36 / 36
番外編下
しおりを挟む
下
キャストン邸を訪れたマルティナに、レナードが母の事を話すと、マルティナは眼をキラキラと輝かせながら言った。
「お義母様、格好良いです!」
「そう?」
「だってレナード様、家が厳しい状況の時に自分の学費を稼ぎ出す…そもそも『じゃあ自分がお金を稼ごう』と考えて、実行できる令嬢なんていませんわ。本当に格好良すぎです」
「まあ、確かに実行する令嬢はいないだろうね」
レナードは苦笑いしながらマルティナを見る。
ああ、こういう処、本当に好きだな…
「まあ、それで、その伯爵家がもしかすると母の話を広げるか、殿下に何か言って来るかも知れないと父と母が心配してて」
「私はまったく気にならないわ。陛下や王太子殿下も気にもしないわ、きっと。それに本当にまだ恨んでいたら、フィオナとお兄様が婚約した時にも何かして来ていたんじゃないかしら?」
「そうだな」
「それに」
「ん?」
「レナード様がお付き合いしていた令嬢と婚姻できなくて…私としては良かったんですもの」
少し頬を赤くして、マルティナがレナードを見る。
…ああ、かわいい。
レナードはマルティナの髪を一束手に取った。
「殿下」
「…もうすぐ『殿下』じゃなくなるんだから、呼び方を変えてくださる約束です」
マルティナが拗ねたように言う。
「そうだったね。ごめん慣れなくて。…ティナ」
微笑んで、髪に口付ける。
「…はい」
「私も、あの時断られて、結果ティナと結婚できる事になって…本当に良かったと思ってるよ」
-----
「明日はレナード様の結婚式か…」
女性がそう呟くと、ソファの隣に座った男性が苦笑いする。
「世間では『マルティナ殿下が降嫁される日』と言うのに、君にとっては『レナード様の結婚式の日』なんだな」
「あ、ごめんなさい。私…」
「いいよ。君と『レナード様』が昔お付き合いをしていた事は知ってるしね。良い思い出なんだろ?」
「はい」
男性は女性の肩を抱き寄せて頬に口付けた。
俺と彼女の婚約が整った後「レナード様」の父キャストン伯爵が俺の元を訪れて言った。
「君の父上は今も私と妻を恨んでいるようだが、それは子供世代には関係ない事なのに、敢えてこういう事をするから…だから私も君を巻き込む事にするよ。これ以上私怨で私の子供たちの人生に介入するのなら、君も、君の弟妹も、ただでは済ませない。そう君の父上に伝えなさい」
黒い威圧感を漂わせながらニッコリと笑う伯爵に心底ゾッとした俺は、すぐに父にその言葉を伝えた。
そこで父から、キャストン伯爵へ恨みがあり、前からキャストン家の息子に縁談が持ち上がれば自分の子供の縁談をぶつけて横取りするつもりでいた、と聞かされる。
自分の子供…つまり俺。
父は俺の人生とか幸せとかを何だと思ってるんだ?
更に父の恨みも、自業自得の逆恨みだと知った。
「父上、これ以上キャストン家に何かする気なら、俺も許しませんよ」
彼女は本当に「レナード様」が好きだったらしく、俺と婚約した後も影で泣いているのを何度か見掛けた。
だからと言って、今更婚約解消しても彼女と「レナード様」のよりが戻る事はないだろう。
それに俺は影では泣いているのに、俺の前ではそれをおくびにも出さない彼女の健気さが愛おしくなったのだ。
絶対、俺と婚約した事を後悔させないように、幸せにする。
そう心に誓った。
キャストン伯爵家の次女が第二王子と婚約した時、キャストン伯爵夫人の醜聞を広めようとしていた父を止めた。
「これ以上何かしたら許さないと、俺は忠告しましたよ?父上」
父から爵位を取り上げて、無理矢理隠居させた。
王女マルティナがキャストン伯爵家へ降嫁すると発表された日、彼女が涙を流した。
すでに俺と彼女は結婚し、穏やかで幸せな日々を過ごしていると思っていたが、実は彼女はまだ「レナード様」を想っていたのか?
