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番外編1-3
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「え?え?」
俺の腕の中で困惑するエマ。
小さい。細い。いい匂いがする。かわいい。色々な感情が胸の中で渦巻いた。
「エマ、済まない。俺も溢れた」
「え?」
「エマが俺を慕ってくれているのは、俺が王子だからだろう?でも俺はそんなに出来た人間じゃないんだ。好きな娘はこうして抱きしめて口付けたいと考える、ただの男だ」
ああ、言ってしまった。
俺はエマを逃がさないように、抱きしめる腕に更に力を入れた。
「サイラス殿下…」
「…うん」
「私が殿下をお慕いしているのは、王子だからではないんです」
「ん?」
「…ミシェル様と婚約されて、初めて公爵邸に来られた時、あの…不敬なんですけど、夢に出てくる男の子だと思ってしまって…あの、ある意味一目惚れのような…」
「夢?」
少し腕を緩めて上からエマの顔を覗き込む。
上目遣いに俺を見るエマと目が合う。エマの赤く染まった頬に涙の流れた跡がある。ああ…そこにキスをしたい。
「はい。あの…小さい頃から同じ夢をずっと見ていまして…私は幼なじみの男の子がずっと好きで、やっと思いが通じた途端にその男の子が病気になって亡くなってしまうって言う夢なんですけど」
「……え?」
幼なじみの男の子?思いが通じた途端に病気になる?
「あの、姿形は似ていないんです。ただ、殿下を初めて拝見した時、その男の子と重なってしまって…それから、ずっと殿下の事が気になると言うか…本当に不敬なんですけど…」
「エマ!」
「はい!?」
「エマ…」
こんな、都合の良い展開があって良いのか?
俺はエマを強く強く抱きしめた。
-----
あ、あの男の子だ。
ご婚約後、初めて公爵邸にサイラス殿下が来られた時、ミシェル様付きの侍女や側付き、メイドが集められ、殿下からご挨拶を頂いた。その時、私は何故かそう思った。
昔からよく見る夢に出てくる幼なじみの男の子。
実際の私には仲良しの幼なじみなんていないのだけど。
学園で、王宮で、公爵邸で、サイラス殿下をお見掛けする度に目で追ってしまう。
この気持ちは、言うなれば舞台役者や歌手やお気に入りの作家や…そう言う者を愛好しているのと同じ心理よ。そう思っていた。そう、思い込もうとしていた。ううん、そうでなくてはいけなかった。
主人の婚約者に、しかも第一王子に、こんな下世話な想いを抱くなんてあり得ない。
婚約された頃にはミシェル様付きの側付きだった私も、数年後には侍女になって、ミシェル様が王宮に上がる時には伴って行ける事になった。
うれしい。ずっと大好きなミシェル様と一緒に居られる。でもそれは、お二人の結婚生活を一番近くで見ると言う事で…
胸が痛い。
好きな役者が結婚したと聞いても胸は痛むわ。そう自分に言い聞かせる。
レイラ様の転落事故の後、お見舞いに訪ねてくださるサイラス殿下と話す機会が増えた。
ミシェル様がイアンに会いたいと言われているので、イアンの行方をご存知ないかと尋ねた時は少し動揺されていたようで、誤解させてしまって申し訳ない気持ちで一杯になった。
ミシェル様がサイラス殿下と会われて、ご自分が咎人だと言われた時は辛かった。
その日、旦那様とお会いになったサイラス殿下を玄関ホールまでお送りしていた時、殿下が私を呼んで振り向かれた。こんな事初めてで、トクンッと心臓が跳ねた。「エマは結婚しているのか?」と聞かれたので「いいえ」と答えると「恋人は?」とまた聞かれた。一体何を聞かれているんだろうと思いながら「いません」と答えると、クスッとお笑いになったの。
話す機会は増えても、私個人の事に触れられたのは初めてで。
名前を呼ばれて、私だけに笑顔を向けてくださった…
ミシェル様とサイラス殿下の婚約解消が決まった時、ミシェル様の安心したような表情や、サイラス殿下がミシェル様に向けた優しい笑顔を思い出して、胸の中がぐちゃぐちゃで涙が止まらなかった。
玄関ホールへ殿下をお送りしていると、前を向いたままの殿下が「俺がこうしてモーリス公爵邸を訪れる事はもうないし、ミシェルが個人的に王宮に来る事ももうないだろう。だからこうして会う事はなくなるな」と言われて…
そうだわ。…ミシェル様付きの侍女である私がサイラス殿下にお会いする機会など、もうないんだ…
先程までと違う涙が一気に溢れて、思わず足を止めた。
サイラス殿下が振り向いて、私の前まで戻って来てくださる。
「サイラス殿下…お慕い…しています…」
思わず言ってしまった。
一気に血の気が引いた。言ってはいけない事を言ってしまった。王子に不埒な思いを向けるだけでなく、それをぶつけてしまうなんて!
