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卒業パーティーの日がやって来た。
ロイドは自分の腕に絡まるようにしがみつくローズを見て、気付かれないよう小さくため息を吐いた。
黒の夜会服のロイドが紫のドレスを纏うローズをエスコートして会場に入ると、ザワザワと騒めきが広がった。
「ロイド殿下はどうして男爵令嬢を連れているんだ?」
「殿下の婚約者は?」
ロイドは視線だけで会場を見渡す。
…リザがいない?
ステラとジェイクは見えたが、近くにリザの姿はない。レイモンドと共に居るのかと思ったが、レイモンドは女生徒に囲まれており、リザはいないようだ。
「皆さま好き勝手言ってますけど、あの女が殿下の婚約者なのも今日までよ」
ローズは扇で口元を隠して言うと、ロイドを仰ぎ見て「ね?」と微笑んだ。
「……」
「そういえば、殿下聞きました?あの女、あそこで女性に囲まれてる公爵令息と一緒に外国に行くんですって」
リザが?
思わず視線を動かしてレイモンドを見た。
「国外追放されても、男と一緒じゃあご褒美みたいなもんね」
確かにリザは昼休憩もレイモンドと一緒に居る。放課後も図書室で一緒に居るのを見掛けた。
楽し気に笑う、リザ。
「ロイド殿下?顔色が悪いですわ」
ローズがロイドの頬へ手を伸ばした。
ロイドはパッと顔を背けて、ローズの手首を掴む。
「殿下?」
きょとんと自分を見るローズを見据えて、
「触るな」
そう言うと、ロイドは大きく息を吐いた。
その時
「私はここで、ローズ・エンジェル男爵令嬢を、侯爵令嬢殺害未遂で告発いたします」
会場に男性の声が響いた。
「なっ!?」
ローズが声のした方へ顔を向ける。パーティー会場より一段高い舞台へクリストファーが立っていた。
「クリス!何を言い出すの?」
ローズはクリストファーの方へ踏み出そうとするが、掴んだ手首を引いてロイドが引き止める。
「ロイド殿下!クリスを止めてください!」
ロイドは無言で首を振った。
「まさか…」
ローズは驚愕の表情を浮かべロイドの手を振り払おうとする。
「イヤ!私はヒロインなのよ!?何故私が告発なんてされなきゃいけないの!?」
「ローズ・エンジェル男爵令嬢は、ゴヴァン・ニューマンを利用し、リザ・クロフォード侯爵令嬢の飲み物に毒物を混入し、殺害しようとしました」
クリストファーが言うと、会場の後ろに居た数人の男性が頷く。王宮の検察官のようだ。
「ニューマン先生?」「そう言えば冬期になって急に辞めたと聞いたが…」「毒物を混入?」「まさか…」
ザワザワと会場が騒めいた。
「嘘よ!ゴヴァンは『薬』だと言ったから私は信じたのよ!」
ローズがクリストファーに向かって叫ぶ。クリストファーはゆっくりとかぶりを振った。
「ゴヴァン・ニューマンはエリック・ドイルから『一定以上の時間熱すると神経毒となる薬』と説明を受け、それをローズ・エンジェル男爵令嬢にも話したと証言している」
「俺は先生に『下剤』を渡しただけだ!くれぐれも熱しないよう注意もした!殿下の前で腹が痛くなって恥をかかせるつもりで!」
ローズとロイドを近くで見ていたエリックが声を上げた。
「…どうしてわざわざそのような取扱いの難しい薬を渡した?下剤ならばもっと他にもあるだろう?」
「…っ」
エリックを見ながらロイドが言うと、エリックは言葉に詰まる。
「エリック・ロイドの家、ロイド商会は危険な薬を資格のない者に渡した罪で薬剤の卸売りを禁じられ、エリックは卒業後、ドイル家の籍からの抹消が決まっております」
クリストファーが言うと、エリックはガクリと膝から崩れた。
「…俺はローズに頼まれたから…ローズがロイド殿下の婚約者を消したいと言うから…」
「何を言うの!エリック!私は殺してなんて意味で消したいと言ったんじゃないわ!」
ローズがエリックに言うと、ロイドはローズの手首を掴む手に力を入れた。
「いっ!」
「つまり私の婚約者であるリザ・クロフォード侯爵令嬢を『消したい』と言った事は認めるんだな?」
ロイドがローズを睨みながら言う。ローズの顔がサッと青醒め、震える唇を噛みしめた。
ギリギリと音がする程唇を噛みしめた後、ローズはキッとロイドを睨む。
「どうして!?私は殿下の婚約者を消したかっただけ!『悪役令嬢』を排除しようとしただけよ!何が悪いの!?」
「私たちは、君のゲームの登場人物ではない。自身の感情のある生身の人間なんだ」
ロイドがそう言うと、ローズはブンブンと首を振った。
「だって皆んな簡単に私の事を好きになって思い通りに動いてくれたもの!どうして殿下はシナリオ通りに動かないの!?ヒロインなのよ!私は!」
捲し立てるローズに、ロイドはゆっくりと言った。
「私のヒロインは君ではない」
ロイドの落ち着いた声に、ローズはわなわなと震えだす。
「……殿下の…ヒロインは私じゃない?」
「そうだ」
ローズはペタリと床に座り込むと頭を抱えて俯いた。
「どうして?私がヒロインよ。…私がヒロインのローズなのに…どうして………」
ローズが壇上に視線をやると、来賓であるサイモンとオリーが舞台袖の幕の向こうに居るのが見えた。
そして、オリーのドレスの向こうに、黒いドレスの裾が揺れるのが目に入る。
「…あの女のせいよ…」
ローズは勢いよく立ち上がると、黒いドレスに向かって走り出した。
卒業パーティーの日がやって来た。
ロイドは自分の腕に絡まるようにしがみつくローズを見て、気付かれないよう小さくため息を吐いた。
黒の夜会服のロイドが紫のドレスを纏うローズをエスコートして会場に入ると、ザワザワと騒めきが広がった。
「ロイド殿下はどうして男爵令嬢を連れているんだ?」
「殿下の婚約者は?」
ロイドは視線だけで会場を見渡す。
…リザがいない?