一瞬そう思った俺に、彼女は泣きながら微笑んで言った。
「レナード様が幸せになって良かった…」
「王女が伯爵家に降嫁するなんて前例がないですよね?つまりレナード様とマルティナ殿下はとてもとても想い合っておられるって事ですわ。ああ…何て素敵なの!」
本当に嬉しそうに言う彼女を思わず抱きしめた。
「旦那様…私がレナード様の話をするのは不快ですか?」
「いや。過去が良い思い出で、君が今俺の事が好きならそれで良い」
「私は旦那様が大好きですよ」
「なら良いんだ」
彼女は俺の肩にすりすりと頬を押し付けた。
-----
「え?これお母様が採った石なの?」
王宮の王太子妃の応接室で、フィオナが青い石のあしらわれたペンダントを手にして言った。
「そうなの。お義母様『昔取った杵柄よ~』って。蛍石の採集が最近の趣味で、お義父様もたまに一緒に採石しに行ってるんですって」
マルティナが楽しそうに言う。
「お母様らしいわ…領地生活楽しんでるみたいで良かった」
「それでこのペンダントはレナード様が領地に行った時にお義母様からフィオナへって託かったんですって」
「私に?」
「フィオナと、生まれて来る王子か王女に。お守りにって」
「…ちょっと気が早くない?」
フィオナは少し膨らんだ自分のお腹を撫でた。
「もう六カ月でしょう?もうすぐよ」
安定期に入り、王太子妃フィオナの第一子懐妊が公表されたのはついこの間だ。領地の父と母には妊娠が分かるとすぐに手紙で知らせていたが、側にいない分心配を掛けているのだろう。
「ふふ。そうね。男の子でも女の子でも身に付けられる良いデザインだわ。石にレオン様の紋章を彫ってもらおうかな」
フィオナの手の中で、綺麗な八角形に劈開された蛍石がキラキラと輝いていた。
ー完ー
キャストン邸を訪れたマルティナに、レナードが母の事を話すと、マルティナは眼をキラキラと輝かせながら言った。
「お義母様、格好良いです!」
「そう?」
「だってレナード様、家が厳しい状況の時に自分の学費を稼ぎ出す…そもそも『じゃあ自分がお金を稼ごう』と考えて、実行できる令嬢なんていませんわ。本当に格好良すぎです」
「まあ、確かに実行する令嬢はいないだろうね」
レナードは苦笑いしながらマルティナを見る。
ああ、こういう処、本当に好きだな…
「まあ、それで、その伯爵家がもしかすると母の話を広げるか、殿下に何か言って来るかも知れないと父と母が心配してて」
「私はまったく気にならないわ。陛下や王太子殿下も気にもしないわ、きっと。それに本当にまだ恨んでいたら、フィオナとお兄様が婚約した時にも何かして来ていたんじゃないかしら?」
「そうだな」
「それに」
「ん?」
「レナード様がお付き合いしていた令嬢と婚姻できなくて…私としては良かったんですもの」
少し頬を赤くして、マルティナがレナードを見る。
…ああ、かわいい。
レナードはマルティナの髪を一束手に取った。
「殿下」
「…もうすぐ『殿下』じゃなくなるんだから、呼び方を変えてくださる約束です」
マルティナが拗ねたように言う。
「そうだったね。ごめん慣れなくて。…ティナ」
微笑んで、髪に口付ける。
「…はい」
「私も、あの時断られて、結果ティナと結婚できる事になって…本当に良かったと思ってるよ」
-----
「明日はレナード様の結婚式か…」
女性がそう呟くと、ソファの隣に座った男性が苦笑いする。
「世間では『マルティナ殿下が降嫁される日』と言うのに、君にとっては『レナード様の結婚式の日』なんだな」
「あ、ごめんなさい。私…」
「いいよ。君と『レナード様』が昔お付き合いをしていた事は知ってるしね。良い思い出なんだろ?」
「はい」
男性は女性の肩を抱き寄せて頬に口付けた。
俺と彼女の婚約が整った後「レナード様」の父キャストン伯爵が俺の元を訪れて言った。
「君の父上は今も私と妻を恨んでいるようだが、それは子供世代には関係ない事なのに、敢えてこういう事をするから…だから私も君を巻き込む事にするよ。これ以上私怨で私の子供たちの人生に介入するのなら、君も、君の弟妹も、ただでは済ませない。そう君の父上に伝えなさい」
黒い威圧感を漂わせながらニッコリと笑う伯爵に心底ゾッとした俺は、すぐに父にその言葉を伝えた。
そこで父から、キャストン伯爵へ恨みがあり、前からキャストン家の息子に縁談が持ち上がれば自分の子供の縁談をぶつけて横取りするつもりでいた、と聞かされる。
自分の子供…つまり俺。
父は俺の人生とか幸せとかを何だと思ってるんだ?
