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パトリシアが居ない。
舞台裏から会場に戻ったアレンは、会場内を見渡し、パトリシアの姿が見えない事に気付く。
あの男…ロードの姿も見えない。もしや一緒に居るのか?
アレンが舞踏会の進行の事で舞台裏へ行く時、パトリシアはロードとのダンスを終えてフロアから下がっている処だった。
あれから十五分…いや、二十分は経ったか?
アレンは早足に、先程と変わらず会場の隅でライネルと話していたアランの元に行く。
「アラン、パトリシアは?」
「え?アレン、どうした?」
アランの肩に手を置く。振り向いたアランの、いつもの、きょとんとした表情。
これは、何も知らないし、パトリシアがロードと踊っていた事にすら気付いていないのかも知れない。
「アラン、パトリシアがどこに居るか、知らないか?」
「パティ?いや…」
アランは首を横に振る。
「ロードとダンスしてるのは、見ましたけど」
ライネルが言う。
「え?そうなんだ」
アランが意外そうな表情でライネルに言う。
やはり。気付いていないか。
「パティがどうしたんだ?」
「いや、少し用があるが、見当たらないから…知らないなら良い」
「ロードと一緒なんじゃないのか?」
屈託のない表情でアランは言う。
…何故。
「ああ。そうかもな。もし見掛けたら教えてくれ」
「わかった」
「わかりました」
頷くアランとライネルを置いて、講堂の出口へ向かって歩き出す。
周りに不審がられない様、平静な表情のまま、講堂を出た。
人影はない。
「パトリシア…どこだ?」
何故、アランは自分の婚約者がロードと一緒に居るかも知れないのに平気なんだ?
何故、パトリシアの婚約者はアランなんだ?
何故、パトリシアの婚約者は…俺じゃないんだ。
-----
当てもなく講堂の横の庭を歩いていると、カサッと音がして、アレンは自分の足元を見る。
小さく折り畳まれた紙が目に入る。
学園では朝と夕方に業者の清掃が入り、敷地の隅々までを綺麗にしている。今日は舞踏会なので、講堂周りは舞踏会が始まってからも掃除をされている筈だ。
と言う事は、この紙は、近い時間に落とされた物だ。
アレンは紙を拾い上げ、開く。
開いても手の平程の小さな紙には文字が書かれていた。
「亜蓮」
アレンはそれを見て、息を飲んで目を見開く。
これは、俺の、名前だ。
新学期の前にパトリシアにゲームの事を話した時、前世の自分と同じ名前の攻略対象者が居ると言った。
「アレン殿下、前世でも『アレン』って名前だったんですか?」
「ああ。でも前世は此処とは名前の系統が違うから、俺の名前は珍しい名前だったな。この世界にはない『漢字』で表すし」
「かんじ?」
「俺の名前だと、こう書き表すんだ」
近くにあった紙にサラサラと前世での名前を書く。
「ふ、複雑ですね…」
パトリシアが俺の書いた字を覗き込んで言う。
「この字を『あ』こちらを『れん』と読むんだ」
紙をパトリシアの方に向け、指で指し示す。
「『あ』『れん』…」
紙を手に取りじっと眺めていたパトリシア。
これが文字である事も、これが俺の名前を表しているという事も、パトリシアしか、知らない。
俺が名前を書いたその紙を、パトリシアは持ち帰ったりはしなかった。
この紙に書かれた辿々しい文字。
パトリシア、お前、この字をあの短い時間で覚えたのか?
「パティ…」
アレンは自分の名を書かれた紙を内ポケットに入れる。
紙が落ちていたのは講堂の横の中庭。講堂の出入り口から出て、ここを通るとなると、校舎へ入る以外には校舎の周りの庭を通って裏門の方へ行くしかないが、意識があるのかないのかはわからないが、パトリシアを連れて行くには距離がありすぎる。
あの男の狙いがパティ自身なら、校舎に入り、何処か空き教室なりに連れ込むのが一番…事に及び易いだろう。
アレンは一番近い入り口から校舎に入ると、足音を立てないように廊下を歩き出した。
パトリシアが居ない。
舞台裏から会場に戻ったアレンは、会場内を見渡し、パトリシアの姿が見えない事に気付く。
あの男…ロードの姿も見えない。もしや一緒に居るのか?
