄目なら第二王子よ。庶民出の愛人の娘が王族の仲間入りするなんて、最高に皮肉で、最高に楽しいじゃないの」
義母は紙を取り出し「第一王子サイラス・ルーセント」と書く。続けて「生徒会長カイル・ルーセント」から副会長、会計…と、攻略対象者全員の名前を書くと、アリスへ差し出した。
「……」
アリスは小さく震える手で義母の差し出した紙を受け取る。
「愛人の娘にこんな豪華な部屋を与えて、着飾らせて、学園にも通わせて、更に高貴な男性と結ばれる事をわざわざ教えてあげるなんて…私って『優しくて子供思いな母親』よね?」
扇を広げて口元を隠しながら、義母は艶やかに笑った。
「弟だけでも良かったのに、貴女も貴族令嬢にしてあげたんだから、貴女にはヴィーナス男爵家の役に立ってもらわなくちゃね」
ヴィーナス男爵の愛人だったアリスの母が亡くなり、弟と共に父の元に引き取られたアリス。初めて会った男爵の妻は、義理の娘であるアリスにそう言った。
「役に立つ…?」
「ええ、そうよ。でも大丈夫。貴女は『ヒロイン』なんだから」
義母は楽しそうに笑う。
「ヒロイン?」
「やっぱり第一王子が良いかしらね。公爵家の養女になって、後の王太子妃、王妃だもの。ヴィーナス男爵家も公爵家からも王家からも引き立ててもらえるものね」
「王太子妃?何を…」
「第二王子も良いわ。王妃はさすがに庶民育ちの娘じゃあ国民が受け入れないかも知れないけれど、第二王子妃ならそんなに表に出る事はないし。男爵家が王家との縁を得られるのは大きな利点だもの」
義理の娘に与えた豪奢な部屋で義母は歌うように言う。
「侯爵家の次男は、次男だから侯爵は継げないけれど、後には宰相になるから安泰だし、子爵家の長男も近衛騎士になればエリートコースだものね。公爵家の執事は使用人だけど貴女の弟の相談役としてヴィーナス男爵家を盛り立ててくれるし、宝石販売店の息子は何しろ大金持ちよ。顧問の教師はハミルトン伯爵家の次男だもの。ハミルトン家は表向きは一線引いていても、実はどの貴族より王家に近い存在なのよ」
「……」
アリスは呆然として義母を見る。
…この人は何を言ってるんだろう?
「あら、不安気な顔ね」
「あの…」
「大丈夫よ。貴女、ヒロインだから。あの女の存在を知った時にはもう貴女が生まれていたけど、貴女のそのピンクの髪と青い瞳を見て、そして名前を聞いて、判ったの」
あの女って母さんの事?
「その時、私には子が生まれない事も、あの女が次に男子を生む事も判ったわ。正確には、思い出したの」
「思い出した?」
「そう。ここが『恋する生徒会2』の世界で、貴女がヒロインだと」
「恋する…?」
義母はソファから立ち上がると、アリスの前に立つ。
そして、扇をアリスの顎の下に当て、アリスを上に向かせた。
「見れば見るほどあの女にそっくりね」
憎しみの篭った眼でアリスを見る義母。
アリスの背筋にゾクリと寒感が走った。
「旦那様から愛人と子供の存在を告げられた時、私は初めて知った風に物凄く驚いてそして嘆いたわ。あの女が病で長くないと言われて、もしもの時は貴女と弟を男爵家に引き取りましょうと提案したのは私なの。これで私は『旦那様を愛する寛容で理解のある健気な妻』の座を手に入れたわ」
「……」
「でもね。私、知っていたの。あの女が病で亡くなる事。だから愛人の存在を知らぬ振りをしていたのよ」
義母はニコリと笑う。
-----
「貴女がその中の誰かを選べば、必ずその人に愛されて、結ばれるわ」
「かな、らず?」
「そう。必ず。まあその前にその人の婚約者や恋人に苛められるけど」
「婚約者や恋人…?」
婚約者や恋人がいる人なのに、私が必ず愛されて、結ばれるの?
「そうよ。どんな女にどんなに苛められても大丈夫。むしろ積極的に苛められて男性たちの好感度を手に入れなさい。どんな事をされても最後には貴女と結ばれるんだから、スパイスのような物よ。…それに他人の男を奪うのは得意でしょう?あの女の娘ですものね」
義母は扇でアリスの頬をピタピタと叩いた。
「誰を選んでも男爵家に利はあるけど、やはり第一王子を狙いなさいな。第一王子が駄目なら第二王子よ。庶民出の愛人の娘が王族の仲間入りするなんて、最高に皮肉で、最高に楽しいじゃないの」
義母は紙を取り出し「第一王子サイラス・ルーセント」と書く。続けて「生徒会長カイル・ルーセント」から副会長、会計…と、攻略対象者全員の名前を書くと、アリスへ差し出した。
「……」
アリスは小さく震える手で義母の差し出した紙を受け取る。
「愛人の娘にこんな豪華な部屋を与えて、着飾らせて、学園にも通わせて、更に高貴な男性と結ばれる事をわざわざ教えてあげるなんて…私って『優しくて子供思いな母親』よね?」
扇を広げて口元を隠しながら、義母は艶やかに笑った。
7
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵令息から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
私の存在
戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。
何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。
しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。
しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる