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番外編2-1
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「もう!しつこい!」
「キャロライン、話を聞いて!」
「もう聞いたわ。『キャロラインの忠告を無視してごめん』『また恋人として付き合ってくれないか』でしょ?何度言われても答えは『否』だわ」
休みの日の王城の図書館で、キャロラインはライアンの隣の席から立ち上がった。
「キャロライン…」
ライアンは席に座ったままキャロラインを見上げる。
「私は本を読みたいんだから邪魔しないで」
キャロラインはライアンを見下ろすと、ツカツカと本の棚の間に入って行く。そして本を何冊か持って、ライアンとは離れた席に座った。
「はあ…」
ライアンはため息を吐くと、手元の本を読む振りをしながらキャロラインの姿を眺めた。
分厚い眼鏡に無造作に束ねた髪。
学園の図書館で知り合った頃と変わりない。
「何で俺は…」
あんなにアリスを好きだと思ったんだろう。
いや、キャロラインは俺がアリスを好きになった事に対して怒っている訳じゃない。俺がキャロラインの忠告を無視した…キャロラインを信じようとしなかった事に失望したんだ。
「キャロライン」
「あら、トマス。どうしたのこんな所で」
ライアンの知らない男性がキャロラインに声を掛ける。
誰だ?
トマスと呼ばれた男性は、黒髪で背の高い美青年。
「本を借りに来たんだ。キャロラインは?」
キャロライン…って呼び捨て?キャロラインもトマスってファーストネームを呼び捨ててたな。
「本を読みに来ただけよ」
「相変わらず本の虫なんだな。休みなのに」
そう言いながらトマスはキャロラインの隣に座った。
「トマスもでしょ?」
「まあな」
キャロラインは本に視線を落とした。トマスも持っていた本をパラパラとめくる。
そのまま二人は黙ってそれぞれ自分の本を読んでいた。
キャロラインに、俺以外に呼び捨てにする程親しい男がいたなんて…
暫く経って、トマスが席を立つ。
キャロラインがトマスに視線を向けると、トマスは
「またな」
とキャロラインの頭をポンと叩いて去って行った。
触っ…た。
ライアンは食い入るようにキャロラインを見る。キャロラインはトマスに小さく手を振ると、また本に視線を落とした。
ライアンはすぐに席を立ってキャロラインに「あの男は誰だ」と聞きたい気持ちをぐっと抑える。
もしかして、あの男がキャロラインの新しい恋人?いや恋人ではなくてもキャロラインが好意を持っているのかも。
どちらにせよキャロラインが隣に座られるのも、頭を触られるのも嫌そうではなかったから親しいのは確かだ。
ライアンが開いたままの本を睨みながら考えていると
「帰るわよ」
そうキャロラインの声が聞こえた。
顔を上げるとキャロラインが前に立っている。
「キャロライン…あの…」
「帰るわ。ライアンはまだいるの?」
「…いや、俺も帰る」
一緒に図書館を出て王城の門へと並んで歩く。
強制力が働く前にはよくここでキャロラインと手を繋いだな。キャロラインから繋いで来る事はなかったけど、俺から手を握ると握り返してくれたっけ。
キャロラインが住むのは史学研究所の寮だ。王城からも近く、ライアンの住むフラットまでは徒歩で五分もかからない。もちろんキャロラインの近くにいたいライアンがそこを選んだのだ。
ああもうすぐ寮に着いてしまう。
「さっきの、あの男の人は…」
意を決して言うと、キャロラインはライアンを見上げた。
「トマス?学園の史学研究会の先輩よ」
「よっ呼び…」
呼び捨てなのはどうして?と言い掛けた時、もう目の前になった寮から女性が一人駆け出て来る。
「キャロライン様~」
「あら、レベッカ。来てたの?」
「え?レベッカ・ハイアット?」
レベッカは、走って来た勢いのままキャロラインの首に抱きつく。
「はい!頼まれていた本が入って来たので早くお届けしたくて!…ハミルトン先生まだキャロライン様に付き纏っているんですか?」
「付き纏ってる!?」
レベッカは商家の娘で「恋する生徒会2」での悪役令嬢の一人、今学園の三年生で学園の史学研究会に入っている。
史学研究会はキャロラインが学園時代に加入していた部活動で、部活動の中でもOBの出入りが多い。特に史学研究所に勤めるキャロラインは研究所から文献を貸し出したりしているので、現役生もよく知っているのだ。
「キャロライン様はもうハミルトン先生とお付き合いする気はないんですから、それでもしつこく会いに来るのを付き纏ってるって言わなきゃ何て言うんですか?」
「……」
「レベッカ、余計な事言わないで」
キャロラインは首に抱きついたレベッカの腕を外しながら言う。
「……」
「外国の本をレベッカの家に注文してて…ライアン?」
キャロラインはレベッカに俺と付き合う気はないと話しているのか。俺に付き纏われて迷惑だと…話しているのか?