慌てる私の手にサイラス殿下の手が触れた。
殿下の手が!私の手に!手袋越しでも手の大きさと温もりが伝わる!
狼狽える私の手を、殿下が引いて…
気がつけば私は殿下の腕の中にいた。
-----
「夢の中の男の子ですか?」
王宮の俺の部屋で、ソファで隣に座るエマ。
公爵家の養女になり、先日俺との婚約と婚儀の日が公表された、俺の婚約者。
「サイラス様、私の夢の話お好きですよね」
「ああ」
エマの口から前世の俺が語られるのが嬉しくて、何度もその話をしてもらっていた。
エマにはその夢を見る以外の前世の記憶はないようだ。
「それが…最近はその夢を見なくなったんです」
「そうなのか?」
「思い起こせば…サイラス様の妃になると決意した頃から見ていない気がします」
「そうか」
前世のエマの心残りがなくなったから、だろうか?
そうなら良い。
エマの下ろした髪の毛を一束手に取る。侍女の頃は後ろで一纏めにしている髪型しか見た事なかったな。
手に取った髪を唇を寄せる。
髪の先に口付けると、エマが頬を染めた。
「…自分の好きになった娘が自分を好きになってくれて、更にその娘を妃にできるなんて、俺は幸運だな」
「サイラス様…」
エマの頬と耳が朱に染まる。
なんてかわいいんだろう。
「幸運なのは私の方です」
そう呟くエマを腕に閉じ込めた。
「え?え?」
俺の腕の中で困惑するエマ。
小さい。細い。いい匂いがする。かわいい。色々な感情が胸の中で渦巻いた。
「エマ、済まない。俺も溢れた」
「え?」
「エマが俺を慕ってくれているのは、俺が王子だからだろう?でも俺はそんなに出来た人間じゃないんだ。好きな娘はこうして抱きしめて口付けたいと考える、ただの男だ」
ああ、言ってしまった。
俺はエマを逃がさないように、抱きしめる腕に更に力を入れた。
「サイラス殿下…」
「…うん」
「私が殿下をお慕いしているのは、王子だからではないんです」
「ん?」
「…ミシェル様と婚約されて、初めて公爵邸に来られた時、あの…不敬なんですけど、夢に出てくる男の子だと思ってしまって…あの、ある意味一目惚れのような…」
「夢?」
少し腕を緩めて上からエマの顔を覗き込む。
上目遣いに俺を見るエマと目が合う。エマの赤く染まった頬に涙の流れた跡がある。ああ…そこにキスをしたい。
「はい。あの…小さい頃から同じ夢をずっと見ていまして…私は幼なじみの男の子がずっと好きで、やっと思いが通じた途端にその男の子が病気になって亡くなってしまうって言う夢なんですけど」
「……え?」
幼なじみの男の子?思いが通じた途端に病気になる?
「あの、姿形は似ていないんです。ただ、殿下を初めて拝見した時、その男の子と重なってしまって…それから、ずっと殿下の事が気になると言うか…本当に不敬なんですけど…」
「エマ!」
「はい!?」
「エマ…」
こんな、都合の良い展開があって良いのか?
