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番外編2-3
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キャロラインとライアンは図書館からライアンの住むフラットへと移動し、ライアンの淹れた紅茶を互いの前に置いてテーブルの向かい側で睨み合う。
「で、何の薬なんだ?惚れ薬じゃないんだろう?」
「違うわ」
小瓶の蓋を開けたキャロラインは、ライアンの前の紅茶に液体を一滴落とす。
そして、自分の前の紅茶にも一滴入れた。
「…え?キャロラインも飲むのか?」
ライアンが意外そうに言う。
「むしろ、私が飲むために手に入れたのよ」
キャロラインは紅茶をじっと見つめながら言う。
「?」
「飲むわ!」
キャロラインは両手でカップを掴むと、ぐいっと一気に紅茶を飲む。
「お、おい。大丈夫なのか?」
「……」
紅茶がまだ熱かったらしく、キャロラインはぎゅっと目を閉じている。
「せめて何の薬か教えてくれよ~」
と言いながらもライアンもカップを手に取ると一気に飲み干した。
そのまま押し黙ったままの二人だったが、暫くして、キャロラインがぼそりと呟いた。
「…ライアンは狡い」
「ん?」
「『また恋人になって』って言い方よ」
「言い方?」
「大体、私がライアンを好きじゃないって何よ!」
バンッとテーブルを叩くキャロライン。
…目が座ってないか?
「キャロライン?酔ってる?」
「何で先週とその前会いに来なかったのよぉ」
「え?ハイアットさんから『付き纏うな』って言われたからだって」
「大体ライアンは恋人とはちゃんと別れてから次の女に行く人だと思ってたのに」
話が飛ぶなあ。この薬って、実は酒なのか?
いやさすがに一滴でこんなに酔う酒はないか。
「だから…」
キャロラインの声が震える。
え?まさか。泣いて…?
「ライアンが何も言わないから…私は何も気付かなくて…」
「キャロライン」
ライアンは手を伸ばしてキャロラインの眼鏡を取る。
両目が真っ赤になって涙が浮かんでいた。
「気が付いた時には他に『真剣に好き』な人が出来てるなんて…思わないじゃない」
ポロッと涙が溢れた。
「…ごめん」
キャロラインが泣くなんて。
「強制力なんて気付かなければ良かった」
「え?」
「そうしたら、ライアンを責めて、アリスを苛めて、嫌われて…でも今ほど苦しくなかった筈だもの」
ポロポロと涙が落ちる。
「…キャロライン」
ライアンはキャロラインの両頬を両手で包む。キャロラインの普段は見えない金色の瞳がライアンを見た。
「もしかして、キャロライン、俺の事好きなのか?」
「…好き」
こくんと頷くキャロライン。
何だこのかわいい生き物は。
ライアンが食い入るようにキャロラインを見つめていると、キャロラインの目にまた涙がぶわっと浮かぶ。
「でもライアンは実は私の事好きじゃないでしょう?」
「え?」
「『好き』なんて言われた事ないもん」
うええ~と泣き出すキャロライン。慌てるライアン。
「えええ!?」
「『恋人になって』って最初から今も言うけど、私の事好きって言った事ないじゃない」
「そんな事…」
え?あれ?もしかして、本当に、ない、かも。
「…好きだ!」
「今、言うなんて狡い」
「言ってたと思ってたんだ。俺はキャロラインが好きだ」
「好き?」
目を見開いてライアンを見るキャロライン。
「好き」
ライアンが言うと、表情がへにゃりと綻ぶ。
「私もライアンが好き~」
キャロラインがそう言うや否や、ライアンは堪らずキャロラインに口付けた。
-----
「自白剤?」
「みたいな成分ってレベッカは言ってたわ」
「なるほど」
「ちょっ…顔見ないでよ」
ライアンの腕の中で胸に顔を埋めるキャロライン。ライアンからは髪と耳しか見えないけれど、耳まで赤くなっているのが良く分かった。
紅茶を飲んでから約二時間後。ライアンの部屋に辛うじて置いてある小さな二人掛けのソファでキャロラインを抱きしめるライアン。
「…私素直じゃないから。それにしてもライアンは普段と変わった感じしなかったわよね。やっぱり元々何でも口に出せる気質だからかしら?」
「考えなしに何でもかんでも口に出す奴みたいに言うなよ…」
「良く言えば素直?」
「悪く言えば、は聞かないでおく。俺は薬に頼ってでもキャロラインが素直にならなきゃと思ってくれたのが嬉しい」
「……」
自分の事を言われると恥ずかしいらしいキャロラインが額をぐいぐいとライアンの胸に押し付けた。
ああ、いつも飄々としたキャロラインが照れてる。嬉しい。かわいい。
「キャロライン、好き」
「…もう聞いたから。恥ずかしいから言わないで」
そう言いながらライアンの背中に回した腕に力が入る。
「キャロライン、結婚して」
「…え?」
キャロラインは顔を上げてライアンを見る。
目も赤い。頬も赤い。耳も、首も、額まで赤い。
「指輪、傷がついたから磨き直ししたんだ。今度は指につけて欲しい」
「…ここは、指輪をつけてくれる場面じゃないの?」
ライアンを見つめながらキャロラインが言うと、ライアンは苦笑いを浮かべる。
「ベッドの側のテーブルの引き出しに入れてあるからなあ。今はキャロラインを離したくないし」
キャロラインは下を向いて額をライアンの胸に着けると、小さな声で言う。
「じゃあ離さずに…ベッドまで行けば…良いんじゃない?」
「……!」
ライアンは目を見開くと、素早くキャロラインを抱き上げた。
-完-
キャロラインとライアンは図書館からライアンの住むフラットへと移動し、ライアンの淹れた紅茶を互いの前に置いてテーブルの向かい側で睨み合う。
「で、何の薬なんだ?惚れ薬じゃないんだろう?」
「違うわ」
小瓶の蓋を開けたキャロラインは、ライアンの前の紅茶に液体を一滴落とす。
そして、自分の前の紅茶にも一滴入れた。
「…え?キャロラインも飲むのか?」
ライアンが意外そうに言う。
「むしろ、私が飲むために手に入れたのよ」
キャロラインは紅茶をじっと見つめながら言う。
「?」
「飲むわ!」
キャロラインは両手でカップを掴むと、ぐいっと一気に紅茶を飲む。
「お、おい。大丈夫なのか?」
「……」
紅茶がまだ熱かったらしく、キャロラインはぎゅっと目を閉じている。
「せめて何の薬か教えてくれよ~」
と言いながらもライアンもカップを手に取ると一気に飲み干した。
そのまま押し黙ったままの二人だったが、暫くして、キャロラインがぼそりと呟いた。
「…ライアンは狡い」
「ん?」
「『また恋人になって』って言い方よ」
「言い方?」
「大体、私がライアンを好きじゃないって何よ!」
バンッとテーブルを叩くキャロライン。
…目が座ってないか?
