第二王子は婚約破棄して王太子になりたいらしい。

ねーさん

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番外編上

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「実はね。レナード」
 レナードとマルティナの結婚式が間近に迫ったある日、レナードの母ミアが夕食の席で深刻な表情で話し出した。
「母上?」
「レナードが学園生の頃、お付き合いしてた伯爵令嬢が居たじゃない?」
「…何ですか?急にそんな古い話」
「あの伯爵令嬢が…と言うかあの伯爵家がレナードとの結婚話を断ったのは私のせいなの」
「は?」
「実は、私の実家の伯爵家は麦作が主な産業なんだけど、ある年長雨で麦が出来なくて収入がガクンと落ちちゃったの。その時私は学園の四年生で、家は国へ納める税金で精一杯で私の学費が工面できなくて…」
「…はい」
「それで、私、長期休暇の度に身分を偽ってキャストン家の経営する鉱山で働いたのよ。お給料が良かったから」
「は?」
 伯爵家の令嬢が?働いた?鉱山で?
「鉱山で働いたと言っても、宝飾品の加工とかよ。まあたまには加工用の石を取りにピックハンマー片手に採石場に行った事もあるけど…」
「え?母上、採石した事あるんですか?」
 レナードが呆気に取られて母を見つめていると、父が懐かしそうな表情で言った。
「ミアは良い鉱脈を見つけたりしてたなあ。その頃私は学園を卒業して、経営の勉強のため鉱山へよく行っていたんだ。そこで私たちは出会ったんだよ」
「はあ」
「あの時の旦那様は、周りの作業着で屈強な男性の中で、一人スーツでスッと背が高くてスタイル良くて格好良かったな…」
「ミアも、気品があって飛び抜けてかわいかったぞ。まあ今もかわいいがな」
「あらやだ」
「…父上、母上、話が逸れてます」
 そう言えば父と母は恋愛結婚だと聞いていたが、なれそめは初めて聞いたな。とレナードは思った。
 父と母は顔を見合わせてからコホンと咳払いをする。
「それでね。レナードと同じ時にそのお嬢さんに縁談を持ち掛けて来た伯爵家があったでしょ?」
「はあ」
 結局、彼女はその伯爵家の令息と婚約し、そのまま結婚したと聞いているが。
「その伯爵家の当主がミアと同級生で…昔ミアを好きだったんだ」
 父が苦虫を噛み潰したような表情で言う。
「は?」
「ミアに付き纏い嗅ぎ回ってウチの鉱山で働いている事を知ったそうだ。それで脅して来たので、私が追い払った」

 貴族令嬢が仕事をするなど、通常は考えられない。働くとしても王宮や上位貴族宅で侍女をしたり、家庭教師や子守りをするくらいだ。
 男性であっても、貴族が労働者階級に混じって鉱山で働くなど…更には鉱石の採取をするなどの現業に就くなどあり得ない事だ。増してやミアは女性なのだ。それを社交界に知られれば社会的立場を抹殺される程の醜聞になってしまう。
「にっこり笑ってぐうの音も出ない程追い詰める…あの時の旦那様もとっても格好良かったわ…」
 母がうっとりとして言う。
「ミアこそ、あの男に良い啖呵を切っていたな」
 父がうんうんと頷く。
「…また話が逸れてます」
 レナードが呆れたように言うと、父と母はまた顔を見合わせる。
「済まんな。つい、懐かしくて。つまり我が家からの婚姻申し込みに横槍を入れ、彼女を掻っ攫ったのが、その男の家なんだ」
 昔、母を好きだった伯爵が、振られた腹いせにその息子の縁談を潰したと言う事か。
 実の息子の結婚まで掛けて…どれだけ恨まれてるんだ父上と母上は。
「ああ、その伯爵が母上の醜聞を彼女の家に密告したと言う事なんですね?」
「そうなのよ。ごめんねレナード」
 母が申し訳なさそうに言う。
「いや、あの時は私が『それでもレナードが良いと言ってくれる令嬢じゃないならキャストン家の嫁にはいらん』と言ったんだから、ミアは悪くない」
 父がそう言い切る。
「そうだったんですか」
「ああ。しかしそうは言ったがレナードは傷付いただろう?」
「…まあ。その時は多少は。でも何故今その話を?」

「マルティナ殿下がもうすぐ降嫁されるじゃない?私たちも領地に引っ込むし。もしもあの伯爵が今も私たちを恨んでいたら、私の醜聞を広げるかも知れないから…レナードに教えておかないといけないと思ったの」
「ああ…なるほど。しかし本当にその話を広げる気があるなら婚約が発表された時に何らかの動きがあるのが自然な気がするのですが」
「まあな。レナードから彼女を掻っ攫った事で溜飲を下げていてくれれば良いのだが」
「……」
 レナードは少し俯いて考え込むが、すぐに顔を上げた。
「まあ、いずれにせよ、マルティナ殿下はきっと母上の事を知っても『それでもレナードが良い』と言ってくれますから」
 キッパリと言うレナードに、父と母はまた顔を見合わせて、互いに微笑んだ。


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