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兄上が、兄上ではなかった。
俺が、王太子に…
「考えた事もなかったな」
眠ると、大きな黒い影に押し潰される夢を見た。影に潰されて目が覚めて、もう眠れない。
フィオに、こんなに重圧に弱い、情けない自分を知られたくない。
毎日のように訪れたフィオの部屋に行かなくなり、寝不足を指摘され、心配されて伸ばされた手を思わず払ってしまった。
王太子である父から、自分に「影」と呼ばれる諜報員を付けると言われる。慣例としては立太子してから「影」が付くらしいが、ブライアンの件を公にしないと決めたので、不測の事態に備えて早目に付ける事にしたそうだ。
ノエル・エバンスと名乗る「影」は俺と同じ歳らしいが、童顔で女顔のノエルは新入生として学園の生徒に紛れ、舞踏会の準備という口実で俺と知り合った風に側に来た。
この「影」を、どこまで信用して良いのか…本来話しておくべき事情を話せないまま、時が過ぎた。
フィオは、第二王子である自分との婚約でさえ、嫌がっていたんだ、王太子になる自分となど結婚したくはないのでは?
俺はフィオの正直で飾らない処が好きだ。
初めてキャストン邸で会った時から面白い子だと思っていた。王子妃になりたくないと言われて意地になって婚約したのも本当だが、会う度にどんどん好きになった。
「俺が王になったら嬉しいか?」
敢えてそう聞いたのは、確実に「嬉しくない」と答えると思ったからだ。
フィオが望まないなら、解放してやりたい。
それでも、本当にそう答えるフィオに、果てしなく心が落ちて行くのを感じた。
落ちた心を引き摺り上げると、笑顔になったらしい。とても楽しそうで嬉しそうだったと後にフィオに言われた。
「フィオナとの婚約を解消し、王太子となる旨を舞踏会で宣言します」
父と兄にそう言ってからは、違う夢を見る。
フィオが俺ではない男と楽しそうに話している。
フィオが俺ではない男と見つめ合ってダンスをしている。
フィオが俺ではない男と…口付けを交わしている。
学園の廊下でフィオとノエルが話しているのを見掛ける。
いつの間に二人で話す程親しくなった?
数日後、舞踏会の準備で講堂にいる時、入口にフィオとノエルが見えた。
俺に会いに?いや、ノエルに会いに来たのか?
ノエルは学園では男爵家の者と名乗っているが、本当は侯爵家の者で、フィオが結婚するには申し分ない相手だ。
倒れて来た脚立が当たり、倒れて救護室に運ばれた時、フィオとノエルの結婚式の夢を見た。
白いドレスを纏い、幸せそうな笑顔のフィオ。ノエルと腕を組んで見つめ合う。そして誓いのキスを…
ーー嫌だ!
行かないでくれ。側にいて。フィオ。
少し目が覚めた時、フィオが見えた。
ああ、フィオ。行かないで。
暖かい手を握る。行かないで。と願いながら。
目が覚め、眠っていたとは思えない力でフィオの手を握っていた自分に苦笑いする。
駄目だ。俺はフィオの手を離さなくてはいけない。
舞踏会の前日、ノエルに全てを話す。ノエルは「もっと早く話してください」と少し怒っていたようだ。
ノエルの設計した舞踏会の会場は夜の空、星々の空間のような幻想的な物だ。
ノエルの描いた素案から会場を想像するとフィオの様だなと思った。フィオの黒い髪。
明かりが灯る前の夜の空、明かりが灯った夜明けの空、どちらもフィオに見せたかった。
青いドレスのフィオはその空間によく馴染んでいる。
最後に思わず口付けたのは、未練を断ち切るためだったかも知れない。
王太子として立つ宣言をすると、フィオはティナをキャストン邸へと連れ帰ったと言う。
さすがフィオだ。ただ、迷惑を掛けて済まないと思う。
ノエルにフィオとティナの様子を窺うように指示を出した。
そして、婚約解消の許可通知が教会から届く。
ティナを迎えに行こう。俺自身で。
しかし、フィオの兄レナードが王宮へ来て俺の侍従がティナを迎えに来たと言う。
おかしいと察したフィオがティナの代わりに馬車に乗ったと。
まただ。
また俺は、離れた場所で彼女が死んだ事を知るのか?
