幼なじみに契約結婚を持ちかけられました。

ねーさん

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 ザインは、兄が出奔してから親や家の者の目が厳しくなり、週末や長期休暇にヒューイと会いにくくなったのだと言った。
 それでも父同士が友人なのもあり、ヒューイがザインの元を訪れるのは比較的受け入れられていたそうだ。
 そして、ヒューイがリンジーと婚約した頃、最初はおまじない程度にしか思っていなかった薬の量が増えた。
 リンジーには「ヒューイなんて好きじゃない」と言わせるように話しを振った。ヒューイには「リンジーとは契約結婚」と繰り返し吹き込み「ザインが好き」と言わせた。

 リンジーが契約結婚をすんなりと受け入れれば、それでヒューイは満足するだろうとザインは考えたが、リンジーはそれを拒んだ。
 ザインは、リンジーが条件を達成してヒューイとの婚約が解消されるのを望む気持ちと、リンジーが自分以外の男性と結ばれるのをヒューイが黙って認める筈はない。その時のヒューイの感情の変化を思うと、条件を達成できない事を望む気持ちで揺れ動く。
 現に、誕生日にケントに挑発されたり、ルイスとのデートの尾行をしたり、ヒューイはリンジーに男性が近付く度に無意識にも意識的にもその男性をリンジーから引き離そうとする。
 ヒューイが、自分がリンジーに執着している事に気付くのも時間の問題だとザインは思った。
 
 婚約破棄を決意しながらも実行しないヒューイに焦れて強い薬を手に入れた。
 より強い暗示を、より長くかけられる。その間に婚約破棄し、リンジーは学園を辞め、王都から出ると良い。
 そして、願わくば、領地で誰かと結ばれて…ヒューイが手出しできない既成事実ができれば、きっとヒューイも諦めるだろう。

 俺はいつかヒューイに恨まれるだろうか。
 それでも…手離したくなかったんだ。

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「ザイン、お前は一つ間違っている」
 ヒューイがそう言うと、俯いて泣きそうな表情かおで話していたザインが視線を上げてヒューイを見た。
「…間違いは…一つじゃないと思うけど…?」
 不思議そうにザインが言うと、ヒューイは「まあな」と笑う。

「リンジーが例え学園を辞め、領地で誰かと結婚したとしても、俺は諦めない。そこが間違いだ」
「…はい?」
 きっぱりと言うヒューイ。リンジーは目を見開いて奇異な物を見るかのようにヒューイを見た。
「そんな気もしていたけど…」
 ザインが呟く。
 え?結婚したとしても諦めないってどういう事?
 そんな気もしてたってどういう事なの?

「ザイン、俺は自分が薬を飲まされていた事よりも、リンジーを巻き込んだ事の方が許せない」
 低い声で言うヒューイ。
 ザインは鎮痛な面持ちで頷いた。
 え?結婚したとしても諦めないって発言、流しちゃうの?ヒューイとザインにとってはそれは当たり前って認識だから?
 …自分が関わる事なのに何かついて行けないなあ。
 そもそもヒューイが私を好きだっていう事自体が信じられないからなのかな。
 リンジーは真剣な表情のヒューイとザインを見る。
「ザインはあの男がケントの側近だった事、本当に知らなかったんだよな?」
「もちろん、本当に知らなかったよ。俺はケント殿下の幼なじみの一人ではあるけど、王宮に会いに行ける程親しい訳ではないし」
「そうか…」
 少し安心したように頷くヒューイ。

「ヒューイはあの人を知ってたの?あの人、私とはできるだけ顔を合わせないようにしていたって言ってたけど…」
「俺もケントの所で見掛けた程度だな。司書としてのあの男は見掛けた事もない」
 リンジーの言葉に答えるヒューイにザインは苦笑いを浮かべた。
「そもそもヒューイは学園の図書室へあまり行かないから…だから俺にとっては都合が良かったんだ」
 そうか。見たい本があればヒューイは王城の図書室へ行くから、学園の図書室へは行かないんだわ。
 もしかして、あの人、そういう処も見越して司書になったのかも。

「ザイン」
 ヒューイはザインを見て、名前を呼びながらも、リンジーの手を握る。
「……」
 ザインはヒューイを見ながら辛そうに眉を寄せた。
「俺はザインを真剣に好きだった。いや、今も好きだ。しかし、それ以上にリンジーが大切なんだ」
「…うん」
「刷り込みなのか、植え付けられているのか…いっそ洗脳なのかも知れないが、俺の結婚する相手はリンジーしか考えられない」
「洗脳…」
 思わず呟くリンジーに視線を向けるとヒューイは握った手に力を入れて少し笑う。
 ドキンッ。
 リンジーの心臓が大きく鳴った。
 ヒューイがこんな笑顔を私に向けるなんて…

「俺はこれから、リンジーに俺の気持ちを信じてもらうために行動をする。だからザインとの恋人関係はここで解消する」
 ヒューイはザインに真っ直ぐに視線を向けると、はっきりとそう言う。
「…わかった」
 頷くザインの頬に涙が一筋流れた。



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