更に父の恨みも、自業自得の逆恨みだと知った。
「父上、これ以上キャストン家に何かする気なら、俺も許しませんよ」
彼女は本当に「レナード様」が好きだったらしく、俺と婚約した後も影で泣いているのを何度か見掛けた。
だからと言って、今更婚約解消しても彼女と「レナード様」のよりが戻る事はないだろう。
それに俺は影では泣いているのに、俺の前ではそれをおくびにも出さない彼女の健気さが愛おしくなったのだ。
絶対、俺と婚約した事を後悔させないように、幸せにする。
そう心に誓った。
キャストン伯爵家の次女が第二王子と婚約した時、キャストン伯爵夫人の醜聞を広めようとしていた父を止めた。
「これ以上何かしたら許さないと、俺は忠告しましたよ?父上」
父から爵位を取り上げて、無理矢理隠居させた。
王女マルティナがキャストン伯爵家へ降嫁すると発表された日、彼女が涙を流した。
すでに俺と彼女は結婚し、穏やかで幸せな日々を過ごしていると思っていたが、実は彼女はまだ「レナード様」を想っていたのか?
一瞬そう思った俺に、彼女は泣きながら微笑んで言った。
「レナード様が幸せになって良かった…」
「王女が伯爵家に降嫁するなんて前例がないですよね?つまりレナード様とマルティナ殿下はとてもとても想い合っておられるって事ですわ。ああ…何て素敵なの!」
本当に嬉しそうに言う彼女を思わず抱きしめた。
「旦那様…私がレナード様の話をするのは不快ですか?」
「いや。過去が良い思い出で、君が今俺の事が好きならそれで良い」
「私は旦那様が大好きですよ」
「なら良いんだ」
彼女は俺の肩にすりすりと頬を押し付けた。
-----
「え?これお母様が採った石なの?」
王宮の王太子妃の応接室で、フィオナが青い石のあしらわれたペンダントを手にして言った。
「そうなの。お義母様『昔取った杵柄よ~』って。蛍石の採集が最近の趣味で、お義父様もたまに一緒に採石しに行ってるんですって」
マルティナが楽しそうに言う。
「お母様らしいわ…領地生活楽しんでるみたいで良かった」
「それでこのペンダントはレナード様が領地に行った時にお義母様からフィオナへって託かったんですって」
「私に?」
「フィオナと、生まれて来る王子か王女に。お守りにって」
「…ちょっと気が早くない?」
フィオナは少し膨らんだ自分のお腹を撫でた。
「もう六カ月でしょう?もうすぐよ」
安定期に入り、王太子妃フィオナの第一子懐妊が公表されたのはついこの間だ。領地の父と母には妊娠が分かるとすぐに手紙で知らせていたが、側にいない分心配を掛けているのだろう。
「ふふ。そうね。男の子でも女の子でも身に付けられる良いデザインだわ。石にレオン様の紋章を彫ってもらおうかな」
フィオナの手の中で、綺麗な八角形に劈開された蛍石がキラキラと輝いていた。
ー完ー
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして
Rohdea
恋愛
──ある日、婚約者が記憶喪失になりました。
伯爵令嬢のアリーチェには、幼い頃からの想い人でもある婚約者のエドワードがいる。
幼馴染でもある彼は、ある日を境に無口で無愛想な人に変わってしまっていた。
素っ気無い態度を取られても一途にエドワードを想ってきたアリーチェだったけど、
ある日、つい心にも無い言葉……婚約破棄を口走ってしまう。
だけど、その事を謝る前にエドワードが事故にあってしまい、目を覚ました彼はこれまでの記憶を全て失っていた。
記憶を失ったエドワードは、まるで昔の彼に戻ったかのように優しく、
また婚約者のアリーチェを一途に愛してくれるようになったけど──……
そしてある日、一人の女性がエドワードを訪ねて来る。
※婚約者をざまぁする話ではありません
※2022.1.1 “謎の女”が登場したのでタグ追加しました
伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい
瑞原唯子
恋愛
だから、きっと、恋を知らないままでよかった。
伯爵令嬢のシャーロットはもうすぐ顔も知らないおじさまと結婚する。だから最後にひとつだけわがままを叶えようと屋敷をこっそり抜け出した。そこで知り合ったのは王都の騎士団に所属するという青年で——。
---
本編完結しました。番外編も書きたかったエピソードはひとまず書き終わりましたが、気が向いたらまた何か書くかもしれません。リクエストなどありましたらお聞かせください。参考にさせていただきます。
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
婚約破棄された幼い公爵令嬢、目覚めたら絶世の美女でした
鍛高譚
恋愛
『幼すぎる』と婚約破棄された公爵令嬢ですが、意識不明から目覚めたら絶世の美女になっていました
幼すぎる、頼りない――そんな理由で婚約者に見限られた公爵令嬢シルフィーネ。
心ない言葉に傷ついた彼女は、事故に遭い意識不明となってしまう。
しかし一年後、彼女は奇跡的に目を覚ます。
そして目覚めた彼女は――かつての面影を残しつつも、見る者すべてを惹きつける絶世の美女へと変貌を遂げていた!
周囲の反応は一変。婚約破棄を後悔する元婚約者、熱視線を送る他家の令息たち、さらには王太子からの突然の縁談まで舞い込み――?
「もう、誰にも傷つけられたくない。私は私の幸せを手に入れるの」
これは、冷たく突き放された少女が美しく咲き誇り、誇りと自由を手に入れる、ざまぁ&逆転恋愛劇。
婚約者候補を見定めていたら予定外の大物が釣れてしまった…
矢野りと
恋愛
16歳になるエミリア・ダートン子爵令嬢にはまだ婚約者がいない。恋愛結婚に憧れ、政略での婚約を拒んできたからだ。
ある日、理不尽な理由から婚約者を早急に決めるようにと祖父から言われ「三人の婚約者候補から一人選ばなければ修道院行きだぞ」と脅される。
それならばと三人の婚約者候補を自分の目で見定めようと自ら婚約者候補達について調べ始める。
その様子を誰かに見られているとも知らずに…。
*設定はゆるいです。
*この作品は作者の他作品『私の孤独に気づいてくれたのは家族でも婚約者でもなく特待生で平民の彼でした』の登場人物第三王子と婚約者のお話です。そちらも読んで頂くとより楽しめると思います。
誰にも口外できない方法で父の借金を返済した令嬢にも諦めた幸せは訪れる
しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ジュゼットは、兄から父が背負った借金の金額を聞いて絶望した。
しかも返済期日が迫っており、家族全員が危険な仕事や売られることを覚悟しなければならない。
そんな時、借金を払う代わりに仕事を依頼したいと声をかけられた。
ジュゼットは自分と家族の将来のためにその依頼を受けたが、当然口外できないようなことだった。
その仕事を終えて実家に帰るジュゼットは、もう幸せな結婚は望めないために一人で生きていく決心をしていたけれど求婚してくれる人がいたというお話です。
転生令嬢は腹黒夫から逃げだしたい!
野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
華奢で幼さの残る容姿をした公爵令嬢エルトリーゼは
ある日この国の王子アヴェルスの妻になることになる。
しかし彼女は転生者、しかも前世は事故死。
前世の恋人と花火大会に行こうと約束した日に死んだ彼女は
なんとかして前世の約束を果たしたい
ついでに腹黒で性悪な夫から逃げだしたい
その一心で……?
◇
感想への返信などは行いません。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる