第二王子は婚約破棄して王太子になりたいらしい。

ねーさん

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 フィオナがレオンからの手紙を仕舞い込んでから半月後、キャストン邸にやって来たマルティナが不思議そうに言った。
「レオン兄様がフィオナに『いい加減に返事を寄越せ』って伝えろって。『このまま有耶無耶にする気なら正式な申入れをするぞ』って。…何の話なの?」
「ひえっ」
 王家から正式な婚姻の申入れなんかあったら、しがない伯爵家が断れる訳ないじゃない!
 14歳の男子がまだ12歳の女の子にする脅しか?これが!
「…じゃあ今日返事書くからティナ持って帰ってくれる?」
「うん。良いわよ」
 フィオナは便箋を取り出すと、大きく「お断りします」と書いて封筒に入れた。

「いい度胸だな。フィオナ」
「レ、レオン殿下!?」
 マルティナに手紙を託けた次の日、キャストン邸のフィオナの私室の扉にもたれて、レオンが立っていた。
 何でいるの?
「やっと返事を寄越したと思えば…」
「くっ…来るなら、あ、いえ。おいでになるなら知らせてくださいよ」
「知らせたら逃げるだろう?」
 にっこりと笑うレオン。これは…もしや怒ってる?
「そんな事は…あるかも」
「そうだろう?何故だ?」
 レオンはずかずかと部屋に入って来ると、ソファから立ち上がりかけたフィオナの前に立った。
 フィオナはソファに座り直して、俯いて言った。
「何故って…王子の妃とか、なりたくないですもん」
 だって、王家って、前世の日本で言えば皇室でしょ。
 何をしてもしなくても、何を言っても言わなくてもニュースになって、日本中に注目されてるのよ?
 もっと言えばイギリス王室なんて世界中から大注目で、ファッションや言動を批判されたり…
 いや、ムリ!ムリムリムリ!
「なりたくない?」
 レオンが虚をつかれたような表情でフィオナを見降ろす。
「はい。でもレオン殿下と結婚したい令嬢は沢山おられるでしょう?何で私なんですか?」
「…なりたくない」
「レオン殿下?」
 あれ?何か殿下ショック受けてる?
 もしかして、王子妃になりたい令嬢は沢山いても、なりたくないって言ったのは私が初めて?
「フィオナ」
 レオンはフィオナを閉じ込めるようにソファの背もたれに両手を着いた。
 殿下の顔が近い!壁ドンじゃないけど、追い詰められ感が凄い…私、もしかして、殿下のプライドを傷付けた?
「お前、絶対俺の妃にしてやるからな」
 紫の瞳に怒りの色が浮かんでいるのが判る。
 一時の怒りに任せて一生の問題を決めちゃいけないと思う。
 そう言おうとしたフィオナの唇に、レオンのそれが重なった。

-----

「フィオナ…王宮から『フィオナ・キャストンを第二王子妃として召し上げたい。まずは早急に婚約を』と打診が来ているんだが?」
 キャストン伯爵であるフィオナの父が夕食の席でそう切り出した。
「なっ!?」
 ガシャンとフィオナは手に持っていたフォークを落とした。
「フィオナを?あら、レオン殿下意外とお目が高いわね」
 姉パトリシアが面白そうに眉を上げて言う。
「お姉様?」
「だってフィオナって令嬢っぽくなくて面白いじゃない」
 元々おてんばと言われていたフィオナだったが、前世の記憶が甦ってからは庶民の本性…地が出てしまって令嬢らしい振る舞いができていない。
 やる気になれば令嬢らしくもできるけど、どうもこう…自分が中世の貴族令嬢的な立ち位置なのがフィオナにとっては落ち着かないのだ。
「でも面白い令嬢は王家向きじゃないだろ?」
 兄レナードが言う。
「まあ、それはそうね」
 パトリシアが頷く。
 お姉様、普通は王子の妃を「面白さ」で選んだりしないでしょうよ。
「…お父様、それは正式なお話ですか?お断りはできますか?」
 フィオナがそう言うと、父はにっこりと笑って言った。
「断っても良いが…レオン殿下は『断れば私とフィオナはすでに口付けを交わした仲だと言う事を広く公表する』と言われていたぞ。どう言う事だ?フィオナ」
 あ、そういえばお父様も笑いながら怒るタイプだった。
「え?レオン殿下とキスしたの?やるわねフィオナ」
 お姉様…何でそんな楽しそうなの?
「レオン殿下は将来凄い美男子になるわよ。孫が楽しみね」
 お母様…孫って気が早いにも程があるでしょ!
「フィオナ、父上に隠れて殿下と交際していたのか?」
 お兄様…そんな咎めるような目で見ないで。
「違います!殿下とは二回しか会った事ないのに…」
「しかし、口付けは事実なんだろう?」
 お父様…上がった口角が怖いです…

 キスっても触れただけなのに…でもあの時、殿下と一緒に来てた侍従に見られたのよね。と言うか、侍従にわざと目撃させたのよ。レオン殿下が。
 普通は公爵家や侯爵家、他国の王族や上位貴族から選ばれる王子妃に打診されたのに、伯爵家が断わるだけでも面白おかしく取り沙汰されるだろうに、口付けを交わす仲なのに断ったなんて噂になったらフィオナも伯爵家も立場がなくなる。
 …こんなの14歳が12歳を追い詰めるやり方じゃないでしょ。王族って怖いわあ。

 そんなこんなで約一年後、フィオナとレオンの婚約が正式に整ったのだった。







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