10 / 79
9
しおりを挟む
9
「はっ…あ…ああ…」
「先生、声が大きいですよ」
「…ん…だって」
鍵の掛かった教員準備室で、椅子に座る男とそれに跨る女の二つの影が重なって上下に揺れている。
「ねぇ…私の事好き?」
「嫌いな人とはこんな事しませんよ」
「好きかどうか聞いたのに…狡い…」
「そうですね。先生が早く俺の希望を叶えてくれれば言いますよ」
「希望…」
「忘れたんですか?」
男はピタリと動きを止める。
「わ、忘れてないわ。ちゃんと王太子殿下に会わせる機会を作るから」
「本当ですか?」
「本当よ。本当だから、動いてぇ…」
「早目にお願いします」
男はくっと笑うと、腰を大きく動かした。
「ああ…!」
女の悲鳴のような声が誰も居ない廊下に小さく響いた。
-----
「アラン!」
「パティ。久しぶり」
生徒会室に行く途中の廊下でアランを待ち伏せしていたパトリシア。現れたアランはライネルと一緒だった。
「『久しぶり』じゃないわ。確かに久しぶりだけど、もう三か月よ?もうすぐ舞踏会よ?」
「あ、ドレス気に入ってくれた?」
唇を尖らせるパトリシアに、アランは悪びれた様子もなく笑顔を向けた。
「……」
「俺、先に行ってます」
あまりにもあっけらかんとしたアランにパトリシアが閉口していると、ライネルが二人に小さく頭を下げて去って行った。
舞踏会まであと二週間、ロードを生徒会室に案内した時以来ずっとアランとパトリシアは会っていなかった。
中庭のベンチに並んで座ると、パトリシアは言う。
「ドレスは確かに気に入ったけど、ドレスも一方的に家へ送るだけで…今まで薬学研究に夢中な時期でも会わないままで一か月も経った事なんてなかったのに、どうしたの?」
「三か月も経ったなんて思ってなかったんだ。今までは程々の処でアレンが『そろそろパトリシアに連絡しろ』って言ってくれてたから…」
「え?アレン殿下が?」
「うん。俺、没頭しちゃうと他の事に頭が回らなくなっちゃうから…でもアレンも今年生徒会長になって忙しいから俺の事まで構ってられなくなったのかな?」
「そう…」
アランが私の事が頭に失くなる位、薬学研究に没頭するのは想像が付くわ。それをアレン殿下が嗜めてくれていた…でも最近はアレン殿下の頭にも私の事が失くなったと言う事…?
ううん。そもそもアレン殿下も、私の事じゃなくて、アランの事を思っていただけよ。
「それにロードが良くパティの話をしてくれるから、あんまり会っていない気がしてなかったし」
「…え?」
フェアリ様が?私の話?
「『今日パトリシアちゃんがこんな事を言った』とか『こんな事してた』とか『誰それと話してた』とか」
「ええ!?そんな事生徒会室で話してるの?」
「あ、いや…生徒会室と言うか…」
急に俯いて口籠るアラン。
「え?じゃあどこで…」
「…寮の、俺の部屋」
いつの間に部屋に行き来する程仲良くなったの?フェアリ様もそんな事全然言ってなかったのに。
「な、何してるの?部屋で…」
パトリシアが窺うように言うと、アランの頬が赤く染まった。
…何?何で赤くなるの…?
まさか、本当にヒロインに攻略されてるの?
「いや、まあ、男同士の話と言うか…」
男同士の話って何?
