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私は酷い人間だわ。
パトリシアは少し眉を寄せて目を閉じて早い息をしているアランの顔を見ながらそう心の中で呟いた。
こうしてアランに付き添って…心配してる振りをして…ううん。アランを心配する気持ちはもちろんある。早く目が覚めて欲しいと思ってる。でも、私が本当に心の底で心配してるのはアレンなんだもの。
アランが王城の医療棟に運び込まれた次の日、アレンが保養地から戻って来て、アランの病室を訪れた。
まだ容態が安定しておらず、医者や看護師が数人居たのでパトリシアは病室の隅に立っていた。
扉を開けて入って来たアレンは顔が真っ青で、
「お前…何をやっているんだ…」
アランの顔を見た途端、そう言って胸を押さえて床に膝をついた。
「アレン!」
思わずパトリシアが駆け寄ると、アレンは胸を押さえていない方の手でパトリシアの手を握った。
「…パ……」
何かを言い掛けたが、声が出ないようで、パトリシアの手を握ったまま床に倒れた。
「アレン!」
「…大丈夫…アランに共鳴…てるだけ…」
アレンは苦しそうに言いながら、パトリシアの手をそっと離した。
「パット?」
パトリシアが目を覚ますと、フレデリックがパトリシアの顔を覗き込んでいた。
「…お兄様」
アランのベッドに突っ伏して眠ってしまっていたようだ。
「パットも付ききりで疲れてるんだ。アランには俺が付いているから家に戻って眠った方が良い」
「付き切りと言っても何もしてないのに…」
「それでも疲れるものだよ」
フレデリックはポンポンとパトリシアの頭を叩く。
お兄様、私に優しくしないで。私…酷い人間なんだもん。
「近くに居たいならレスターに頼んで部屋を借りようか?」
近くに居たい。少しでも。
アレンの。
…ああ、やっぱり私は酷い。
「家に…帰る」
「ああ。ゆっくりして、明日また来れば良いさ」
「うん」
パトリシアが出て行った病室で、フレデリックはアランの顔を眺める。
ベッドの側に置かれた椅子に腰掛けた。
「フレデリック様」
暫く経った頃、ふと、名前を呼ぶ声が聞こえた。
今、王族の居るこの階は、関係者以外の出入りはできない筈だが?
フレデリックは立ち上がり病室の扉を開ける。
「フレデリック様…」
「ジュリ!?」
そこには目を真っ赤にしたジュリアナが立っていてフレデリックを見上げていた。
なるほど。今、俺がここに居るから、俺の婚約者のジュリアナも関係者として扱われたのか。
「どうしたんだ?その…」
ジュリアナは舞踏会のエスコートを断って夏季休暇に入ってから、フレデリックが何度連絡しても会うのを拒んでいたのだ。
「…ごめんなさい」
ジュリアナの目に涙が浮かぶ。
「何を謝る?」
フレデリックは優しく言うと、手を伸ばし、親指でジュリアナの目尻の涙を拭った。
「私…ビビアンさんを止められなかったの…」
「え?ビビアン・ミルトン?」
こくんと頷くジュリアナ。
「どう言う事なんだ?」
ジュリアナをアランの病室へ招き入れ、椅子を持って来てフレデリックと向き合うように座らせる。
ジュリはビビアン・ミルトンが薬草畑を焼くのを知っていたと言う事なのか?
「ビビアンさんが訪ねて来て、ロ…ロード様たちが輸入が禁止されている植物を育ててるって言って。その植物から『惚れ薬』ができるって…」
「うん」
「それでロード様が私…私たちにその『惚れ薬』を使ったんじゃないかって…こんなに皆がロード様を…その…す、好きになるのはおかしいって」
俯いて、言いにくそうにジュリアナは言う。
ああ…ジュリは攻略対象者だから仕方ないとわかっていても、本人の口から「ロードを好きになった」と言う意味の事を聞くのは辛いな。
「…うん」
「私も『そうかな』と思ったの」
「そう?」
「惚れ薬の…せいなのかな…と」
ジュリアナは自分の手をぎゅっと握る。
「…でも『違う』って、思って…ビビアンさんに『あの植物の実が収穫される前に燃やしてしまおうと思うので、協力して欲しい』と言われたんだけど…お断りしたの」
それは…ジュリは自分がロードを好きになったのは惚れ薬のせいではないと思ったと言う事か。
でも惚れ薬のせいだと思って一緒に燃やしに行っていたら…
「私、ビビアンさんにやめた方が良いって言ったの。ライネルさんやロード様とちゃんと話した方が良いって…ビビアンさんも『わかった』って…」
膝の上で握られたジュリアナの手の上に、涙がパタパタと落ちた。
「せめて私がその事を誰かに話せば、止められたかも知れないのに…」
「ジュリのせいじゃない」
フレデリックが言うと、ジュリアナは顔を上げた。
「ビビアン・ミルトンを止められなかったのは、ジュリのせいじゃないよ」
フレデリックはジュリアナの涙で濡れた両手を自分の手で包んだ。
-----
ロードは自分の部屋のベッドに横たわって呟く。
「悪役令嬢が死ぬなんて展開があって良いのか?」
私は酷い人間だわ。
