38 / 42
番外編1
しおりを挟む
1
「バチが当たったんだわ…」
オリーは思わず呟いた。
たった今医師に告げられた言葉が頭を駆け巡る。「貴女は子供ができにくい体質でしょう」医師は言いにくそうにそう言った。
王太子の婚約者としてのいつもの検診で月の物が来たり、来なかったりする事を相談すると、女性の薬師さんがやって来た。
そして診察の後薬師と並んだ医師にそう告げられたのだ。
世継ぎを産むのが王太子妃の第一の役目。
つまり、私は王太子妃になる資格がない。
…サイモン殿下の妃には、なれない。
「オリー」
学園の頃からの友人イリスが心配そうにオリーの顔を覗き込む。オリーから届いた支離滅裂な手紙を見て、マーシャル邸へ来てくれたのだ。
「殿下を好きじゃない振りとかしてないでさっさと結婚しておけば良かったのかしら…」
「そうしたら世継ぎができない事で周りから責められるわ。結婚前に判って良かったのよ、きっと」
「…そうね。サイモン殿下のためには結婚前に判って良かったんだわ。そうね。きっとそう…なのよね」
サイモン殿下がこの事を知れば、すぐに私との婚約は解消されるわ。そしてすぐに次の婚約者が選定される。
サイモンももう27歳だ。婚約期間はあまり取らず、すぐに婚姻するのではないだろうか。
「結局…殿下に好きになってもらえなかったな…」
オリーはポツリと呟いた。
-----
「オリー様のご様子がいつもと違うと?」
サイモンの侍従が問うと、執務机の書類を見ながらサイモンは頷いた。
「…ああ」
今日の昼間、定例茶会があった。
ゲーム騒動の頃、オリーはサイモンとの距離を置いた。それまでのオリーは王宮に来るといつもサイモンに会いに来た。顔を見るだけの時もあったが、ほぼ毎回だ。
距離を置いてからは定例茶会でしか会わない。それでも会うとニコニコ楽しそうに話すオリーだったが、今日は違った。
無理に明るい声を出し、はしゃいでいる様に見せていた。
かと思えば、暫く黙ったり、視線を彷徨わせたり。
何よりいつもと違うのは、サイモンと目が合わなかった事だ。
「まさかオリー様に想う方が…?」
大袈裟に重々しく言う侍従をサイモンは睨む。
「もしもそうなら、オリーならはっきりとそう言うだろう」
ゲームがリセットされた後、オリーは「私がサイモン殿下をお慕いしていたのも強制力だったのかしら?」と言って苦く笑った。
そんな筈はない。オリーは確かに私を恋慕っていた。
そう思いつつも絶対とは言えない。ゲームの強制力を「ヒロインに惹かれる攻略対象者」と言う形でサイモンも味わっていた。
あの、抗い難い恋情をオリーが私に感じていたのか?そしてリセットと共に消え失せたと?
強制力が消え失せる様もサイモンは経験している。
綺麗さっぱり。そう言える程綺麗に恋情は失くなったのだ。
「私に、もし他に想う方ができたら、こちらから婚約解消を申し入れる権利をください」
三年前、そう言って笑ったオリーを思い出す。
「調べますか?」
侍従が言う。
「いや。オリーが話すまで待つ」
サイモンは執務に戻るべく書類に視線を落とした。
「噂によると、オリー様の『想い人』は伯爵家の令息とか」
数日後、執務室で何かのついでの様に言う侍従をサイモンは書類から顔を上げて見た。
「調べたのか?」
「…はたまた然る侯爵家の令息か。マーシャル家の庭師だと聞いた。いや家庭教師のご兄弟だろう。と使用人たちが噂しているのを小耳に挟みました」
「噂…」
オリーは王太子の婚約者として、在らぬ噂など立てられないように注意をしていた筈だ。婚約者の醜聞は王太子の醜聞にもなる。
「今までその様な噂が立った事はない。何故急に?」
サイモンが侍従を睨むように言うと、侍従は肩を竦める。
「オリー様とリザ様の会話や、オリー様のご友人から聞いたと使用人たちは言っております」
わざと噂を広めようとしている?