アレンが舞踏会の進行の事で舞台裏へ行く時、パトリシアはロードとのダンスを終えてフロアから下がっている処だった。
あれから十五分…いや、二十分は経ったか?
アレンは早足に、先程と変わらず会場の隅でライネルと話していたアランの元に行く。
「アラン、パトリシアは?」
「え?アレン、どうした?」
アランの肩に手を置く。振り向いたアランの、いつもの、きょとんとした表情。
これは、何も知らないし、パトリシアがロードと踊っていた事にすら気付いていないのかも知れない。
「アラン、パトリシアがどこに居るか、知らないか?」
「パティ?いや…」
アランは首を横に振る。
「ロードとダンスしてるのは、見ましたけど」
ライネルが言う。
「え?そうなんだ」
アランが意外そうな表情でライネルに言う。
やはり。気付いていないか。
「パティがどうしたんだ?」
「いや、少し用があるが、見当たらないから…知らないなら良い」
「ロードと一緒なんじゃないのか?」
屈託のない表情でアランは言う。
…何故。
「ああ。そうかもな。もし見掛けたら教えてくれ」
「わかった」
「わかりました」
頷くアランとライネルを置いて、講堂の出口へ向かって歩き出す。
周りに不審がられない様、平静な表情のまま、講堂を出た。
人影はない。
「パトリシア…どこだ?」
何故、アランは自分の婚約者がロードと一緒に居るかも知れないのに平気なんだ?
何故、パトリシアの婚約者はアランなんだ?
何故、パトリシアの婚約者は…俺じゃないんだ。
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当てもなく講堂の横の庭を歩いていると、カサッと音がして、アレンは自分の足元を見る。
小さく折り畳まれた紙が目に入る。
学園では朝と夕方に業者の清掃が入り、敷地の隅々までを綺麗にしている。今日は舞踏会なので、講堂周りは舞踏会が始まってからも掃除をされている筈だ。
と言う事は、この紙は、近い時間に落とされた物だ。
アレンは紙を拾い上げ、開く。
開いても手の平程の小さな紙には文字が書かれていた。
「亜蓮」
アレンはそれを見て、息を飲んで目を見開く。
これは、俺の、名前だ。
新学期の前にパトリシアにゲームの事を話した時、前世の自分と同じ名前の攻略対象者が居ると言った。
「アレン殿下、前世でも『アレン』って名前だったんですか?」
「ああ。でも前世は此処とは名前の系統が違うから、俺の名前は珍しい名前だったな。この世界にはない『漢字』で表すし」
「かんじ?」
「俺の名前だと、こう書き表すんだ」
近くにあった紙にサラサラと前世での名前を書く。
「ふ、複雑ですね…」
パトリシアが俺の書いた字を覗き込んで言う。
「この字を『あ』こちらを『れん』と読むんだ」
紙をパトリシアの方に向け、指で指し示す。
「『あ』『れん』…」
紙を手に取りじっと眺めていたパトリシア。
これが文字である事も、これが俺の名前を表しているという事も、パトリシアしか、知らない。
俺が名前を書いたその紙を、パトリシアは持ち帰ったりはしなかった。
この紙に書かれた辿々しい文字。
パトリシア、お前、この字をあの短い時間で覚えたのか?
「パティ…」
アレンは自分の名を書かれた紙を内ポケットに入れる。
紙が落ちていたのは講堂の横の中庭。講堂の出入り口から出て、ここを通るとなると、校舎へ入る以外には校舎の周りの庭を通って裏門の方へ行くしかないが、意識があるのかないのかはわからないが、パトリシアを連れて行くには距離がありすぎる。
あの男の狙いがパティ自身なら、校舎に入り、何処か空き教室なりに連れ込むのが一番…事に及び易いだろう。
アレンは一番近い入り口から校舎に入ると、足音を立てないように廊下を歩き出した。
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