パトリシアは少し眉を寄せて目を閉じて早い息をしているアランの顔を見ながらそう心の中で呟いた。
こうしてアランに付き添って…心配してる振りをして…ううん。アランを心配する気持ちはもちろんある。早く目が覚めて欲しいと思ってる。でも、私が本当に心の底で心配してるのはアレンなんだもの。
アランが王城の医療棟に運び込まれた次の日、アレンが保養地から戻って来て、アランの病室を訪れた。
まだ容態が安定しておらず、医者や看護師が数人居たのでパトリシアは病室の隅に立っていた。
扉を開けて入って来たアレンは顔が真っ青で、
「お前…何をやっているんだ…」
アランの顔を見た途端、そう言って胸を押さえて床に膝をついた。
「アレン!」
思わずパトリシアが駆け寄ると、アレンは胸を押さえていない方の手でパトリシアの手を握った。
「…パ……」
何かを言い掛けたが、声が出ないようで、パトリシアの手を握ったまま床に倒れた。
「アレン!」
「…大丈夫…アランに共鳴…てるだけ…」
アレンは苦しそうに言いながら、パトリシアの手をそっと離した。
「パット?」
パトリシアが目を覚ますと、フレデリックがパトリシアの顔を覗き込んでいた。
「…お兄様」
アランのベッドに突っ伏して眠ってしまっていたようだ。
「パットも付ききりで疲れてるんだ。アランには俺が付いているから家に戻って眠った方が良い」
「付き切りと言っても何もしてないのに…」
「それでも疲れるものだよ」
フレデリックはポンポンとパトリシアの頭を叩く。
お兄様、私に優しくしないで。私…酷い人間なんだもん。
「近くに居たいならレスターに頼んで部屋を借りようか?」
近くに居たい。少しでも。
アレンの。
…ああ、やっぱり私は酷い。
「家に…帰る」
「ああ。ゆっくりして、明日また来れば良いさ」
「うん」
パトリシアが出て行った病室で、フレデリックはアランの顔を眺める。
ベッドの側に置かれた椅子に腰掛けた。
「フレデリック様」
暫く経った頃、ふと、名前を呼ぶ声が聞こえた。
今、王族の居るこの階は、関係者以外の出入りはできない筈だが?
フレデリックは立ち上がり病室の扉を開ける。
「フレデリック様…」
「ジュリ!?」
そこには目を真っ赤にしたジュリアナが立っていてフレデリックを見上げていた。
なるほど。今、俺がここに居るから、俺の婚約者のジュリアナも関係者として扱われたのか。
「どうしたんだ?その…」
ジュリアナは舞踏会のエスコートを断って夏季休暇に入ってから、フレデリックが何度連絡しても会うのを拒んでいたのだ。
「…ごめんなさい」
ジュリアナの目に涙が浮かぶ。
「何を謝る?」
フレデリックは優しく言うと、手を伸ばし、親指でジュリアナの目尻の涙を拭った。
「私…ビビアンさんを止められなかったの…」
「え?ビビアン・ミルトン?」
こくんと頷くジュリアナ。
「どう言う事なんだ?」
ジュリアナをアランの病室へ招き入れ、椅子を持って来てフレデリックと向き合うように座らせる。
ジュリはビビアン・ミルトンが薬草畑を焼くのを知っていたと言う事なのか?
「ビビアンさんが訪ねて来て、ロ…ロード様たちが輸入が禁止されている植物を育ててるって言って。その植物から『惚れ薬』ができるって…」
「うん」
「それでロード様が私…私たちにその『惚れ薬』を使ったんじゃないかって…こんなに皆がロード様を…その…す、好きになるのはおかしいって」
俯いて、言いにくそうにジュリアナは言う。
ああ…ジュリは攻略対象者だから仕方ないとわかっていても、本人の口から「ロードを好きになった」と言う意味の事を聞くのは辛いな。
「…うん」
「私も『そうかな』と思ったの」
「そう?」
「惚れ薬の…せいなのかな…と」
ジュリアナは自分の手をぎゅっと握る。
「…でも『違う』って、思って…ビビアンさんに『あの植物の実が収穫される前に燃やしてしまおうと思うので、協力して欲しい』と言われたんだけど…お断りしたの」
それは…ジュリは自分がロードを好きになったのは惚れ薬のせいではないと思ったと言う事か。
でも惚れ薬のせいだと思って一緒に燃やしに行っていたら…
「私、ビビアンさんにやめた方が良いって言ったの。ライネルさんやロード様とちゃんと話した方が良いって…ビビアンさんも『わかった』って…」
膝の上で握られたジュリアナの手の上に、涙がパタパタと落ちた。
「せめて私がその事を誰かに話せば、止められたかも知れないのに…」
「ジュリのせいじゃない」
フレデリックが言うと、ジュリアナは顔を上げた。
「ビビアン・ミルトンを止められなかったのは、ジュリのせいじゃないよ」
フレデリックはジュリアナの涙で濡れた両手を自分の手で包んだ。
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ロードは自分の部屋のベッドに横たわって呟く。
「悪役令嬢が死ぬなんて展開があって良いのか?」
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