ステラとジェイクは見えたが、近くにリザの姿はない。レイモンドと共に居るのかと思ったが、レイモンドは女生徒に囲まれており、リザはいないようだ。
「皆さま好き勝手言ってますけど、あの女が殿下の婚約者なのも今日までよ」
ローズは扇で口元を隠して言うと、ロイドを仰ぎ見て「ね?」と微笑んだ。
「……」
「そういえば、殿下聞きました?あの女、あそこで女性に囲まれてる公爵令息と一緒に外国に行くんですって」
リザが?
思わず視線を動かしてレイモンドを見た。
「国外追放されても、男と一緒じゃあご褒美みたいなもんね」
確かにリザは昼休憩もレイモンドと一緒に居る。放課後も図書室で一緒に居るのを見掛けた。
楽し気に笑う、リザ。
「ロイド殿下?顔色が悪いですわ」
ローズがロイドの頬へ手を伸ばした。
ロイドはパッと顔を背けて、ローズの手首を掴む。
「殿下?」
きょとんと自分を見るローズを見据えて、
「触るな」
そう言うと、ロイドは大きく息を吐いた。
その時
「私はここで、ローズ・エンジェル男爵令嬢を、侯爵令嬢殺害未遂で告発いたします」
会場に男性の声が響いた。
「なっ!?」
ローズが声のした方へ顔を向ける。パーティー会場より一段高い舞台へクリストファーが立っていた。
「クリス!何を言い出すの?」
ローズはクリストファーの方へ踏み出そうとするが、掴んだ手首を引いてロイドが引き止める。
「ロイド殿下!クリスを止めてください!」
ロイドは無言で首を振った。
「まさか…」
ローズは驚愕の表情を浮かべロイドの手を振り払おうとする。
「イヤ!私はヒロインなのよ!?何故私が告発なんてされなきゃいけないの!?」
「ローズ・エンジェル男爵令嬢は、ゴヴァン・ニューマンを利用し、リザ・クロフォード侯爵令嬢の飲み物に毒物を混入し、殺害しようとしました」
クリストファーが言うと、会場の後ろに居た数人の男性が頷く。王宮の検察官のようだ。
「ニューマン先生?」「そう言えば冬期になって急に辞めたと聞いたが…」「毒物を混入?」「まさか…」
ザワザワと会場が騒めいた。
「嘘よ!ゴヴァンは『薬』だと言ったから私は信じたのよ!」
ローズがクリストファーに向かって叫ぶ。クリストファーはゆっくりとかぶりを振った。
「ゴヴァン・ニューマンはエリック・ドイルから『一定以上の時間熱すると神経毒となる薬』と説明を受け、それをローズ・エンジェル男爵令嬢にも話したと証言している」
「俺は先生に『下剤』を渡しただけだ!くれぐれも熱しないよう注意もした!殿下の前で腹が痛くなって恥をかかせるつもりで!」
ローズとロイドを近くで見ていたエリックが声を上げた。
「…どうしてわざわざそのような取扱いの難しい薬を渡した?下剤ならばもっと他にもあるだろう?」
「…っ」
エリックを見ながらロイドが言うと、エリックは言葉に詰まる。
「エリック・ロイドの家、ロイド商会は危険な薬を資格のない者に渡した罪で薬剤の卸売りを禁じられ、エリックは卒業後、ドイル家の籍からの抹消が決まっております」
クリストファーが言うと、エリックはガクリと膝から崩れた。
「…俺はローズに頼まれたから…ローズがロイド殿下の婚約者を消したいと言うから…」
「何を言うの!エリック!私は殺してなんて意味で消したいと言ったんじゃないわ!」
ローズがエリックに言うと、ロイドはローズの手首を掴む手に力を入れた。
「いっ!」
「つまり私の婚約者であるリザ・クロフォード侯爵令嬢を『消したい』と言った事は認めるんだな?」
ロイドがローズを睨みながら言う。ローズの顔がサッと青醒め、震える唇を噛みしめた。
ギリギリと音がする程唇を噛みしめた後、ローズはキッとロイドを睨む。
「どうして!?私は殿下の婚約者を消したかっただけ!『悪役令嬢』を排除しようとしただけよ!何が悪いの!?」
「私たちは、君のゲームの登場人物ではない。自身の感情のある生身の人間なんだ」
ロイドがそう言うと、ローズはブンブンと首を振った。
「だって皆んな簡単に私の事を好きになって思い通りに動いてくれたもの!どうして殿下はシナリオ通りに動かないの!?ヒロインなのよ!私は!」
捲し立てるローズに、ロイドはゆっくりと言った。
「私のヒロインは君ではない」
ロイドの落ち着いた声に、ローズはわなわなと震えだす。
「……殿下の…ヒロインは私じゃない?」
「そうだ」
ローズはペタリと床に座り込むと頭を抱えて俯いた。
「どうして?私がヒロインよ。…私がヒロインのローズなのに…どうして………」
ローズが壇上に視線をやると、来賓であるサイモンとオリーが舞台袖の幕の向こうに居るのが見えた。
そして、オリーのドレスの向こうに、黒いドレスの裾が揺れるのが目に入る。
「…あの女のせいよ…」
ローズは勢いよく立ち上がると、黒いドレスに向かって走り出した。
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