転生令嬢と王子の恋人

ねーさん

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「やはり俺がリザを引き寄せたのか…」
 ランドルフの話を聞いてロイドが眉を顰める。
「ロイド殿下…」
 リザはそっとロイドの腕に手を置いた。
「ええ。アレクサンドラとリザさんは誕生日が同じで、ロイドに引っ張られたリザさんはアレクサンドラと入れ替わったんです」
 ランドルフは楽しそうに笑う。
「このような事は初めてで、どうしても展開を近くで見たくて私はランドルフに成りました」
 ランドルフに成り代わり、攻略対象者としてローズに惹かれた演技をしながらロイドとリザを見ていたと言う。
「今回のローズは結局ゲームをリセットしてしまいましたが…」
「リセットすると、どうなるの?」
「通常はこの世界は消え去り、また新たなゲームの世界が生まれます」
「そんな…」
 リザは思わず呟いた。
「世界が消え去るとは?登場人物はどうなる?」
「消えます。この世界のすべてが」
 前世での「死」とも違う「無」になると言う事か。
 愕然とするリザとロイドに、ランドルフは笑顔を向けた。
「大丈夫ですよ。何しろ私も転生者が他の転生者を引き寄せるなど、初めての経験ですから、この先どうなるのか見たいと思っていますから」
「この先?」
 とロイドが訝しげに問う。
「ランドルフ・リードに身体を返し、私は『神の視点』に戻ります。ゲームの強制力はなくなりますが、登場人物たちの感情がどうなるのかは、正直分かりません」
 ランドルフは右手を上げる。
「これからここは『ゲームの世界』ではなく『現実世界』となります」
 そう言うと、指をパチンと鳴らした。

-----

 途端、先程まで静まり返り、リザとロイド、ランドルフの声しかなかった世界に音が溢れ返った。
 緩やかに流れる音楽、人々の騒めき、衣ずれの音、食器の音…
 周りを見渡すと、皆何事もなかったかの様に卒業パーティーを楽しんでいた。
「…ローズの事はなかった事になったの?」
 リザがランドルフに言うと、ランドルフは首を傾げた。
「ローズ?彼女はリザ嬢殺害未遂の罪で国外追放されたろう?」
「え?」
 国外追放
「いつだ?」
 ロイドがランドルフに問うと、ランドルフは困ったように言った。
「マークとニューマン先生が捕縛されたすぐ後、教唆の罪に問われたではないか。ロイド、忘れたのか?」
 ランドルフはゲームマスターの成り代わりをすでに解かれているようだ。
「……」
「あの!ランドルフ様はローズさんをお好きでしたよね?今はどうですか?婚約者様の事は?私の事は嫌いですか?」
 リザはランドルフに詰め寄るように一気に言った。
 ランドルフはリザの勢いに若干仰け反る。
「…確かに私はローズを好きが…ローズがロイドを手に入れるためにリザ嬢を殺そうと企んだと知り、目が覚めた」
「…では今は?」
「今ではローズのどこをそんなに好きだったのか…自分でも良く分からない」
 ランドルフは俯いて言う。そして顔を上げると、リザに向けて跪いた。
「え?」
「リザ嬢、言い訳にしかならないが、下剤と聞いていたとは言え、リザ嬢に薬を飲ませた時、私はローズから頼まれて王宮の侍女たちに手を回した。本当に済まなかった」
 そう言って頭を垂れた。
「考査の不正行為の件も…証拠もないのに何故あんな断罪をしたのか…何故あんなに婚約者を疎んじ、リザ嬢を憎んでいたのか…」
 ランドルフは頭を下げたまま苦しげな表情をすると
「…本当に、済まない。申し訳ない…」
 とますます頭を下げた。
「ランドルフ様、私は次の考査でも一位を取って実力で周りを黙らせますから大丈夫です」
 リザは悪戯っぽく笑うと、ランドルフに手を差し出した。

「起こった出来事はなかった事にはなっていないみたいですね」
 パーティー会場の隅へロイドと移動しながらリザが言うと、ロイドは「そうだな」と言いながら給仕から飲み物を二つ受け取る。
 食べ物などが置いてあるテーブルの側に立つと、飲み物を一口飲んでからリザへと渡した。
「殿下、毒見をするのは私の方ですよ?」
「リザが死ぬなら俺も死んだ方が良い」
 真面目な表情で言うロイドにリザは頬を赤らめる。
「…殺す気ですか?」
「そんな訳ないだろ」
「だって、結構な『殺し文句』でしたよ?」
 リザが上目遣いにロイドを見ると、ロイドはマジマジとリザを見つめた後、ゆっくりと自分の手を額に当てた。
「…無意識だ」
 耳が微かに赤くなったロイドを見てリザもますます赤くなった。

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