転生令嬢と王子の恋人

ねーさん

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「リザ!」
 目を開けると、目の前にロイドの顔が見えた。
 跪いて、倒れたリザを抱き起こしている。
「…殿下?」
「リザ、大丈夫か?」
 心配そうな表情。
 ここは、ローズの心の中じゃない?
 怖いくらいの静寂。ロイドの声しか聞こえなかった。
 リザがゆっくり周りを見回すと、舞台の上で、広間で、皆が倒れている。
 サイモンはオリーを抱き寄せるようにしたまま。クリストファーは斬られた手を押さえて。王宮の検察官も。生徒たちも。ジェイクがステラを庇うように覆い被さっているのも見えた。
「…ローズは?」
 リザの近くにいた筈のローズの姿がない。
 リザの問いに、ロイドは眉を寄せてかぶりを振る。
「まさか、逃げた?」
「いや…消えた」

-----

「こんな世界、いらない!」
 床にうずくまったローズが顔を上げて叫んだ。

 その瞬間、ローズの身体から眩い光が放たれた。

 眩しさに目を閉じたロイドは瞼に感じる光が弱くなったのを感じて目を開ける。
 すると、周りのすべての人が倒れていた。
 立っているのはロイド一人。
 これは?何が起こったんだ?
 混乱しながら視線を巡らせると、黒いドレスが目に入った。
「…リザ!」
 リザへ駆け寄る。
 意識はないが、呼吸はある。他の人たちも同じようだった。
「リザ」
 跪き、リザの背中に手を入れて抱き起こす。
 いつかのような青白い顔ではなく、眠っているように穏やかな表情かおだ。
 ふと、気付く。
 リザの側、ローズがうずくまっていた場所には舞台の床が見えるばかりだった。
「……消えた?」
 まさか。
「…う」
 リザが呻き声を上げた。見ると眉間に皺を寄せている。
「リザ?」
「……い…だ…」
 微かにリザの声が聞こえて、ゆっくりと目が開いた。

「もしかして、リセットしたのかしら」
 ローズが消えたと聞いたリザが言う。
「リセット?」
 ロイドは立ち上がると、リザの手を引き立ち上がらせた。
「気に食わない結末になりそうだったから、データを放棄したの。ほら、ゲームだから…」
「ああ… 」
 立ち上がったリザは周りをぐるりと見渡す。
「…どうすれば皆んなの意識が戻るのかしら?…まさかずっとこのままなんて事…」
 ゲームの世界だと、プレイヤーにリセットされたらどうなるのだろう。皆このまま意識がないまま、どこかでまた同じ登場人物のゲームの世界が立ち上がるのだろうか?
「…息をしているし、脈もある。どうすれば目覚めるのかは分からんが…」
 ロイドは倒れたクリストファーの手首を持ち、脈拍を確認しながら言った。
「俺の意識があったのも、リザが早く目覚めたのも、転生者だからか?」

「そうですね」
「!」
 男性の声が聞こえ、リザとロイドは声の方へ振り向いた。
「今回のバグはなかなか面白かったですよ」
 倒れた人々の中から、生徒会長のランドルフ・リードがゆらりと立ち上がった。
「ランドルフ?」
「まさか貴方も転生者なの?」
 怪訝そうな表情のロイドとリザにゆっくりと歩み寄ると、ニッコリと笑う。
「私はランドルフ・リードの身体を借りた、ゲーム管理人マスターです」

 ランドルフは「神の視点」でゲームの進行を見守る役目の人物だと名乗る。
「『人物』というのは正確ではないですが…理解しやすく言えば、です」
 リザはランドルフを上目遣いに睨む。
「今回のバグは面白かったって言ったわよね?バグって私?」
「リザさんだけでなく、ロイド殿下も、ローズもです。あとはアレクサンドラさん」
「つまり、転生者はバグって事か?」
 ロイドが言うと、ランドルフは頷く。
「バグとして、私が転生者を配置しています」

 現実世界で不幸に亡くなった人、転生したいと願った人、執着のある人などを、無作為にピックアップしてゲームの主要登場人物に生まれ変わらせるのだ、とランドルフは言う。
 何度もプレイされる世界。各々ルートや様々なエンディングがあるが「神の視点」で見ていると段々つまらなくなって来た。
 そこで、最初は『悪役令嬢』に転生者を据えてみた。すると悪役令嬢は断罪を回避しようとしたり、攻略対象者を射止めようとしたり、モブと結ばれようとしたり、予想のつかない動きをする。
 面白くて、ヒロインや攻略対象に次々と沢山の転生者を据えた。
 たまには自ら攻略対象者や悪役令嬢に成り代わり、予測のつかないゲーム展開を体感してみたりもした。
「組み合わせによって様々な展開があって飽きないんですよ」
 ランドルフは笑う。
「つまり、私たちは貴方の気紛れで転生させられて、貴方はこの世界で私たちが右往左往するのを見て楽しんでいるのね?」
「そうです。今回はローズとロイドとアレクサンドラに転生者を据えました」
「え?」
「そうしたら、ロイドが貴女を引っ張ってきました」


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