俺はエマを強く強く抱きしめた。
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あ、あの男の子だ。
ご婚約後、初めて公爵邸にサイラス殿下が来られた時、ミシェル様付きの侍女や側付き、メイドが集められ、殿下からご挨拶を頂いた。その時、私は何故かそう思った。
昔からよく見る夢に出てくる幼なじみの男の子。
実際の私には仲良しの幼なじみなんていないのだけど。
学園で、王宮で、公爵邸で、サイラス殿下をお見掛けする度に目で追ってしまう。
この気持ちは、言うなれば舞台役者や歌手やお気に入りの作家や…そう言う者を愛好しているのと同じ心理よ。そう思っていた。そう、思い込もうとしていた。ううん、そうでなくてはいけなかった。
主人の婚約者に、しかも第一王子に、こんな下世話な想いを抱くなんてあり得ない。
婚約された頃にはミシェル様付きの側付きだった私も、数年後には侍女になって、ミシェル様が王宮に上がる時には伴って行ける事になった。
うれしい。ずっと大好きなミシェル様と一緒に居られる。でもそれは、お二人の結婚生活を一番近くで見ると言う事で…
胸が痛い。
好きな役者が結婚したと聞いても胸は痛むわ。そう自分に言い聞かせる。
レイラ様の転落事故の後、お見舞いに訪ねてくださるサイラス殿下と話す機会が増えた。
ミシェル様がイアンに会いたいと言われているので、イアンの行方をご存知ないかと尋ねた時は少し動揺されていたようで、誤解させてしまって申し訳ない気持ちで一杯になった。
ミシェル様がサイラス殿下と会われて、ご自分が咎人だと言われた時は辛かった。
その日、旦那様とお会いになったサイラス殿下を玄関ホールまでお送りしていた時、殿下が私を呼んで振り向かれた。こんな事初めてで、トクンッと心臓が跳ねた。「エマは結婚しているのか?」と聞かれたので「いいえ」と答えると「恋人は?」とまた聞かれた。一体何を聞かれているんだろうと思いながら「いません」と答えると、クスッとお笑いになったの。
話す機会は増えても、私個人の事に触れられたのは初めてで。
名前を呼ばれて、私だけに笑顔を向けてくださった…
ミシェル様とサイラス殿下の婚約解消が決まった時、ミシェル様の安心したような表情や、サイラス殿下がミシェル様に向けた優しい笑顔を思い出して、胸の中がぐちゃぐちゃで涙が止まらなかった。
玄関ホールへ殿下をお送りしていると、前を向いたままの殿下が「俺がこうしてモーリス公爵邸を訪れる事はもうないし、ミシェルが個人的に王宮に来る事ももうないだろう。だからこうして会う事はなくなるな」と言われて…
そうだわ。…ミシェル様付きの侍女である私がサイラス殿下にお会いする機会など、もうないんだ…
先程までと違う涙が一気に溢れて、思わず足を止めた。
サイラス殿下が振り向いて、私の前まで戻って来てくださる。
「サイラス殿下…お慕い…しています…」
思わず言ってしまった。
一気に血の気が引いた。言ってはいけない事を言ってしまった。王子に不埒な思いを向けるだけでなく、それをぶつけてしまうなんて!
慌てる私の手にサイラス殿下の手が触れた。
殿下の手が!私の手に!手袋越しでも手の大きさと温もりが伝わる!
狼狽える私の手を、殿下が引いて…
気がつけば私は殿下の腕の中にいた。
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「夢の中の男の子ですか?」
王宮の俺の部屋で、ソファで隣に座るエマ。
公爵家の養女になり、先日俺との婚約と婚儀の日が公表された、俺の婚約者。
「サイラス様、私の夢の話お好きですよね」
「ああ」
エマの口から前世の俺が語られるのが嬉しくて、何度もその話をしてもらっていた。
エマにはその夢を見る以外の前世の記憶はないようだ。
「それが…最近はその夢を見なくなったんです」
「そうなのか?」
「思い起こせば…サイラス様の妃になると決意した頃から見ていない気がします」
「そうか」
前世のエマの心残りがなくなったから、だろうか?
そうなら良い。
エマの下ろした髪の毛を一束手に取る。侍女の頃は後ろで一纏めにしている髪型しか見た事なかったな。
手に取った髪を唇を寄せる。
髪の先に口付けると、エマが頬を染めた。
「…自分の好きになった娘が自分を好きになってくれて、更にその娘を妃にできるなんて、俺は幸運だな」
「サイラス様…」
エマの頬と耳が朱に染まる。
なんてかわいいんだろう。
「幸運なのは私の方です」
そう呟くエマを腕に閉じ込めた。
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