俯くライアンの腕にキャロラインが手をやろうとすると遮るようにレベッカが言う。
「キャロライン様!例の物ももうすぐ取り寄せられますから!届いたらすぐに持って来ますね!さあ、本はお部屋に置いて来たので、早く入りましょう!」
キャロラインの手をぐいっと引く。
「ライアン?」
「…ああ、じゃあまたな。キャロライン」
ライアンは笑顔を浮かべると踵を返す。
「うん」
そのまま振り向かずに帰って行った。
「もう!しつこい!」
「キャロライン、話を聞いて!」
「もう聞いたわ。『キャロラインの忠告を無視してごめん』『また恋人として付き合ってくれないか』でしょ?何度言われても答えは『否』だわ」
休みの日の王城の図書館で、キャロラインはライアンの隣の席から立ち上がった。
「キャロライン…」
ライアンは席に座ったままキャロラインを見上げる。
「私は本を読みたいんだから邪魔しないで」
キャロラインはライアンを見下ろすと、ツカツカと本の棚の間に入って行く。そして本を何冊か持って、ライアンとは離れた席に座った。
「はあ…」
ライアンはため息を吐くと、手元の本を読む振りをしながらキャロラインの姿を眺めた。
分厚い眼鏡に無造作に束ねた髪。
学園の図書館で知り合った頃と変わりない。
「何で俺は…」
あんなにアリスを好きだと思ったんだろう。
いや、キャロラインは俺がアリスを好きになった事に対して怒っている訳じゃない。俺がキャロラインの忠告を無視した…キャロラインを信じようとしなかった事に失望したんだ。
「キャロライン」
「あら、トマス。どうしたのこんな所で」
ライアンの知らない男性がキャロラインに声を掛ける。
誰だ?
トマスと呼ばれた男性は、黒髪で背の高い美青年。
「本を借りに来たんだ。キャロラインは?」
キャロライン…って呼び捨て?キャロラインもトマスってファーストネームを呼び捨ててたな。
「本を読みに来ただけよ」
「相変わらず本の虫なんだな。休みなのに」
そう言いながらトマスはキャロラインの隣に座った。
「トマスもでしょ?」
「まあな」
キャロラインは本に視線を落とした。トマスも持っていた本をパラパラとめくる。
そのまま二人は黙ってそれぞれ自分の本を読んでいた。
キャロラインに、俺以外に呼び捨てにする程親しい男がいたなんて…
暫く経って、トマスが席を立つ。
キャロラインがトマスに視線を向けると、トマスは
「またな」
とキャロラインの頭をポンと叩いて去って行った。
触っ…た。
ライアンは食い入るようにキャロラインを見る。キャロラインはトマスに小さく手を振ると、また本に視線を落とした。
ライアンはすぐに席を立ってキャロラインに「あの男は誰だ」と聞きたい気持ちをぐっと抑える。
もしかして、あの男がキャロラインの新しい恋人?いや恋人ではなくてもキャロラインが好意を持っているのかも。
どちらにせよキャロラインが隣に座られるのも、頭を触られるのも嫌そうではなかったから親しいのは確かだ。
ライアンが開いたままの本を睨みながら考えていると
「帰るわよ」
そうキャロラインの声が聞こえた。
顔を上げるとキャロラインが前に立っている。
「キャロライン…あの…」
「帰るわ。ライアンはまだいるの?」
「…いや、俺も帰る」
一緒に図書館を出て王城の門へと並んで歩く。
強制力が働く前にはよくここでキャロラインと手を繋いだな。キャロラインから繋いで来る事はなかったけど、俺から手を握ると握り返してくれたっけ。
キャロラインが住むのは史学研究所の寮だ。王城からも近く、ライアンの住むフラットまでは徒歩で五分もかからない。もちろんキャロラインの近くにいたいライアンがそこを選んだのだ。
ああもうすぐ寮に着いてしまう。
「さっきの、あの男の人は…」
意を決して言うと、キャロラインはライアンを見上げた。
「トマス?学園の史学研究会の先輩よ」
「よっ呼び…」
呼び捨てなのはどうして?と言い掛けた時、もう目の前になった寮から女性が一人駆け出て来る。
「キャロライン様~」
「あら、レベッカ。来てたの?」
「え?レベッカ・ハイアット?」
レベッカは、走って来た勢いのままキャロラインの首に抱きつく。
「はい!頼まれていた本が入って来たので早くお届けしたくて!…ハミルトン先生まだキャロライン様に付き纏っているんですか?」
「付き纏ってる!?」
レベッカは商家の娘で「恋する生徒会2」での悪役令嬢の一人、今学園の三年生で学園の史学研究会に入っている。
史学研究会はキャロラインが学園時代に加入していた部活動で、部活動の中でもOBの出入りが多い。特に史学研究所に勤めるキャロラインは研究所から文献を貸し出したりしているので、現役生もよく知っているのだ。
「キャロライン様はもうハミルトン先生とお付き合いする気はないんですから、それでもしつこく会いに来るのを付き纏ってるって言わなきゃ何て言うんですか?」
「……」
「レベッカ、余計な事言わないで」
キャロラインは首に抱きついたレベッカの腕を外しながら言う。
「……」
「外国の本をレベッカの家に注文してて…ライアン?」
キャロラインはレベッカに俺と付き合う気はないと話しているのか。俺に付き纏われて迷惑だと…話しているのか?
俯くライアンの腕にキャロラインが手をやろうとすると遮るようにレベッカが言う。
「キャロライン様!例の物ももうすぐ取り寄せられますから!届いたらすぐに持って来ますね!さあ、本はお部屋に置いて来たので、早く入りましょう!」
キャロラインの手をぐいっと引く。
「ライアン?」
「…ああ、じゃあまたな。キャロライン」
ライアンは笑顔を浮かべると踵を返す。
「うん」
そのまま振り向かずに帰って行った。
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