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「お、落ち着いて。なあエドワード」
跪いたロードが目の前の男を見上げて引きつった笑顔を浮かべている。
「…俺は落ち着いてるよ」
ロードの前に立つ男も笑顔だ。ただ、目が笑っていない。
「とりあえず、その鋏から手を離せ。な」
ロードが前に立つ男の手に握られている鋏に触れる。
「触るな!」
男はロードの手から逃れる様に鋏を振り上げた。
「…ロード、お前の最終目的は知らないが、上手くやっていると思っているのはお前だけだ」
「エドワード、とにかく鋏を降ろせ」
「お前のそのかわいらしい顔に傷を付けたら少しは気が晴れるかなあ?」
「やっ、やめてくれ」
ロードは顔の前で手を交差させ、身を守ろうとする。
男はそんなロードを見ると、鋏をロードの足元へ放り投げ、口角を上げた。
「お前に傷を付ければ、俺の経歴にも傷が付く。お前にそれと引き換えにする程の価値はない」
男は踵を返して、部屋を出て行く。
ロードは男が投げ捨てた鋏を手に取ると、ギリギリと歯を食い縛った。
-----
「パトリシア様」
舞踏会の会場でパトリシアに声を掛けたのはミッチェル・カークランド公爵令嬢。ミッチェルは四年生で、王太子レスターの婚約者だ。
「ミッチェル様」
壇上では学園長が長い挨拶をしているので、ミッチェルは小声でパトリシアに話し掛ける。
「エドワード・ラングトン様が、ロード・フェアリ様の制服を切り裂いたと言う騒ぎがあったの、パトリシア様はご存知?」
「え?」
「昨夜の事だからまだご存知ないのも無理ないわ。私は弟が男子寮に居るから先程聞いたの」
「昨夜…」
エドワード・ラングトンはパトリシアと同じ歳の侯爵令息で、生徒会書記のベアトリス・バーンズの婚約者だ。
ベアトリスとジュリアナが食堂で言い争っていたのは学園の多くの生徒が目撃し、また噂として聞いて知っている。
ラングトン様はもしかしてバーンズ様がフェアリ様と親しくしているのを知って、そんな事をされたの?
「ここだけの話、痴情の絡れ、らしいわ」
一層小声でミッチェルが言う。
やっぱりそうなの!?
「下世話な言い方になるけど…ロード・フェアリ様がベアトリス・バーンズ様と…」
や、やっぱり!?
「エドワード・ラングトン様、両方と…その…関係を持ったらしくて」
「……」
パトリシアは自分の両手で自分の口を押さえる。
あああ、危ない!思わず声が出そうだったわ。
今ミッチェル様「両方と関係を持った」って言った?
関係って、アレン殿下が仰っていたように、か、身体の…って事よね?
「それでエドワード様が婚約者に裏切られたのと、恋人に裏切られたのとが重なって激昂されたんだそうよ」
「そ、そうなんですか…」
「それでね、そのロード・フェアリ様が、この間レスター殿下に会いに来たらしいの」
「え?」
「マリアン・ノックス先生と一緒に来たらしいんだけど…これってノックス先生とも……って事なんじゃないかしら?」
…あり得るわ。
「それにアラン殿下ともロード・フェアリ様、仲が良いんでしょう?良く寮の部屋を行き来してるって弟が…」
「…じゃあ、もしかしてアランとも?」
心臓が、ドキドキする。
「そこはわからないけれど、レスター殿下にも『お慕いしています』って言ったらしいし、結局ロード・フェアリ様が誰を好きなのか、何か目的があるのかもわからないし…気を付けた方が良いと思うのよ」
「はい」
でも、気を付けるって、何をどうやって気を付けたら良いんだろう?
いつの間にか、生徒会長アレンの挨拶も、王太子レスターの挨拶も終わって、音楽が会場に流れ始めていた。
ミッチェルがレスターの元へ行き、パトリシアの前にはアランが立っている。
「パトリシア?ぼーっとしてどうしたんだ?」
いつもと同じ、きょとんとしたアランの表情。
多分何かあれば、アランは顔に出る。今のところ、私に対して疾しい事はなさそうだわ。
「何でもないわ」
パトリシアは差し出されたアランの手を取った。
「アレン殿下」
「どうした?エリザベス」
パトリシアとアランが踊る近くで、ファーストダンスを踊りながら婚約者のエリザベスがアレンに話しかける。
「あの…フェアリ様が、ですね…」
「ロード・フェアリが、どうした?」
エリザベスはじっとアレンを見つめる。
「…私が一人で居ると、よく話し掛けて来るんです」
「何て?」
俺がロードに対して恋愛的な感情を抱かなければ、エリザベスが悪役令嬢として俺とあの男が近付くのを阻止しようとしたり、あの男に嫌がらせをする必要はないと思っていたが、ヒロインの方から悪役令嬢に近付く事もあるのか?
あの男、パトリシアにも近付こうとしているし、何を企んでいるんだ?