サイモンはそう考えたが、理由がわからなかった。
そして、次の定例茶会で、テラスに姿を現すなり、オリーはサイモンに向けて礼を取る。
そして、視線を下げたままゆっくりと言った。
「サイモン殿下、私との婚約を解消してください」
「バチが当たったんだわ…」
オリーは思わず呟いた。
たった今医師に告げられた言葉が頭を駆け巡る。「貴女は子供ができにくい体質でしょう」医師は言いにくそうにそう言った。
王太子の婚約者としてのいつもの検診で月の物が来たり、来なかったりする事を相談すると、女性の薬師さんがやって来た。
そして診察の後薬師と並んだ医師にそう告げられたのだ。
世継ぎを産むのが王太子妃の第一の役目。
つまり、私は王太子妃になる資格がない。
…サイモン殿下の妃には、なれない。
「オリー」
学園の頃からの友人イリスが心配そうにオリーの顔を覗き込む。オリーから届いた支離滅裂な手紙を見て、マーシャル邸へ来てくれたのだ。
「殿下を好きじゃない振りとかしてないでさっさと結婚しておけば良かったのかしら…」
「そうしたら世継ぎができない事で周りから責められるわ。結婚前に判って良かったのよ、きっと」
「…そうね。サイモン殿下のためには結婚前に判って良かったんだわ。そうね。きっとそう…なのよね」
サイモン殿下がこの事を知れば、すぐに私との婚約は解消されるわ。そしてすぐに次の婚約者が選定される。
サイモンももう27歳だ。婚約期間はあまり取らず、すぐに婚姻するのではないだろうか。
「結局…殿下に好きになってもらえなかったな…」
オリーはポツリと呟いた。
-----
「オリー様のご様子がいつもと違うと?」
サイモンの侍従が問うと、執務机の書類を見ながらサイモンは頷いた。
「…ああ」
今日の昼間、定例茶会があった。
ゲーム騒動の頃、オリーはサイモンとの距離を置いた。それまでのオリーは王宮に来るといつもサイモンに会いに来た。顔を見るだけの時もあったが、ほぼ毎回だ。
距離を置いてからは定例茶会でしか会わない。それでも会うとニコニコ楽しそうに話すオリーだったが、今日は違った。
無理に明るい声を出し、はしゃいでいる様に見せていた。
かと思えば、暫く黙ったり、視線を彷徨わせたり。
何よりいつもと違うのは、サイモンと目が合わなかった事だ。
「まさかオリー様に想う方が…?」
大袈裟に重々しく言う侍従をサイモンは睨む。
「もしもそうなら、オリーならはっきりとそう言うだろう」
ゲームがリセットされた後、オリーは「私がサイモン殿下をお慕いしていたのも強制力だったのかしら?」と言って苦く笑った。
そんな筈はない。オリーは確かに私を恋慕っていた。
そう思いつつも絶対とは言えない。ゲームの強制力を「ヒロインに惹かれる攻略対象者」と言う形でサイモンも味わっていた。
あの、抗い難い恋情をオリーが私に感じていたのか?そしてリセットと共に消え失せたと?
強制力が消え失せる様もサイモンは経験している。
綺麗さっぱり。そう言える程綺麗に恋情は失くなったのだ。
「私に、もし他に想う方ができたら、こちらから婚約解消を申し入れる権利をください」
三年前、そう言って笑ったオリーを思い出す。
「調べますか?」
侍従が言う。
「いや。オリーが話すまで待つ」
サイモンは執務に戻るべく書類に視線を落とした。
「噂によると、オリー様の『想い人』は伯爵家の令息とか」
数日後、執務室で何かのついでの様に言う侍従をサイモンは書類から顔を上げて見た。
「調べたのか?」
「…はたまた然る侯爵家の令息か。マーシャル家の庭師だと聞いた。いや家庭教師のご兄弟だろう。と使用人たちが噂しているのを小耳に挟みました」
「噂…」
オリーは王太子の婚約者として、在らぬ噂など立てられないように注意をしていた筈だ。婚約者の醜聞は王太子の醜聞にもなる。
「今までその様な噂が立った事はない。何故急に?」
サイモンが侍従を睨むように言うと、侍従は肩を竦める。
「オリー様とリザ様の会話や、オリー様のご友人から聞いたと使用人たちは言っております」
わざと噂を広めようとしている?
サイモンはそう考えたが、理由がわからなかった。
そして、次の定例茶会で、テラスに姿を現すなり、オリーはサイモンに向けて礼を取る。
そして、視線を下げたままゆっくりと言った。
「サイモン殿下、私との婚約を解消してください」
7
あなたにおすすめの小説
えっ私人間だったんです?
ハートリオ
恋愛
生まれた時から王女アルデアの【魔力】として生き、16年。
魔力持ちとして帝国から呼ばれたアルデアと共に帝国を訪れ、気が進まないまま歓迎パーティーへ付いて行く【魔力】。
頭からスッポリと灰色ベールを被っている【魔力】は皇太子ファルコに疑惑の目を向けられて…
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる