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パトリシアは畑の隅にしゃがみ込んで、足元に咲いた白い花を眺める。
「かわいい…この花は何に効くの?」
「これは根に毒がある。少量なら鎮痛剤になるが」
パトリシアの隣にしゃがみ込んだアランが言う。
「じゃあ花びらや葉っぱには触っても大丈夫?」
「ああ。花弁や葉に毒がある物は温室の中にしかないからな」
「そうね。こうやって剥き出しだと誰か間違って触っちゃったらいけないものね」
パトリシアは手袋を取ると指先で白い花びらにそっと触れた。
「摘んでも良いぞ?」
「でも…初めて育ったんでしょ?あまり数もないし…」
「王都の気候でも育てられるのがわかったから大丈夫だ」
アランは自分の手袋を外すと、パトリシアが触れた花に手を伸ばし、茎を折る。
その花をパトリシアの髪に挿して満足気に笑った。
「薬草と言う名の毒草で悪いな。しかしある意味俺らしいか?」
「ふふ。そうね」
「…お茶会ではエリザベス嬢がいるし、畏まるのも仕方ないが、二人の時は呼び捨てで敬語もなくて気が楽で良いよな」
「そうよね。でもアランは畏まらなくて良いから羨ましいわ」
「まあこれでも一応王子だからな」
「一応?」
「一応だろ。エリザベス嬢に『アラン殿下は薬学研究所にお勤めになるのですか?』とか言われるような王子だし」
エリザベスの口調を真似て言うアランに、思わず吹き出すパトリシア。
「…ふふ。似てる」
「我ながら似てたな。…なあ、エリザベス嬢のあれは、研究者を見下してるのか?」
眉を顰めるアラン。パトリシアは首を横に振る。
「そうじゃないと思うわ。『王子の妃』は『研究者の妻』より格上だと思ってるのよ。そして、自分は『王子の妃』になれて良かったと思ってるんだと思う」
「はあ…つまり、パティを見下してるって事?まだアレンと結婚した訳じゃないのに?」
「…婚約してるんだから結婚するのは決まってるじゃない。それに、エリザベス様は公爵家の令嬢、私は侯爵家だもの」
「くっだらないな~」
アランは心底嫌そうな表情を浮かべる。
「私もそう思うけど、そういう価値観の人もいるって事よ」
「そうか…じゃあ俺は婚約者がパティで良かったな」
ニコリと笑うアラン。
「ありがと」
パトリシアも、にっこりと笑った。
-----
「パトリシア」
家に戻るため王宮の廊下を歩いていると、パトリシアの後ろから声がした。
この声…
「アレン殿下」
振り向くと、さっきまで一緒にいたアランと同じ顔をした男性が近付いて来る。
…さすが双子、髪型は違うけど顔はそっくりよね。
アレンは長髪、アランは短髪。髪の色も瞳の色も同じ赤みの強い紫だ。
「…その、花はアランから?」
アレンが眉に皺を寄せてパトリシアの髪を指差す。
「あ。ええ。そうです」
花を挿してもらったの忘れてたわ。帰ってスケッチして刺繍の図案にしようと思っていたのに。
「……」
「アレン殿下?」
「アランに婚約者へ花を贈るなんて芸当ができるとはね」
顎に手を当てて感心したように言う。
「まあ…薬草ですけどね」
パトリシアがそう言うと、アレンは目を見開く。
「薬草?」
「はい」
本当は毒草だけど、アランのためには言わない方が良いだろうなあ。
パトリシアがそう思いながら上目遣いでアレンを見ると、アレンはふっと笑った。
「らしいな」
「はい」
「…少し話があるんだが、俺の部屋に来てくれないか?」
「話ですか?あ、でも部屋は…」
昔はよくアレン殿下の部屋にも行ってたけど…婚約してからはさすがに一度もないし。
「俺の侍従もいる。二人きりではない」
そりゃもちろん私付きの侍女だっているけど、侍従や侍女はいてもいないものとされる場合もあるし「二人きりじゃない」と言うには弱いわ。
「また『弁えろ』って言われるのは…嫌ですから」
パトリシアが難しそうに言うと、アレンは小さくため息を付いた。
「…それはそうだな。では応接室へ」
「はい」
踵を返して歩き出したアレンの後ろについて歩く。
パトリシアは婚約してからもアランと同じようにアレンにも幼なじみとして接していたが、エリザベスから「アレン殿下は私の婚約者なのよ。幼なじみだからって馴れ馴れしくしないで。今までとは立場が違う事を弁えなさい」と言われたのだ。
応接室に入り、向かい合わせにソファに座る。侍女がお茶の用意をして出て行くと、アレンの侍従ジェイと三人になった。
「ジェイ、お前は外に出て居ろ」
アレンがジェイにそう言うと、ジェイは少し困った顔をする。
「もちろん扉は開けたままだ。外から部屋の中を見ていても良い。俺の声が届かない位置に居ろ」
「聞こえなければ見ていても良いんですか?」
ジェイはアレンたちより二つ歳上の伯爵家の令息だ。婚約した頃からアレンに付いているので、アレンにとっては気が置けない相手になっていた。
「見られて困る事はしないからな」
「当たり前です」
アレンが真顔で言うと、ジェイも真顔で答えた。
パトリシアは畑の隅にしゃがみ込んで、足元に咲いた白い花を眺める。