「アレン殿下の事を聞かれたり…わっ私の事を『ベスちゃん』って呼んだり、それに、私に…な、殴られたい、とか」
「殴られたい?」
「女の人に罵倒されたり殴られたりするのが好きなんだって仰って…」
ロードはMなのか?ゲームではそんなキャラじゃなかったが…
「エリザベス。とりあえずロード・フェアリと二人きりにはならない様に気を付けろ」
「わかりました」
「お、落ち着いて。なあエドワード」
跪いたロードが目の前の男を見上げて引きつった笑顔を浮かべている。
「…俺は落ち着いてるよ」
ロードの前に立つ男も笑顔だ。ただ、目が笑っていない。
「とりあえず、その鋏から手を離せ。な」
ロードが前に立つ男の手に握られている鋏に触れる。
「触るな!」
男はロードの手から逃れる様に鋏を振り上げた。
「…ロード、お前の最終目的は知らないが、上手くやっていると思っているのはお前だけだ」
「エドワード、とにかく鋏を降ろせ」
「お前のそのかわいらしい顔に傷を付けたら少しは気が晴れるかなあ?」
「やっ、やめてくれ」
ロードは顔の前で手を交差させ、身を守ろうとする。
男はそんなロードを見ると、鋏をロードの足元へ放り投げ、口角を上げた。
「お前に傷を付ければ、俺の経歴にも傷が付く。お前にそれと引き換えにする程の価値はない」
男は踵を返して、部屋を出て行く。
ロードは男が投げ捨てた鋏を手に取ると、ギリギリと歯を食い縛った。
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「パトリシア様」
舞踏会の会場でパトリシアに声を掛けたのはミッチェル・カークランド公爵令嬢。ミッチェルは四年生で、王太子レスターの婚約者だ。
「ミッチェル様」
壇上では学園長が長い挨拶をしているので、ミッチェルは小声でパトリシアに話し掛ける。
「エドワード・ラングトン様が、ロード・フェアリ様の制服を切り裂いたと言う騒ぎがあったの、パトリシア様はご存知?」
「え?」
「昨夜の事だからまだご存知ないのも無理ないわ。私は弟が男子寮に居るから先程聞いたの」
「昨夜…」
エドワード・ラングトンはパトリシアと同じ歳の侯爵令息で、生徒会書記のベアトリス・バーンズの婚約者だ。
ベアトリスとジュリアナが食堂で言い争っていたのは学園の多くの生徒が目撃し、また噂として聞いて知っている。
ラングトン様はもしかしてバーンズ様がフェアリ様と親しくしているのを知って、そんな事をされたの?
「ここだけの話、痴情の絡れ、らしいわ」
一層小声でミッチェルが言う。
やっぱりそうなの!?
「下世話な言い方になるけど…ロード・フェアリ様がベアトリス・バーンズ様と…」
や、やっぱり!?
「エドワード・ラングトン様、両方と…その…関係を持ったらしくて」
「……」
パトリシアは自分の両手で自分の口を押さえる。
あああ、危ない!思わず声が出そうだったわ。
今ミッチェル様「両方と関係を持った」って言った?
関係って、アレン殿下が仰っていたように、か、身体の…って事よね?
「それでエドワード様が婚約者に裏切られたのと、恋人に裏切られたのとが重なって激昂されたんだそうよ」
「そ、そうなんですか…」
「それでね、そのロード・フェアリ様が、この間レスター殿下に会いに来たらしいの」
「え?」
「マリアン・ノックス先生と一緒に来たらしいんだけど…これってノックス先生とも……って事なんじゃないかしら?」
…あり得るわ。
「それにアラン殿下ともロード・フェアリ様、仲が良いんでしょう?良く寮の部屋を行き来してるって弟が…」
「…じゃあ、もしかしてアランとも?」
心臓が、ドキドキする。
「そこはわからないけれど、レスター殿下にも『お慕いしています』って言ったらしいし、結局ロード・フェアリ様が誰を好きなのか、何か目的があるのかもわからないし…気を付けた方が良いと思うのよ」
「はい」
でも、気を付けるって、何をどうやって気を付けたら良いんだろう?
いつの間にか、生徒会長アレンの挨拶も、王太子レスターの挨拶も終わって、音楽が会場に流れ始めていた。
ミッチェルがレスターの元へ行き、パトリシアの前にはアランが立っている。
「パトリシア?ぼーっとしてどうしたんだ?」
いつもと同じ、きょとんとしたアランの表情。
多分何かあれば、アランは顔に出る。今のところ、私に対して疾しい事はなさそうだわ。
「何でもないわ」
パトリシアは差し出されたアランの手を取った。
「アレン殿下」
「どうした?エリザベス」
パトリシアとアランが踊る近くで、ファーストダンスを踊りながら婚約者のエリザベスがアレンに話しかける。
「あの…フェアリ様が、ですね…」
「ロード・フェアリが、どうした?」
エリザベスはじっとアレンを見つめる。
「…私が一人で居ると、よく話し掛けて来るんです」
「何て?」
俺がロードに対して恋愛的な感情を抱かなければ、エリザベスが悪役令嬢として俺とあの男が近付くのを阻止しようとしたり、あの男に嫌がらせをする必要はないと思っていたが、ヒロインの方から悪役令嬢に近付く事もあるのか?
あの男、パトリシアにも近付こうとしているし、何を企んでいるんだ?
「アレン殿下の事を聞かれたり…わっ私の事を『ベスちゃん』って呼んだり、それに、私に…な、殴られたい、とか」
「殴られたい?」
「女の人に罵倒されたり殴られたりするのが好きなんだって仰って…」
ロードはMなのか?ゲームではそんなキャラじゃなかったが…
「エリザベス。とりあえずロード・フェアリと二人きりにはならない様に気を付けろ」
「わかりました」
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