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「王籍を離れるって…どうなるの?」
ベッドに寝たままのフィオナが顔を横に向けて、枕元の椅子に座ったレオンに話し掛ける。
「オズバーン公爵家の籍に入るか、新たに籍を作るか…どちらにしてもオズバーン公爵やキッシンジャー侯爵の処罰もあるし、兄上の件は公表せざるを得ないな」
「そっか…折角公表せずにレオン様が立太子しようとしてたのにね…」
「まあな」
レオンがフィオナの額にかかる前髪を撫でる。
「レオン様?」
フィオナの頭に巻かれた包帯を指でなぞる。
「フィオ…」
指が包帯から頬へと滑る。
「…うん。キャストン伯爵に叱られるし、ここは我慢だな…」
レオンは苦い顔をして、手を引いた。
つまり、キスとか…したくなったって事…よね?
「あああの。この間聞きそびれたんですけど!『思い出した』って言ってた件!」
「ああ。そう言えば、その話はまだしてなかったな」
少し慌てて話を逸らすようにフィオナが言えば、敢えて追及はせずにレオンは答える。
キスとか、したくない訳じゃないんだけど…レオン様がお父様に叱られる事態は避けたいしな。
「信じられないかも知れないが、俺には『前世』の記憶があるようなんだ」
…え?
「あまり詳細ではないのだが、フィオが誘拐された時に、前世の恋人が亡くなった時の後悔の感情が湧き上がって来た」
…前世の恋人?
「『彼女から離れるんじゃなかった』という感情だな。俺も同じ事を思っていたが、それだけでは説明できない位の強い感情で『やはり離れるんじゃなかった』と思ったんだ」
「やはり?」
「婚約解消して、フィオと離れている時にあの事件で…前世でも恋人と別れてから亡くなったのを知って、ものすごく後悔したのを、思い出した。…前世の自分から『好きなら離れるな』『後悔するぞ』と言われた気がした」
レオンはフィオナの手を取ると、指に口付けた。
「それから、フィオとティナが乗った馬車が川に転落したと聞いた時。頭に映像が浮かんだんだ」
「映像…ですか?」
「テレビの画面に写った事故のニュース。と言ってもフィオには俺が何を言っているのか判らないだろうが…」
「テレビ!?」
え!?テレビのニュース!?
「フィオ?」
「…レオン様、私、テレビもニュースも判ります」
-----
「レオン殿下、王太子殿下がお呼びです」
学園の休日に王宮に戻っていたレオンの元へ侍従のパスカルが訪れて声を顰めて言った。
父上?
「誰にも知られないように来るように、と」
「分かった」
レオンが立ち上がると、パスカルは礼をして部屋を出て行く。
レオンは本棚に隠された王族のみが知る隠し通路の扉を開けた。
「父上…」
隠し通路から王太子である父デリックの寝室に出る。
「レオン、応接室へ来てくれ」
デリックの声がして、言われた通り応接室の扉を開けると、ソファにデリックが座り、その前に兄ブライアンが立っていた。
「兄上?」
「…レオン」
ブライアンがゆっくりとレオンの方を振り返る。
前髪が濡れて、ブライアンの足元に小さな水溜りがあった。
「兄…上…?」
濡れた前髪が、白い。潤んだ瞳は青かった。
「兄上が、父上の子ではない…?」
「ああ。私は小さい頃から髪の色を抜き、紫の染料で染めていたんだ。本当の髪色は金なんだ」
髪を拭き、ソファに座ったブライアンは悲痛な面持ちで俯く。
「瞳の色はどうしたんだ?」
「そうです。髪は染められますが、瞳の色を変える事など…」
「これだ」
デリックとレオンが言うと、ブライアンはポケットから小さなピルケースを取り出す。それを開けると、紫色の、小さな球体を半分にしたような硝子細工があった。
「まさか、これを目に…?」
「ああ」
「こんな物を目に入れて大丈夫なのですか?」
「大丈夫…ではないな」
「え?」
「…段々と、よく…見えなくなっている」
ブライアンは目を閉じる。
「そんな…」
「これは母の贔屓だった硝子職人が定期的に新しい物を届けてくれています」
「アデラの…」
「陛下が退位され、父上…王太子殿下が即位される事が決まったと、先日王太子殿下は言われました」
「ああ。そうだな」
「…私を王太子に指名する、とも。しかし私はこのように殿下の御子であると偽っていた、父親の分からない者です。王太子にはなれません」
「……」
押し黙るレオン。デリックが「はあ…」とため息を吐く。
「ブライアン」
「はい」
「今まで息子だと信じていた者を、今更息子ではないと言われても、私のブライアンに対する愛情は変わらないよ…だから『父上』で良いんだ」
ブライアンの眼に涙が浮かぶ。
「…父上」
「ただ王家の血を引いていないと分かった以上、王太子に、王にすることはできない。済まない」
「…父上が謝る事は…」
「今まで辛かったな。ブライアン」
ブライアンの頬を涙が流れた。
「王籍を離れるって…どうなるの?」
ベッドに寝たままのフィオナが顔を横に向けて、枕元の椅子に座ったレオンに話し掛ける。
「オズバーン公爵家の籍に入るか、新たに籍を作るか…どちらにしてもオズバーン公爵やキッシンジャー侯爵の処罰もあるし、兄上の件は公表せざるを得ないな」
「そっか…折角公表せずにレオン様が立太子しようとしてたのにね…」
「まあな」
レオンがフィオナの額にかかる前髪を撫でる。
「レオン様?」
フィオナの頭に巻かれた包帯を指でなぞる。
「フィオ…」
指が包帯から頬へと滑る。
「…うん。キャストン伯爵に叱られるし、ここは我慢だな…」
レオンは苦い顔をして、手を引いた。
つまり、キスとか…したくなったって事…よね?