「かわいい…この花は何に効くの?」
「これは根に毒がある。少量なら鎮痛剤になるが」
パトリシアの隣にしゃがみ込んだアランが言う。
「じゃあ花びらや葉っぱには触っても大丈夫?」
「ああ。花弁や葉に毒がある物は温室の中にしかないからな」
「そうね。こうやって剥き出しだと誰か間違って触っちゃったらいけないものね」
パトリシアは手袋を取ると指先で白い花びらにそっと触れた。
「摘んでも良いぞ?」
「でも…初めて育ったんでしょ?あまり数もないし…」
「王都の気候でも育てられるのがわかったから大丈夫だ」
アランは自分の手袋を外すと、パトリシアが触れた花に手を伸ばし、茎を折る。
その花をパトリシアの髪に挿して満足気に笑った。
「薬草と言う名の毒草で悪いな。しかしある意味俺らしいか?」
「ふふ。そうね」
「…お茶会ではエリザベス嬢がいるし、畏まるのも仕方ないが、二人の時は呼び捨てで敬語もなくて気が楽で良いよな」
「そうよね。でもアランは畏まらなくて良いから羨ましいわ」
「まあこれでも一応王子だからな」
「一応?」
「一応だろ。エリザベス嬢に『アラン殿下は薬学研究所にお勤めになるのですか?』とか言われるような王子だし」
エリザベスの口調を真似て言うアランに、思わず吹き出すパトリシア。
「…ふふ。似てる」
「我ながら似てたな。…なあ、エリザベス嬢のあれは、研究者を見下してるのか?」
眉を顰めるアラン。パトリシアは首を横に振る。
「そうじゃないと思うわ。『王子の妃』は『研究者の妻』より格上だと思ってるのよ。そして、自分は『王子の妃』になれて良かったと思ってるんだと思う」
「はあ…つまり、パティを見下してるって事?まだアレンと結婚した訳じゃないのに?」
「…婚約してるんだから結婚するのは決まってるじゃない。それに、エリザベス様は公爵家の令嬢、私は侯爵家だもの」
「くっだらないな~」
アランは心底嫌そうな表情を浮かべる。
「私もそう思うけど、そういう価値観の人もいるって事よ」
「そうか…じゃあ俺は婚約者がパティで良かったな」
ニコリと笑うアラン。
「ありがと」
パトリシアも、にっこりと笑った。
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「パトリシア」
家に戻るため王宮の廊下を歩いていると、パトリシアの後ろから声がした。
この声…
「アレン殿下」
振り向くと、さっきまで一緒にいたアランと同じ顔をした男性が近付いて来る。
…さすが双子、髪型は違うけど顔はそっくりよね。
アレンは長髪、アランは短髪。髪の色も瞳の色も同じ赤みの強い紫だ。
「…その、花はアランから?」
アレンが眉に皺を寄せてパトリシアの髪を指差す。
「あ。ええ。そうです」
花を挿してもらったの忘れてたわ。帰ってスケッチして刺繍の図案にしようと思っていたのに。
「……」
「アレン殿下?」
「アランに婚約者へ花を贈るなんて芸当ができるとはね」
顎に手を当てて感心したように言う。
「まあ…薬草ですけどね」
パトリシアがそう言うと、アレンは目を見開く。
「薬草?」
「はい」
本当は毒草だけど、アランのためには言わない方が良いだろうなあ。
パトリシアがそう思いながら上目遣いでアレンを見ると、アレンはふっと笑った。
「らしいな」
「はい」
「…少し話があるんだが、俺の部屋に来てくれないか?」
「話ですか?あ、でも部屋は…」
昔はよくアレン殿下の部屋にも行ってたけど…婚約してからはさすがに一度もないし。
「俺の侍従もいる。二人きりではない」
そりゃもちろん私付きの侍女だっているけど、侍従や侍女はいてもいないものとされる場合もあるし「二人きりじゃない」と言うには弱いわ。
「また『弁えろ』って言われるのは…嫌ですから」
パトリシアが難しそうに言うと、アレンは小さくため息を付いた。
「…それはそうだな。では応接室へ」
「はい」
踵を返して歩き出したアレンの後ろについて歩く。
パトリシアは婚約してからもアランと同じようにアレンにも幼なじみとして接していたが、エリザベスから「アレン殿下は私の婚約者なのよ。幼なじみだからって馴れ馴れしくしないで。今までとは立場が違う事を弁えなさい」と言われたのだ。
応接室に入り、向かい合わせにソファに座る。侍女がお茶の用意をして出て行くと、アレンの侍従ジェイと三人になった。
「ジェイ、お前は外に出て居ろ」
アレンがジェイにそう言うと、ジェイは少し困った顔をする。
「もちろん扉は開けたままだ。外から部屋の中を見ていても良い。俺の声が届かない位置に居ろ」
「聞こえなければ見ていても良いんですか?」
ジェイはアレンたちより二つ歳上の伯爵家の令息だ。婚約した頃からアレンに付いているので、アレンにとっては気が置けない相手になっていた。
「見られて困る事はしないからな」
「当たり前です」
アレンが真顔で言うと、ジェイも真顔で答えた。
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