「ふっ二人きりで!?」
「え!?あ、まあ、二人の事が多いか!?」
アランの視線がウロウロと動く。
「男同士の話って、何を話すの?私、フェアリ様と席が隣りで話もするけど、フェアリ様からはアランと親しくなったなんて聞いてないけど?」
「それは男同士の話だから言えない…けど、ロードは別に俺と親しくなったとかパティにわざわざ言わないだけじゃないのか?」
わざわざそれを言わない方が不自然だと思うけど。
「じゃあライネルさんは?良く一緒に居るみたいだけど、部屋には来ないの?」
「ライネル?ライネルは部屋には来ないかな」
何となくなんだけど、フェアリ様からライネルさんに話が逸れたからホッとしてるように見える…穿った見方し過ぎなのかしら、私。
「そうなの?じゃあ良く一緒にいるのは何故なの?」
「ライネルの家が貿易商だから、外国の珍しい薬草の種とかを融通してもらってて。で、学園の花壇に植えて、それの世話を良く一緒にしてるんだ」
これだけスラスラ言葉が出て来るって事はライネルさんに関しては本当の事を言ってるのかも。
でもフェアリ様については目が泳いでて明らかに挙動不審だわ。
「学園の花壇に薬草を植えて大丈夫なの?」
「触るとかぶれるとか、口にすると毒になるような危ない物はないよ。ハーブの延長みたいな物だよ」
「そう…」
「もう、行かなくちゃ。舞踏会近いし忙しいんだ」
ベンチから立ち上がりながらアランが言う。
「舞踏会の日は開会式に役員として出席しなきゃいけないから早目に迎えに行くよ」
「…うん。わかったわ」
小さく手を振って去って行くアランを、パトリシアはベンチに座ったまま見送った。
「はっ…あ…ああ…」
「先生、声が大きいですよ」
「…ん…だって」
鍵の掛かった教員準備室で、椅子に座る男とそれに跨る女の二つの影が重なって上下に揺れている。
「ねぇ…私の事好き?」
「嫌いな人とはこんな事しませんよ」
「好きかどうか聞いたのに…狡い…」
「そうですね。先生が早く俺の希望を叶えてくれれば言いますよ」
「希望…」
「忘れたんですか?」
男はピタリと動きを止める。
「わ、忘れてないわ。ちゃんと王太子殿下に会わせる機会を作るから」
「本当ですか?」
「本当よ。本当だから、動いてぇ…」
「早目にお願いします」
男はくっと笑うと、腰を大きく動かした。
「ああ…!」
女の悲鳴のような声が誰も居ない廊下に小さく響いた。
-----
「アラン!」
「パティ。久しぶり」
生徒会室に行く途中の廊下でアランを待ち伏せしていたパトリシア。現れたアランはライネルと一緒だった。
「『久しぶり』じゃないわ。確かに久しぶりだけど、もう三か月よ?もうすぐ舞踏会よ?」
「あ、ドレス気に入ってくれた?」
唇を尖らせるパトリシアに、アランは悪びれた様子もなく笑顔を向けた。
「……」
「俺、先に行ってます」
あまりにもあっけらかんとしたアランにパトリシアが閉口していると、ライネルが二人に小さく頭を下げて去って行った。
舞踏会まであと二週間、ロードを生徒会室に案内した時以来ずっとアランとパトリシアは会っていなかった。
中庭のベンチに並んで座ると、パトリシアは言う。
「ドレスは確かに気に入ったけど、ドレスも一方的に家へ送るだけで…今まで薬学研究に夢中な時期でも会わないままで一か月も経った事なんてなかったのに、どうしたの?」
「三か月も経ったなんて思ってなかったんだ。今までは程々の処でアレンが『そろそろパトリシアに連絡しろ』って言ってくれてたから…」
「え?アレン殿下が?」
「うん。俺、没頭しちゃうと他の事に頭が回らなくなっちゃうから…でもアレンも今年生徒会長になって忙しいから俺の事まで構ってられなくなったのかな?」
「そう…」
アランが私の事が頭に失くなる位、薬学研究に没頭するのは想像が付くわ。それをアレン殿下が嗜めてくれていた…でも最近はアレン殿下の頭にも私の事が失くなったと言う事…?
