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あったかい。いい匂い…
白かった視界にぼんやりと色が戻る。
「パティ、大丈夫か?」
声が聞こえる。
この声は…アレン?でもパティって私を呼ぶのは…
「…アラン…?」
アランなの?
「ああ。もう大丈夫だ」
…やっぱり、これはアレンの声だわ。
アレンが、来てくれた。私を助けに。
ふわりと身体が浮き上がる。
ぼんやりとした視界にアレンの顔が見えた。
アレン。私…ずっと、小さい頃から、ずっと、アレンが好きだったの。
「…すき」
小さく呟くと、アレンが目を見開いて私を見ている。
そして、眉間に皺を寄せて辛そうな表情になった。
ああ…ごめんなさい。
アランの婚約者にそんな事言われても…困るよね。
でも、アレンが好きなの。ごめんなさい。ごめんなさい…
そっと目を閉じる。辛そうなアレンは見たくない。
涙が頬を伝ったのがわかった。
-----
「マール、開けてくれ」
「はい!?」
寮のパトリシアの部屋で待っていた侍女のマールは、突然の男性の声に驚いて立ち上がる。
まだ舞踏会が終わる時間には早いけど…
部屋の扉を開けると、アレンがパトリシアを抱いて立っていた。
「で…殿下!?」
「静かに」
「はっはい」
マールが扉を押さえて、アレンが中に入る。
ゆっくりと、パトリシアをソファへと降ろして寝かせた。
「あの…パトリシア様は…」
「薬で朦朧としている。何の薬を飲まされたのかわからないから楽観はできないが、おそらくもうすぐ目覚めるだろう」
パトリシアの傍らに跪くアレン。
「薬!?」
「…パトリシアが薬を飲まされて、舞踏会の会場から連れ出された事は、パトリシア本人と、それをした男、そして俺しか知らないんだ。マール、わかるだろう?」
貴族令嬢だからと結婚まで完璧な処女性が求められる世界ではないが、攫われたとなればまた話は違う。ましてや第三王子とはいえ、王子の婚約者がそのような事で清廉さを疑われる訳にはいかないのだ。
「はい。この事は内密に、ですね」
マールは緊張の面持ちで頷く。
「そうだ。パトリシアが目覚めたらそのままデンゼル家へ戻れ。幸い夏季休暇だ。休暇中にあの男は…俺がどうにかする」
「わかりました」
「パトリシア…」
アレンは目を閉じているパトリシアの頬の涙の跡をそっと親指でなぞると、立ち上がった。
「パトリシアを頼む」
「はい」
そう言い残すと、アレンは部屋を出て行った。
-----
パトリシアが居た教員準備室の主はマリアン・ノックスだ。マリアンと関係のあるロードがパトリシアをそこへ連れ込んだのは間違いないだろう。
しかしその証拠はない。
「パティは居たのか?」
アレンが舞踏会の会場に戻って来ると、すぐにアランに声を掛けられた。
アランもパティを少しは心配していたのか?
「ああ。気分が悪くなったと外で休んでいたから寮に戻らせた。人に酔ったみたいだ」
「そうか…」
ホッとした様子のアラン。
「好き」
確かにさっきパティはそう言った。微かな呟きだが、俺がパティの言葉を聞き逃す筈がない。
俺の大丈夫かと言う問い掛けにパティは「アラン?」と言った。俺をアランだと思っていたんだ。いやアランである事を望んでいたんだろう。何故なら、パティはアランを「好き」だから。
胸が締め付けられるように痛い。
パティはアランの婚約者。
よくわかっている。
俺は、エリザベスと結婚する。
パティはアランと結婚する。
何年も前に割り切って諦めた筈なのに、何故こんなに苦しい?
俺の名前を書いた紙を持っていたから、一瞬でもパティも俺を…と思ってしまったからだろうか?しかし例え俺たちが思い合っていたとしても、どうにもならない事には何の変わりもないのに。
苦しさを抱えたまま、舞踏会を終える。
「アラン、休み明けか、休み中かはわからんが、今度ロード・フェアリに会ったら、尊大に『先日はパティが世話になったな』と言え」
片付けの後、王宮に帰る馬車の中でアレンはアランに言う。
「尊大に?」
「尊大に。具体的な事は言うな。聞かれても笑って煙に巻け」
「ええ?でも俺はアレンに具体的な事を聞いても良いんだろう?」
アレンの向かい側の座席のアランは少し身を乗り出すようにして聞く。
「そうだな。アランは演技が下手そうだから、その台詞をロード・フェアリに上手く言えたら、その後で話す」
「ええ~俺、演技下手そう?」
「下手そうは間違っていたな。確実に下手だ」
ニヤリとアレンが笑うと、アランはわはははと笑い出した。
「割と酷いぞ。アレン。でも違うとも言えないな」
あったかい。いい匂い…
白かった視界にぼんやりと色が戻る。
「パティ、大丈夫か?」
声が聞こえる。
この声は…アレン?でもパティって私を呼ぶのは…
「…アラン…?」
アランなの?
「ああ。もう大丈夫だ」
…やっぱり、これはアレンの声だわ。
アレンが、来てくれた。私を助けに。
ふわりと身体が浮き上がる。
ぼんやりとした視界にアレンの顔が見えた。
アレン。私…ずっと、小さい頃から、ずっと、アレンが好きだったの。
「…すき」
小さく呟くと、アレンが目を見開いて私を見ている。
そして、眉間に皺を寄せて辛そうな表情になった。
ああ…ごめんなさい。
アランの婚約者にそんな事言われても…困るよね。
でも、アレンが好きなの。ごめんなさい。ごめんなさい…
そっと目を閉じる。辛そうなアレンは見たくない。
涙が頬を伝ったのがわかった。
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「マール、開けてくれ」
「はい!?」
寮のパトリシアの部屋で待っていた侍女のマールは、突然の男性の声に驚いて立ち上がる。
まだ舞踏会が終わる時間には早いけど…
部屋の扉を開けると、アレンがパトリシアを抱いて立っていた。
「で…殿下!?」
「静かに」
「はっはい」
マールが扉を押さえて、アレンが中に入る。
ゆっくりと、パトリシアをソファへと降ろして寝かせた。
「あの…パトリシア様は…」
「薬で朦朧としている。何の薬を飲まされたのかわからないから楽観はできないが、おそらくもうすぐ目覚めるだろう」
パトリシアの傍らに跪くアレン。
「薬!?」
「…パトリシアが薬を飲まされて、舞踏会の会場から連れ出された事は、パトリシア本人と、それをした男、そして俺しか知らないんだ。マール、わかるだろう?」
貴族令嬢だからと結婚まで完璧な処女性が求められる世界ではないが、攫われたとなればまた話は違う。ましてや第三王子とはいえ、王子の婚約者がそのような事で清廉さを疑われる訳にはいかないのだ。
「はい。この事は内密に、ですね」
マールは緊張の面持ちで頷く。
「そうだ。パトリシアが目覚めたらそのままデンゼル家へ戻れ。幸い夏季休暇だ。休暇中にあの男は…俺がどうにかする」
「わかりました」
「パトリシア…」
アレンは目を閉じているパトリシアの頬の涙の跡をそっと親指でなぞると、立ち上がった。
「パトリシアを頼む」
「はい」
そう言い残すと、アレンは部屋を出て行った。
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パトリシアが居た教員準備室の主はマリアン・ノックスだ。マリアンと関係のあるロードがパトリシアをそこへ連れ込んだのは間違いないだろう。
しかしその証拠はない。
「パティは居たのか?」
アレンが舞踏会の会場に戻って来ると、すぐにアランに声を掛けられた。
アランもパティを少しは心配していたのか?
「ああ。気分が悪くなったと外で休んでいたから寮に戻らせた。人に酔ったみたいだ」
「そうか…」
ホッとした様子のアラン。
「好き」
確かにさっきパティはそう言った。微かな呟きだが、俺がパティの言葉を聞き逃す筈がない。
俺の大丈夫かと言う問い掛けにパティは「アラン?」と言った。俺をアランだと思っていたんだ。いやアランである事を望んでいたんだろう。何故なら、パティはアランを「好き」だから。
胸が締め付けられるように痛い。
パティはアランの婚約者。
よくわかっている。
俺は、エリザベスと結婚する。
パティはアランと結婚する。
何年も前に割り切って諦めた筈なのに、何故こんなに苦しい?
俺の名前を書いた紙を持っていたから、一瞬でもパティも俺を…と思ってしまったからだろうか?しかし例え俺たちが思い合っていたとしても、どうにもならない事には何の変わりもないのに。
苦しさを抱えたまま、舞踏会を終える。
「アラン、休み明けか、休み中かはわからんが、今度ロード・フェアリに会ったら、尊大に『先日はパティが世話になったな』と言え」
片付けの後、王宮に帰る馬車の中でアレンはアランに言う。
「尊大に?」
「尊大に。具体的な事は言うな。聞かれても笑って煙に巻け」
「ええ?でも俺はアレンに具体的な事を聞いても良いんだろう?」
アレンの向かい側の座席のアランは少し身を乗り出すようにして聞く。
「そうだな。アランは演技が下手そうだから、その台詞をロード・フェアリに上手く言えたら、その後で話す」
「ええ~俺、演技下手そう?」
「下手そうは間違っていたな。確実に下手だ」
ニヤリとアレンが笑うと、アランはわはははと笑い出した。
「割と酷いぞ。アレン。でも違うとも言えないな」
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