転生令嬢と王子の恋人

ねーさん

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番外編1

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「バチが当たったんだわ…」
 オリーは思わず呟いた。
 たった今医師に告げられた言葉が頭を駆け巡る。「貴女は子供ができにくい体質でしょう」医師は言いにくそうにそう言った。
 王太子の婚約者としてのいつもの検診で月の物が来たり、来なかったりする事を相談すると、女性の薬師さんがやって来た。
 そして診察の後薬師と並んだ医師にそう告げられたのだ。

 世継ぎを産むのが王太子妃の第一の役目。
 つまり、私は王太子妃になる資格がない。
 …サイモン殿下の妃には、なれない。

「オリー」
 学園の頃からの友人イリスが心配そうにオリーの顔を覗き込む。オリーから届いた支離滅裂な手紙を見て、マーシャル邸へ来てくれたのだ。
「殿下を好きじゃない振りとかしてないでさっさと結婚しておけば良かったのかしら…」
「そうしたら世継ぎができない事で周りから責められるわ。結婚前に判って良かったのよ、きっと」
「…そうね。サイモン殿下のためには結婚前に判って良かったんだわ。そうね。きっとそう…なのよね」
 サイモン殿下がこの事を知れば、すぐに私との婚約は解消されるわ。そしてすぐに次の婚約者が選定される。
 サイモンももう27歳だ。婚約期間はあまり取らず、すぐに婚姻するのではないだろうか。
「結局…殿下に好きになってもらえなかったな…」
 オリーはポツリと呟いた。

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「オリー様のご様子がいつもと違うと?」
 サイモンの侍従が問うと、執務机の書類を見ながらサイモンは頷いた。
「…ああ」
 今日の昼間、定例茶会があった。
 ゲーム騒動の頃、オリーはサイモンとの距離を置いた。それまでのオリーは王宮に来るといつもサイモンに会いに来た。顔を見るだけの時もあったが、ほぼ毎回だ。
 距離を置いてからは定例茶会でしか会わない。それでも会うとニコニコ楽しそうに話すオリーだったが、今日は違った。
 無理に明るい声を出し、はしゃいでいる様に見せていた。
 かと思えば、暫く黙ったり、視線を彷徨わせたり。
 何よりいつもと違うのは、サイモンと目が合わなかった事だ。

「まさかオリー様に想う方が…?」
 大袈裟に重々しく言う侍従をサイモンは睨む。
「もしもそうなら、オリーならはっきりとそう言うだろう」
 ゲームがリセットされた後、オリーは「私がサイモン殿下をお慕いしていたのも強制力だったのかしら?」と言って苦く笑った。
 そんな筈はない。オリーは確かに私を恋慕っていた。
 そう思いつつも絶対とは言えない。ゲームの強制力を「ヒロインに惹かれる攻略対象者」と言う形でサイモンも味わっていた。
 あの、抗い難い恋情をオリーが私に感じていたのか?そしてリセットと共に消え失せたと?
 強制力が消え失せる様もサイモンは経験している。
 綺麗さっぱり。そう言える程綺麗に恋情は失くなったのだ。

「私に、もし他に想う方ができたら、こちらから婚約解消を申し入れる権利をください」
 三年前、そう言って笑ったオリーを思い出す。
「調べますか?」
 侍従が言う。
「いや。オリーが話すまで待つ」
 サイモンは執務に戻るべく書類に視線を落とした。

「噂によると、オリー様の『想い人』は伯爵家の令息とか」
 数日後、執務室で何かのついでの様に言う侍従をサイモンは書類から顔を上げて見た。
「調べたのか?」
「…はたまた然る侯爵家の令息か。マーシャル家の庭師だと聞いた。いや家庭教師ガヴァネスのご兄弟だろう。と使用人たちが噂しているのを小耳に挟みました」
「噂…」
 オリーは王太子の婚約者として、在らぬ噂など立てられないように注意をしていた筈だ。婚約者の醜聞は王太子の醜聞にもなる。
「今までその様な噂が立った事はない。何故急に?」
 サイモンが侍従を睨むように言うと、侍従は肩を竦める。
「オリー様とリザ様の会話や、オリー様のご友人から聞いたと使用人たちは言っております」
 わざと噂を広めようとしている?
 サイモンはそう考えたが、理由がわからなかった。

 そして、次の定例茶会で、テラスに姿を現すなり、オリーはサイモンに向けて礼を取る。
 そして、視線を下げたままゆっくりと言った。
「サイモン殿下、私との婚約を解消してください」

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