幼なじみに契約結婚を持ちかけられました。

ねーさん

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「私ってストレスが身体に出るタイプだったのね…」
 リンジーはバルコニーの手摺に両手を乗せて、遠くの山々を眺めながら呟いた。
「姉様、大丈夫?」
 部屋の中から弟のアンジーが出て来る。
「もう平気よ。やっぱり領地は良いわね」
 言いながら大きく息を吸う。
「そう?なら良いけど」
「折角領地に来てるのに何も手伝えなくてごめんね」
「それは大丈夫。姉様の身体が一番だよ」
 ニコッと笑うアンジー。
 私の弟は何て良い子なの。

「そうだ。アンジー、またダンスの練習に付き合ってくれる?」
「ダンス?でも舞踏会は終わったし、卒業パーティーはまだ先じゃ?」
「隣の領地の伯爵家が夜会を開くんですって。だから行って来ようと思って」
「夜会?姉様が?」
「そうよ」

 リンジーは結局、ヒューイの誕生パーティーの後も熱が上がったり下がったりを繰り返し、夏期休暇の前半一か月は寝たり起きたりして過ごしてしまった。
 ヒューイの誕生パーティーが終わったらすぐ領地こっちに来て、豪雨や台風の被害の復旧作業や農作業を手伝おうと思ってたのに、こっちには来れたけど、作業は全然できなかったわ。
 ヒューイの援助のお陰で復旧は随分進んでるらしいから、そこはちょっと複雑なんだけど、私、開き直る事にしたの。
 ユーニスがザインとどういう関係を築くのか、婚約するのかしないのか、ユーニスの事はユーニスに任せる。私はとにかく「条件」を満たす男性を探す。そう決意したら熱は引いた。
 学園では私はヒューイの婚約者と知られているから、学園内で相手を探すのは無理。ヒューイとグラフトン公爵家を敵に回したい男性はいないもの。
 だからお父様に招待状が来ていた隣の領地の伯爵家の夜会へ行く事にした。王都から離れたこの地方ならグラフトン公爵家の影響も薄いから。

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 王都のグラフトン邸のヒューイの部屋で、ヒューイとザインはソファに並んで座っていた。
「ヒューイ、それリンジーからの誕生日プレゼントだよね」
 ザインがテーブルの上に便箋と封筒と一緒に置いてある万年筆を指して聞くと、ヒューイは深緑の軸の万年筆を手に取り「ああ」と頷く。
「リンジーに手紙を書いてるの?」
 便箋の頭に「リンジーへ」と書いてある。その下の罫線のある広いスペースは白紙のままだ。
「一応婚約者だからな。オルディス家の手前、週一回くらいは手紙を届けておかないと」
「何を書くの?」
「正直、書く事がなくて苦痛だ」
 リンジーは家族に手紙を見せたりはしないだろう。だから本当に一言しか書かずに送ったりしているが。
「ははは。確かにヒューイは手紙苦手そうだよね」
 ザインが笑う。
 俺が婚約者リンジーに書く手紙が気になるのか。かわいいな。ザインは。

「これ、俺とケント殿下のと同じ物だね。色は違うけど」
 ヒューイの手から万年筆を取ると、ザインはそれをじっと見ながら言った。
「ザインが銀で、ケントが紫だったな」
 ザインの髪の銀、ケントの髪と瞳の紫、ヒューイの瞳の緑。
「うん。俺とケント殿下がこの万年筆をリンジーから貰ったのは一昨年の誕生日だ。もしかしてリンジーはヒューイにもこれを渡すつもりで準備していたのかな?」
 十二歳の誕生日からリンジーからのプレゼントは貰っていない。リンジーは渡すつもりのないプレゼントを用意していたのか?もしかすると毎年?
「……」
「リンジーはヒューイを好きじゃないって言ってたけど、実はずっと…」
「リンジーの話しはいい」
 ザインの手から万年筆を取ると、ヒューイはザインの肩を抱き寄せて、唇を重ねた。
「…ヒューイ」
 ゆっくりとザインをソファに押し倒す。
 ふと、ヒューイの脳裏に自分の隣で眠っていたリンジーの姿が浮かぶ。
 リンジーから手紙の返事が来る事はないが…熱は下がったんだろうか。
「ヒューイ?」
 ザインが首を傾げてヒューイを見た。
 ザインといるのにリンジーの事を考えるなんて、どうかしているな。
 ヒューイは頭の中からリンジーを追い出して、ザインに微笑み掛ける。
「…好きだ。ザイン」
「俺も好きだよ。ヒューイ」
 蕩けるような笑顔を浮かべたザインに、ヒューイはまた口付けをした。



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