第二王子は婚約破棄して王太子になりたいらしい。

ねーさん

文字の大きさ
28 / 36

27

しおりを挟む
27

 兄上が、兄上ではなかった。
 俺が、王太子に…
「考えた事もなかったな」
 眠ると、大きな黒い影に押し潰される夢を見た。影に潰されて目が覚めて、もう眠れない。

 フィオに、こんなに重圧に弱い、情けない自分を知られたくない。
 毎日のように訪れたフィオの部屋に行かなくなり、寝不足を指摘され、心配されて伸ばされた手を思わず払ってしまった。

 王太子である父から、自分に「影」と呼ばれる諜報員を付けると言われる。慣例としては立太子してから「影」が付くらしいが、ブライアンの件を公にしないと決めたので、不測の事態に備えて早目に付ける事にしたそうだ。
 ノエル・エバンスと名乗る「影」は俺と同じ歳らしいが、童顔で女顔のノエルは新入生として学園の生徒に紛れ、舞踏会の準備という口実で俺と知り合った風に側に来た。
 この「影」を、どこまで信用して良いのか…本来話しておくべき事情を話せないまま、時が過ぎた。

 フィオは、第二王子である自分との婚約でさえ、嫌がっていたんだ、王太子になる自分となど結婚したくはないのでは?
 俺はフィオの正直で飾らない処が好きだ。
 初めてキャストン邸で会った時から面白い子だと思っていた。王子妃になりたくないと言われて意地になって婚約したのも本当だが、会う度にどんどん好きになった。

「俺が王になったら嬉しいか?」
 敢えてそう聞いたのは、確実に「嬉しくない」と答えると思ったからだ。
 フィオが望まないなら、解放してやりたい。
 それでも、本当にそう答えるフィオに、果てしなく心が落ちて行くのを感じた。
 落ちた心を引き摺り上げると、笑顔になったらしい。とても楽しそうで嬉しそうだったと後にフィオに言われた。

「フィオナとの婚約を解消し、王太子となる旨を舞踏会で宣言します」
 父と兄にそう言ってからは、違う夢を見る。
 フィオが俺ではない男と楽しそうに話している。
 フィオが俺ではない男と見つめ合ってダンスをしている。
 フィオが俺ではない男と…口付けを交わしている。

 学園の廊下でフィオとノエルが話しているのを見掛ける。
 いつの間に二人で話す程親しくなった?
 数日後、舞踏会の準備で講堂にいる時、入口にフィオとノエルが見えた。
 俺に会いに?いや、ノエルに会いに来たのか?
 ノエルは学園では男爵家の者と名乗っているが、本当は侯爵家の者で、フィオが結婚するには申し分ない相手だ。

 倒れて来た脚立が当たり、倒れて救護室に運ばれた時、フィオとノエルの結婚式の夢を見た。
 白いドレスを纏い、幸せそうな笑顔のフィオ。ノエルと腕を組んで見つめ合う。そして誓いのキスを…
 ーー嫌だ!
 行かないでくれ。側にいて。フィオ。

 少し目が覚めた時、フィオが見えた。
 ああ、フィオ。行かないで。
 暖かい手を握る。行かないで。と願いながら。

 目が覚め、眠っていたとは思えない力でフィオの手を握っていた自分に苦笑いする。
 駄目だ。俺はフィオの手を離さなくてはいけない。

 舞踏会の前日、ノエルに全てを話す。ノエルは「もっと早く話してください」と少し怒っていたようだ。

 ノエルの設計した舞踏会の会場は夜の空、星々の空間のような幻想的な物だ。
 ノエルの描いた素案から会場を想像するとフィオの様だなと思った。フィオの黒い髪。
 明かりが灯る前の夜の空、明かりが灯った夜明けの空、どちらもフィオに見せたかった。
 青いドレスのフィオはその空間によく馴染んでいる。
 最後に思わず口付けたのは、未練を断ち切るためだったかも知れない。

 王太子として立つ宣言をすると、フィオはティナをキャストン邸へと連れ帰ったと言う。
 さすがフィオだ。ただ、迷惑を掛けて済まないと思う。
 ノエルにフィオとティナの様子を窺うように指示を出した。
 そして、婚約解消の許可通知が教会から届く。
 ティナを迎えに行こう。俺自身で。