「キャロライン?酔ってる?」
「何で先週とその前会いに来なかったのよぉ」
「え?ハイアットさんから『付き纏うな』って言われたからだって」
「大体ライアンは恋人とはちゃんと別れてから次の女に行く人だと思ってたのに」
話が飛ぶなあ。この薬って、実は酒なのか?
いやさすがに一滴でこんなに酔う酒はないか。
「だから…」
キャロラインの声が震える。
え?まさか。泣いて…?
「ライアンが何も言わないから…私は何も気付かなくて…」
「キャロライン」
ライアンは手を伸ばしてキャロラインの眼鏡を取る。
両目が真っ赤になって涙が浮かんでいた。
「気が付いた時には他に『真剣に好き』な人が出来てるなんて…思わないじゃない」
ポロッと涙が溢れた。
「…ごめん」
キャロラインが泣くなんて。
「強制力なんて気付かなければ良かった」
「え?」
「そうしたら、ライアンを責めて、アリスを苛めて、嫌われて…でも今ほど苦しくなかった筈だもの」
ポロポロと涙が落ちる。
「…キャロライン」
ライアンはキャロラインの両頬を両手で包む。キャロラインの普段は見えない金色の瞳がライアンを見た。
「もしかして、キャロライン、俺の事好きなのか?」
「…好き」
こくんと頷くキャロライン。
何だこのかわいい生き物は。
ライアンが食い入るようにキャロラインを見つめていると、キャロラインの目にまた涙がぶわっと浮かぶ。
「でもライアンは実は私の事好きじゃないでしょう?」
「え?」
「『好き』なんて言われた事ないもん」
うええ~と泣き出すキャロライン。慌てるライアン。
「えええ!?」
「『恋人になって』って最初から今も言うけど、私の事好きって言った事ないじゃない」
「そんな事…」
え?あれ?もしかして、本当に、ない、かも。
「…好きだ!」
「今、言うなんて狡い」
「言ってたと思ってたんだ。俺はキャロラインが好きだ」
「好き?」
目を見開いてライアンを見るキャロライン。
「好き」
ライアンが言うと、表情がへにゃりと綻ぶ。
「私もライアンが好き~」
キャロラインがそう言うや否や、ライアンは堪らずキャロラインに口付けた。
-----
「自白剤?」
「みたいな成分ってレベッカは言ってたわ」
「なるほど」
「ちょっ…顔見ないでよ」
ライアンの腕の中で胸に顔を埋めるキャロライン。ライアンからは髪と耳しか見えないけれど、耳まで赤くなっているのが良く分かった。
紅茶を飲んでから約二時間後。ライアンの部屋に辛うじて置いてある小さな二人掛けのソファでキャロラインを抱きしめるライアン。
「…私素直じゃないから。それにしてもライアンは普段と変わった感じしなかったわよね。やっぱり元々何でも口に出せる気質だからかしら?」
「考えなしに何でもかんでも口に出す奴みたいに言うなよ…」
「良く言えば素直?」
「悪く言えば、は聞かないでおく。俺は薬に頼ってでもキャロラインが素直にならなきゃと思ってくれたのが嬉しい」
「……」
自分の事を言われると恥ずかしいらしいキャロラインが額をぐいぐいとライアンの胸に押し付けた。
ああ、いつも飄々としたキャロラインが照れてる。嬉しい。かわいい。
「キャロライン、好き」
「…もう聞いたから。恥ずかしいから言わないで」
そう言いながらライアンの背中に回した腕に力が入る。
「キャロライン、結婚して」
「…え?」
キャロラインは顔を上げてライアンを見る。
目も赤い。頬も赤い。耳も、首も、額まで赤い。
「指輪、傷がついたから磨き直ししたんだ。今度は指につけて欲しい」
「…ここは、指輪をつけてくれる場面じゃないの?」
ライアンを見つめながらキャロラインが言うと、ライアンは苦笑いを浮かべる。
「ベッドの側のテーブルの引き出しに入れてあるからなあ。今はキャロラインを離したくないし」
キャロラインは下を向いて額をライアンの胸に着けると、小さな声で言う。
「じゃあ離さずに…ベッドまで行けば…良いんじゃない?」
「……!」
ライアンは目を見開くと、素早くキャロラインを抱き上げた。
-完-
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