第二王子は婚約破棄して王太子になりたいらしい。

ねーさん

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番外編下

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 キャストン邸を訪れたマルティナに、レナードが母の事を話すと、マルティナは眼をキラキラと輝かせながら言った。
「お義母様、格好良いです!」
「そう?」
「だってレナード様、家が厳しい状況の時に自分の学費を稼ぎ出す…そもそも『じゃあ自分がお金を稼ごう』と考えて、実行できる令嬢なんていませんわ。本当に格好良すぎです」
「まあ、確かに実行する令嬢はいないだろうね」
 レナードは苦笑いしながらマルティナを見る。
 ああ、こういう処、本当に好きだな…
「まあ、それで、その伯爵家がもしかすると母の話を広げるか、殿下に何か言って来るかも知れないと父と母が心配してて」
「私はまったく気にならないわ。陛下や王太子殿下お兄様も気にもしないわ、きっと。それに本当にまだ恨んでいたら、フィオナとお兄様が婚約した時にも何かして来ていたんじゃないかしら?」
「そうだな」
「それに」
「ん?」
「レナード様がお付き合いしていた令嬢と婚姻できなくて…私としては良かったんですもの」
 少し頬を赤くして、マルティナがレナードを見る。
 …ああ、かわいい。
 レナードはマルティナの髪を一束手に取った。
「殿下」
「…もうすぐ『殿下』じゃなくなるんだから、呼び方を変えてくださる約束です」
 マルティナが拗ねたように言う。
「そうだったね。ごめん慣れなくて。…ティナ」
 微笑んで、髪に口付ける。
「…はい」
「私も、あの時断られて、結果ティナと結婚できる事になって…本当に良かったと思ってるよ」

-----

「明日はレナード様の結婚式か…」
 女性がそう呟くと、ソファの隣に座った男性が苦笑いする。
「世間では『マルティナ殿下が降嫁される日』と言うのに、君にとっては『レナード様の結婚式の日』なんだな」
「あ、ごめんなさい。私…」
「いいよ。君と『レナード様』が昔お付き合いをしていた事は知ってるしね。良い思い出なんだろ?」
「はい」
 男性は女性の肩を抱き寄せて頬に口付けた。

 俺と彼女の婚約が整った後「レナード様」の父キャストン伯爵が俺の元を訪れて言った。
「君の父上は今も私と妻を恨んでいるようだが、それは子供世代には関係ない事なのに、敢えてこういう事をするから…だから私も君を巻き込む事にするよ。これ以上私怨で私の子供たちの人生に介入するのなら、君も、君の弟妹も、ただでは済ませない。そう君の父上に伝えなさい」
 黒い威圧感を漂わせながらニッコリと笑う伯爵に心底ゾッとした俺は、すぐに父にその言葉を伝えた。
 そこで父から、キャストン伯爵へ恨みがあり、前からキャストン家の息子に縁談が持ち上がれば自分の子供の縁談をぶつけて横取りするつもりでいた、と聞かされる。
 自分の子供…つまり俺。
 父は俺の人生とか幸せとかを何だと思ってるんだ?
 更に父の恨みも、自業自得の逆恨みだと知った。
「父上、これ以上キャストン家に何かする気なら、俺も許しませんよ」

 彼女は本当に「レナード様」が好きだったらしく、俺と婚約した後も影で泣いているのを何度か見掛けた。
 だからと言って、今更婚約解消しても彼女と「レナード様」のよりが戻る事はないだろう。
 それに俺は影では泣いているのに、俺の前ではそれをおくびにも出さない彼女の健気さが愛おしくなったのだ。
 絶対、俺と婚約した事を後悔させないように、幸せにする。
 そう心に誓った。
 
 キャストン伯爵家の次女が第二王子と婚約した時、キャストン伯爵夫人の醜聞を広めようとしていた父を止めた。
「これ以上何かしたら許さないと、俺は忠告しましたよ?父上」
 父から爵位を取り上げて、無理矢理隠居させた。

 王女マルティナがキャストン伯爵家へ降嫁すると発表された日、彼女が涙を流した。
 すでに俺と彼女は結婚し、穏やかで幸せな日々を過ごしていると思っていたが、実は彼女はまだ「レナード様」を想っていたのか?
 一瞬そう思った俺に、彼女は泣きながら微笑んで言った。
「レナード様が幸せになって良かった…」

「王女が伯爵家に降嫁するなんて前例がないですよね?つまりレナード様とマルティナ殿下はとてもとても想い合っておられるって事ですわ。ああ…何て素敵なの!」
 本当に嬉しそうに言う彼女を思わず抱きしめた。
「旦那様…私がレナード様の話をするのは不快ですか?」
「いや。過去が良い思い出で、君が今俺の事が好きならそれで良い」
「私は旦那様が大好きですよ」
「なら良いんだ」
 彼女は俺の肩にすりすりと頬を押し付けた。

-----

「え?これお母様が採った石なの?」
 王宮の王太子妃の応接室で、フィオナが青い石のあしらわれたペンダントを手にして言った。
「そうなの。お義母様『昔取った杵柄よ~』って。蛍石の採集が最近の趣味で、お義父様もたまに一緒に採石しに行ってるんですって」
 マルティナが楽しそうに言う。
「お母様らしいわ…領地生活楽しんでるみたいで良かった」
「それでこのペンダントはレナード様が領地に行った時にお義母様からフィオナへって託かったんですって」
「私に?」
「フィオナと、生まれて来る王子か王女に。お守りにって」
「…ちょっと気が早くない?」
 フィオナは少し膨らんだ自分のお腹を撫でた。
「もう六カ月でしょう?もうすぐよ」
 安定期に入り、王太子妃フィオナの第一子懐妊が公表されたのはついこの間だ。領地の父と母には妊娠が分かるとすぐに手紙で知らせていたが、側にいない分心配を掛けているのだろう。
「ふふ。そうね。男の子でも女の子でも身に付けられる良いデザインだわ。石にレオン様の紋章を彫ってもらおうかな」
 フィオナの手の中で、綺麗な八角形に劈開へきかいされた蛍石がキラキラと輝いていた。



         ー完ー


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