「あああの。この間聞きそびれたんですけど!『思い出した』って言ってた件!」
「ああ。そう言えば、その話はまだしてなかったな」
少し慌てて話を逸らすようにフィオナが言えば、敢えて追及はせずにレオンは答える。
キスとか、したくない訳じゃないんだけど…レオン様がお父様に叱られる事態は避けたいしな。
「信じられないかも知れないが、俺には『前世』の記憶があるようなんだ」
…え?
「あまり詳細ではないのだが、フィオが誘拐された時に、前世の恋人が亡くなった時の後悔の感情が湧き上がって来た」
…前世の恋人?
「『彼女から離れるんじゃなかった』という感情だな。俺も同じ事を思っていたが、それだけでは説明できない位の強い感情で『やはり離れるんじゃなかった』と思ったんだ」
「やはり?」
「婚約解消して、フィオと離れている時にあの事件で…前世でも恋人と別れてから亡くなったのを知って、ものすごく後悔したのを、思い出した。…前世の自分から『好きなら離れるな』『後悔するぞ』と言われた気がした」
レオンはフィオナの手を取ると、指に口付けた。
「それから、フィオとティナが乗った馬車が川に転落したと聞いた時。頭に映像が浮かんだんだ」
「映像…ですか?」
「テレビの画面に写った事故のニュース。と言ってもフィオには俺が何を言っているのか判らないだろうが…」
「テレビ!?」
え!?テレビのニュース!?
「フィオ?」
「…レオン様、私、テレビもニュースも判ります」
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「レオン殿下、王太子殿下がお呼びです」
学園の休日に王宮に戻っていたレオンの元へ侍従のパスカルが訪れて声を顰めて言った。
父上?
「誰にも知られないように来るように、と」
「分かった」
レオンが立ち上がると、パスカルは礼をして部屋を出て行く。
レオンは本棚に隠された王族のみが知る隠し通路の扉を開けた。
「父上…」
隠し通路から王太子である父デリックの寝室に出る。
「レオン、応接室へ来てくれ」
デリックの声がして、言われた通り応接室の扉を開けると、ソファにデリックが座り、その前に兄ブライアンが立っていた。
「兄上?」
「…レオン」
ブライアンがゆっくりとレオンの方を振り返る。
前髪が濡れて、ブライアンの足元に小さな水溜りがあった。
「兄…上…?」
濡れた前髪が、白い。潤んだ瞳は青かった。
「兄上が、父上の子ではない…?」
「ああ。私は小さい頃から髪の色を抜き、紫の染料で染めていたんだ。本当の髪色は金なんだ」
髪を拭き、ソファに座ったブライアンは悲痛な面持ちで俯く。
「瞳の色はどうしたんだ?」
「そうです。髪は染められますが、瞳の色を変える事など…」
「これだ」
デリックとレオンが言うと、ブライアンはポケットから小さなピルケースを取り出す。それを開けると、紫色の、小さな球体を半分にしたような硝子細工があった。
「まさか、これを目に…?」
「ああ」
「こんな物を目に入れて大丈夫なのですか?」
「大丈夫…ではないな」
「え?」
「…段々と、よく…見えなくなっている」
ブライアンは目を閉じる。
「そんな…」
「これは母の贔屓だった硝子職人が定期的に新しい物を届けてくれています」
「アデラの…」
「陛下が退位され、父上…王太子殿下が即位される事が決まったと、先日王太子殿下は言われました」
「ああ。そうだな」
「…私を王太子に指名する、とも。しかし私はこのように殿下の御子であると偽っていた、父親の分からない者です。王太子にはなれません」
「……」
押し黙るレオン。デリックが「はあ…」とため息を吐く。
「ブライアン」
「はい」
「今まで息子だと信じていた者を、今更息子ではないと言われても、私のブライアンに対する愛情は変わらないよ…だから『父上』で良いんだ」
ブライアンの眼に涙が浮かぶ。
「…父上」
「ただ王家の血を引いていないと分かった以上、王太子に、王にすることはできない。済まない」
「…父上が謝る事は…」
「今まで辛かったな。ブライアン」
ブライアンの頬を涙が流れた。
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