フィオの側を離れるんじゃなかった。
やはり離れてはいけなかったんだ。
強い衝動に駆られて、執務室を飛び出した。
兄上が、兄上ではなかった。
俺が、王太子に…
「考えた事もなかったな」
眠ると、大きな黒い影に押し潰される夢を見た。影に潰されて目が覚めて、もう眠れない。
フィオに、こんなに重圧に弱い、情けない自分を知られたくない。
毎日のように訪れたフィオの部屋に行かなくなり、寝不足を指摘され、心配されて伸ばされた手を思わず払ってしまった。
王太子である父から、自分に「影」と呼ばれる諜報員を付けると言われる。慣例としては立太子してから「影」が付くらしいが、ブライアンの件を公にしないと決めたので、不測の事態に備えて早目に付ける事にしたそうだ。
ノエル・エバンスと名乗る「影」は俺と同じ歳らしいが、童顔で女顔のノエルは新入生として学園の生徒に紛れ、舞踏会の準備という口実で俺と知り合った風に側に来た。
この「影」を、どこまで信用して良いのか…本来話しておくべき事情を話せないまま、時が過ぎた。
フィオは、第二王子である自分との婚約でさえ、嫌がっていたんだ、王太子になる自分となど結婚したくはないのでは?
俺はフィオの正直で飾らない処が好きだ。
初めてキャストン邸で会った時から面白い子だと思っていた。王子妃になりたくないと言われて意地になって婚約したのも本当だが、会う度にどんどん好きになった。
「俺が王になったら嬉しいか?」
敢えてそう聞いたのは、確実に「嬉しくない」と答えると思ったからだ。
フィオが望まないなら、解放してやりたい。
それでも、本当にそう答えるフィオに、果てしなく心が落ちて行くのを感じた。
落ちた心を引き摺り上げると、笑顔になったらしい。とても楽しそうで嬉しそうだったと後にフィオに言われた。
「フィオナとの婚約を解消し、王太子となる旨を舞踏会で宣言します」
父と兄にそう言ってからは、違う夢を見る。
フィオが俺ではない男と楽しそうに話している。
フィオが俺ではない男と見つめ合ってダンスをしている。
フィオが俺ではない男と…口付けを交わしている。
学園の廊下でフィオとノエルが話しているのを見掛ける。
いつの間に二人で話す程親しくなった?
数日後、舞踏会の準備で講堂にいる時、入口にフィオとノエルが見えた。
俺に会いに?いや、ノエルに会いに来たのか?
ノエルは学園では男爵家の者と名乗っているが、本当は侯爵家の者で、フィオが結婚するには申し分ない相手だ。
倒れて来た脚立が当たり、倒れて救護室に運ばれた時、フィオとノエルの結婚式の夢を見た。
白いドレスを纏い、幸せそうな笑顔のフィオ。ノエルと腕を組んで見つめ合う。そして誓いのキスを…
ーー嫌だ!
行かないでくれ。側にいて。フィオ。
少し目が覚めた時、フィオが見えた。
ああ、フィオ。行かないで。
暖かい手を握る。行かないで。と願いながら。
目が覚め、眠っていたとは思えない力でフィオの手を握っていた自分に苦笑いする。
駄目だ。俺はフィオの手を離さなくてはいけない。
舞踏会の前日、ノエルに全てを話す。ノエルは「もっと早く話してください」と少し怒っていたようだ。
ノエルの設計した舞踏会の会場は夜の空、星々の空間のような幻想的な物だ。
ノエルの描いた素案から会場を想像するとフィオの様だなと思った。フィオの黒い髪。
明かりが灯る前の夜の空、明かりが灯った夜明けの空、どちらもフィオに見せたかった。
青いドレスのフィオはその空間によく馴染んでいる。
最後に思わず口付けたのは、未練を断ち切るためだったかも知れない。
王太子として立つ宣言をすると、フィオはティナをキャストン邸へと連れ帰ったと言う。
さすがフィオだ。ただ、迷惑を掛けて済まないと思う。
ノエルにフィオとティナの様子を窺うように指示を出した。
そして、婚約解消の許可通知が教会から届く。
ティナを迎えに行こう。俺自身で。
しかし、フィオの兄レナードが王宮へ来て俺の侍従がティナを迎えに来たと言う。
おかしいと察したフィオがティナの代わりに馬車に乗ったと。
まただ。
また俺は、離れた場所で彼女が死んだ事を知るのか?
フィオの側を離れるんじゃなかった。
やはり離れてはいけなかったんだ。
強い衝動に駆られて、執務室を飛び出した。
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