 しかし、フィオの兄レナードが王宮へ来て俺の侍従がティナを迎えに来たと言う。
 おかしいと察したフィオがティナの代わりに馬車に乗ったと。

 だ。
 また俺は、離れた場所で事を知るのか?
 フィオの側を離れるんじゃなかった。
 離れてはいけなかったんだ。

 強い衝動に駆られて、執務室を飛び出した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして

Rohdea
恋愛
──ある日、婚約者が記憶喪失になりました。 伯爵令嬢のアリーチェには、幼い頃からの想い人でもある婚約者のエドワードがいる。 幼馴染でもある彼は、ある日を境に無口で無愛想な人に変わってしまっていた。 素っ気無い態度を取られても一途にエドワードを想ってきたアリーチェだったけど、 ある日、つい心にも無い言葉……婚約破棄を口走ってしまう。 だけど、その事を謝る前にエドワードが事故にあってしまい、目を覚ました彼はこれまでの記憶を全て失っていた。 記憶を失ったエドワードは、まるで昔の彼に戻ったかのように優しく、 また婚約者のアリーチェを一途に愛してくれるようになったけど──…… そしてある日、一人の女性がエドワードを訪ねて来る。 ※婚約者をざまぁする話ではありません ※2022.1.1 “謎の女”が登場したのでタグ追加しました

伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい

瑞原唯子
恋愛
だから、きっと、恋を知らないままでよかった。 伯爵令嬢のシャーロットはもうすぐ顔も知らないおじさまと結婚する。だから最後にひとつだけわがままを叶えようと屋敷をこっそり抜け出した。そこで知り合ったのは王都の騎士団に所属するという青年で——。 --- 本編完結しました。番外編も書きたかったエピソードはひとまず書き終わりましたが、気が向いたらまた何か書くかもしれません。リクエストなどありましたらお聞かせください。参考にさせていただきます。

王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~

しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。 豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。 ――食事が、冷めているのだ。 どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。 「温かいごはんが食べたい」 そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。 地下厨房からの高速搬送。 専用レーンを爆走するカートメイド。 扉の開閉に命をかけるオープナー。 ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!? 温かさは、ホッとさせてくれる。 それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。 冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、 食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ! -

転生令嬢は腹黒夫から逃げだしたい!

野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
華奢で幼さの残る容姿をした公爵令嬢エルトリーゼは ある日この国の王子アヴェルスの妻になることになる。 しかし彼女は転生者、しかも前世は事故死。 前世の恋人と花火大会に行こうと約束した日に死んだ彼女は なんとかして前世の約束を果たしたい ついでに腹黒で性悪な夫から逃げだしたい その一心で……? ◇ 感想への返信などは行いません。すみません。

つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?

宝月 蓮
恋愛
少しネガティブな天然鈍感辺境伯令嬢と目つきが悪く恋愛に関してはポンコツコミュ障公爵令息のコミュニケーションエラー必至の爆笑(?)すれ違いラブコメ! ランツベルク辺境伯令嬢ローザリンデは優秀な兄弟姉妹に囲まれて少し自信を持てずにいた。そんなローザリンデを夜会でエスコートしたいと申し出たのはオルデンブルク公爵令息ルートヴィヒ。そして複数回のエスコートを経て、ルートヴィヒとの結婚が決まるローザリンデ。しかし、ルートヴィヒには身分違いだが恋仲の女性がいる噂をローザリンデは知っていた。 エーベルシュタイン女男爵であるハイデマリー。彼女こそ、ルートヴィヒの恋人である。しかし上級貴族と下級貴族の結婚は許されていない上、ハイデマリーは既婚者である。 ローザリンデは自分がお飾りの妻だと理解した。その上でルートヴィヒとの結婚を受け入れる。ランツベルク家としても、筆頭公爵家であるオルデンブルク家と繋がりを持てることは有益なのだ。 しかし結婚後、ルートヴィヒの様子が明らかにおかしい。ローザリンデはルートヴィヒからお菓子、花、アクセサリー、更にはドレスまでことあるごとにプレゼントされる。プレゼントの量はどんどん増える。流石にこれはおかしいと思ったローザリンデはある日の夜会で聞いてみる。 「つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?」 するとルートヴィヒからは予想外の返事があった。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~

夏笆(なつは)
恋愛
 ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。  ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。 『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』  可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。  更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。 『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』 『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』  夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。  それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。  そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。  期間は一年。  厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。  つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。  この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。  あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。    小説家になろうでも、掲載しています。 Hotランキング1位、ありがとうございます。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

婚約者候補を見定めていたら予定外の大物が釣れてしまった…

矢野りと
恋愛
16歳になるエミリア・ダートン子爵令嬢にはまだ婚約者がいない。恋愛結婚に憧れ、政略での婚約を拒んできたからだ。 ある日、理不尽な理由から婚約者を早急に決めるようにと祖父から言われ「三人の婚約者候補から一人選ばなければ修道院行きだぞ」と脅される。 それならばと三人の婚約者候補を自分の目で見定めようと自ら婚約者候補達について調べ始める。 その様子を誰かに見られているとも知らずに…。 *設定はゆるいです。 *この作品は作者の他作品『私の孤独に気づいてくれたのは家族でも婚約者でもなく特待生で平民の彼でした』の登場人物第三王子と婚約者のお話です。そちらも読んで頂くとより楽しめると思います。

処理中です...