ううん。そもそもアレン殿下も、私の事じゃなくて、アランの事を思っていただけよ。
「それにロードが良くパティの話をしてくれるから、あんまり会っていない気がしてなかったし」
「…え?」
フェアリ様が?私の話?
「『今日パトリシアちゃんがこんな事を言った』とか『こんな事してた』とか『誰それと話してた』とか」
「ええ!?そんな事生徒会室で話してるの?」
「あ、いや…生徒会室と言うか…」
急に俯いて口籠るアラン。
「え?じゃあどこで…」
「…寮の、俺の部屋」
いつの間に部屋に行き来する程仲良くなったの?フェアリ様もそんな事全然言ってなかったのに。
「な、何してるの?部屋で…」
パトリシアが窺うように言うと、アランの頬が赤く染まった。
…何?何で赤くなるの…?
まさか、本当にヒロインに攻略されてるの?
「いや、まあ、男同士の話と言うか…」
男同士の話って何?
「ふっ二人きりで!?」
「え!?あ、まあ、二人の事が多いか!?」
アランの視線がウロウロと動く。
「男同士の話って、何を話すの?私、フェアリ様と席が隣りで話もするけど、フェアリ様からはアランと親しくなったなんて聞いてないけど?」
「それは男同士の話だから言えない…けど、ロードは別に俺と親しくなったとかパティにわざわざ言わないだけじゃないのか?」
わざわざそれを言わない方が不自然だと思うけど。
「じゃあライネルさんは?良く一緒に居るみたいだけど、部屋には来ないの?」
「ライネル?ライネルは部屋には来ないかな」
何となくなんだけど、フェアリ様からライネルさんに話が逸れたからホッとしてるように見える…穿った見方し過ぎなのかしら、私。
「そうなの?じゃあ良く一緒にいるのは何故なの?」
「ライネルの家が貿易商だから、外国の珍しい薬草の種とかを融通してもらってて。で、学園の花壇に植えて、それの世話を良く一緒にしてるんだ」
これだけスラスラ言葉が出て来るって事はライネルさんに関しては本当の事を言ってるのかも。
でもフェアリ様については目が泳いでて明らかに挙動不審だわ。
「学園の花壇に薬草を植えて大丈夫なの?」
「触るとかぶれるとか、口にすると毒になるような危ない物はないよ。ハーブの延長みたいな物だよ」
「そう…」
「もう、行かなくちゃ。舞踏会近いし忙しいんだ」
ベンチから立ち上がりながらアランが言う。
「舞踏会の日は開会式に役員として出席しなきゃいけないから早目に迎えに行くよ」
「…うん。わかったわ」
小さく手を振って去って行くアランを、パトリシアはベンチに座ったまま見送った。
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
真実の愛を見つけた王太子殿下、婚約破棄の前に10年分の王家運営費1.5億枚を精算して頂けます?
ぱすた屋さん
恋愛
「エルゼ、婚約を破棄する! 私は真実の愛を見つけたのだ!」
建国記念祭の夜会、王太子アルフォンスに断罪された公爵令嬢エルゼ。
だが彼女は泣き崩れるどころか、事務的に一枚の書類を取り出した。
「承知いたしました。では、我が家が立て替えた10年分の王家運営費――金貨1億5800万枚の精算をお願いします」
宝石代、夜会費、そして城の維持費。
すべてを公爵家の「融資」で賄っていた王家に、返済能力などあるはずもない。
「支払えない? では担保として、王都の魔力供給と水道、食料搬入路の使用を差し止めます。あ、殿下が今履いている靴も我が家の備品ですので、今すぐ脱いでくださいね?」
暗闇に沈む王城で、靴下姿で這いつくばる元婚約者。
下着同然の姿で震える「自称・聖女」。
「ゴミの分別は、淑女の嗜みですわ」
沈みゆく泥舟(王国)を捨て、彼女を「財務卿」として熱望する隣国の帝国へと向かう、爽快な論理的ざまぁ短編!
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる