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「何でいつも合同なのかしら」
 パトリシアの隣の席で小声で不満を言うのはエリザベスだ。
 パトリシアは聞こえない振りで東屋から見える庭の花を眺めている。
「いくらアレン殿下とアラン殿下が双子だからって…」
 エリザベスの呟きに、パトリシアは心の中で頷く。
 そうね。正直、私も婚約者とのお茶会は別々にして欲しいと思ってるわ。
 パトリシアは花に視線を向けながら気付かれないように小さく息を吐いた。
 
 パトリシア・デンゼルは侯爵家の令嬢で、現在十六歳、榛色の真っ直ぐな髪に青灰色の瞳の学園の二年生、来月の新学期には三年生になる、この国の第三王子アラン・ルーセントの婚約者だ。
 エリザベス・ボイルは公爵令嬢。十七歳で、赤い巻き髪に若草色の瞳、気の強そうな美人で、来月には学園四年生となる。第二王子アレン・ルーセントの婚約者。
 アレンとアランは双子、アレンが兄で、アランが弟。来月学園の四年生になる。

 アレンとアランの婚約者が決められたのは二人が学園に入学する前の十四歳になって少しした頃だった。
 王子と年周りの合う高位貴族の令嬢であるパトリシアとエリザベスが、アレンとアランどちらと婚約するのかは、単に身分で決められたと聞いている。第二王子に公爵令嬢、第三王子に侯爵令嬢。
 王太子である第一王子に何かあった場合、第二王子がその役目を継ぐ。故に第三王子の妃より第二王子の妃の方がより高位であるべきだ、と。

「遅くなって済まない」
 王宮の小さな庭にある東屋に四人分のお茶が用意され、パトリシアとエリザベスはそこで双子の王子を待っていたのだ。
「挨拶はいい。二人とも座れ」
 アレンが手を挙げながらやって来て、立ち上がったパトリシアとエリザベスを手で制すると、エリザベスの正面に座った。
 パトリシアは少しアレンを見ると、視線を自分の前の空いた席に移す。
「アラン殿下はまだお見えにならないんですか?」
 エリザベスが横目でパトリシアを見ながら言う。
「アランはまだ兄上と話していたな」
「まあ。レスター殿下と?それにしても婚約者を待たせるなんて…」
 ちらちらとパトリシアを見ながら言う。
「そう言うな。俺だって遅れたんだから」
 アレンが苦笑いしながらエリザベスに言う。
「アレン殿下は急いで来てくださったじゃありませんか。アラン殿下はパトリシア様がお待ちなのにお急ぎにならないんですか?」
 …そんな事、アレン殿下に言っても仕方ないのに。
 まあ、エリザベス様はアレン殿下とアランと幼なじみで仲が良い私が気に入らないのよね。
 パトリシアは小さくため息を吐く。

 デンゼル侯爵夫人であるパトリシアの母が、王妃であるアレンとアランの母と学園で友人になり、第一王子とパトリシアの兄が同じ歳なのもあり、デンゼル家と王家の親交は深く、両家の子供たちは幼なじみになったのだ。

「パティ!待たせてごめん。挨拶はいらないから立たずに座っていろ」
 そう言いながらアランがやって来る。
「アラン殿下」
「ごめんな。兄上と盛り上がり過ぎて…」
 パトリシアの向かいに座ると両手を顔の前で合わせる。
「今日も薬学のお話ですか?」
「ああ。あの畑で新しい薬草が育ったんだ。それで盛り上がって…」
 アランがパトリシアの後方を指で示す。
 この庭の隅の花壇の影にアランの作った小さな薬草畑があるのだ。温室の片隅にもアランの薬草スペースがある。
「後で見るか?」
「はい。見たいです」
 パトリシアが頷くと、アランも満足気に笑う。
 そんな二人の様子をアレンがじっと見ていた。
「アラン殿下は薬学研究所へお勤めになるつもりなのですか?」
 エリザベスが言う。
「そうだな。できるならそうしたい」

 第一王子は王太子となり王位を継ぎ、第二王子は多くの場合は第一王子と共に公務を行い、国政に関わる。臣籍降下し公爵位を賜る場合もあるが、仕事としては公爵家の運営と共に国政にも携わる事になる。
 第三王子も同じようにする例もあるが、研究職などに就く場合もあり、それはそう珍しい事ではない。
 王族であるアランたちは、暗殺などの危機に備えるため、剣や体術だけでなく、毒薬などについても学びつつ、耐性をつけるため少量の毒物を摂取したりしていて、その中で、王太子レスターとアランは薬学に興味を持ち、独学で学んでいるのだ。

「あら、ではパトリシア様はいずれは研究者の妻になられるのね?」
 エリザベスはコロコロと笑う。
「そうですね。楽しみです」
 パトリシアもニッコリと笑う。
 これは本音。
 妃として外交や社交を期待されるより、研究者の妻の方が良いわ。
 私は別に「王子の妃」になりたいんじゃないもの。
 チラッとアレンの方を見る。アレンはアランと話していた。

 私は…「王子の妃」じゃなくて、「お嫁さん」に、なりたかった、だけなんだもの…
 

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