69 / 79
番外編1
しおりを挟む
1
「続編?」
エリザベスが目を見開くと、目の前に座った男性が頷く。
「同じ登場人物で続きでも良いし、まったく新しい話でも良いから、また連載してくれないかな?」
「あの登場人物は両想いになって結婚する事になった処で終わったから、もう完結だわ」
「じゃあ新作。とにかくまた書いて欲しいんだよ」
「…考えておくわ」
出版社のある建物を出ると、エリザベスは日傘を開いた。
あの物語は、パトリシア様は世間に思われている様な「性悪女」ではないし、アレン殿下も無責任で節操なしな方ではないと知らせたくて…男女を逆にして書いたけど、新作って…何を書けば良いのかしら?
通りを歩きながら考える。
主人公の双子の妹やその元婚約者を中心に物語を組み立てても良いけど…今度はアランや私の事だと思われるからやめた方が良いわね。
そもそも私、アランともロードとも恋人関係ではないし。
「リジー!こっちこっち」
車道を挟んだ通りの向こうからエリザベスを呼ぶ声がした。
「アラン」
帽子を被って眼鏡を掛けた男性が手を振っている。
髪と瞳を隠したアランだ。
アランは王位継承権を失くし薬学研究所に勤めているが、臣籍降下した公爵で第三王子である事には変わりないため、街中では王子とわからないよう変装している事が多いのだ。
「あ、待って。俺が渡るからリジーはそこに居て」
道路を渡ろうとしたエリザベスを手で制し、アランは馬車の行き交う道路を渡ってエリザベスの前に立った。
「出版社に行ったんだろ?早かったな」
「呼び出されたから何かと思ったら『新作を書け』ですって」
エリザベスとアランは並んで歩き出す。
「ああ…単行本が発売されて半年?だっけ。まだ売れてるらしいし、出版社としては次出したいよなあ」
「でも新作って何を書けば良いのかしらね」
「双子の妹と、姉の元婚約者の恋物語、書いてよ」
アランが目をキラキラさせてエリザベスを見る。
それはアランと私の恋物語って事よね?
「だめだめ。そこは姉の元婚約者と、姉に言い寄ってた恋敵の伯爵令息との恋でしょ」
エリザベスとアランの肩に後ろから手を置き、ピンクの髪の男性がニコニコとして声を掛けて来た。
「ロード」
エリザベスが振り向きながら名前を呼ぶと、ロードはますます笑顔になる。
「安易に妹とくっつくより話の展開が深まるよ?」
「安易じゃないだろ」
アランが不貞腐れた様に言った。
「もうその話は良いから。早く行きましょう」
エリザベスは自分の両側に立つ男二人を交互に見上げる。
「そうだな」
「時間がもったいないしね」
街角にあるカフェに三人で入ると、エリザベスの向かいの席にアランとロードが座る。
ロードが刑期を終えた後、三人はこうして定期的に会っている。短時間でお茶をしたり、夕食を共にしたり、アランが保養地へ行く時エリザベスとロードを呼んだりと、時間や場所は様々だ。
「今日は休みなの?二人とも」
紅茶を飲みながらエリザベスが言うと、ロードは頷いた。
「俺は休み。この春ようやく医療棟の医者になれて暫く休んでなかったからね」
「俺は半休だ。午前中は仕事だった」
アランはそう言うと、コホンと咳払いして姿勢を正した。
「アラン?」
「どうした?」
「俺な、西国へ行く事になったんだ」
「西国?」
エリザベスが首を傾げると、アランは「ああ」と頷く。
「西国には結構先進的な薬学の研究所があるから、今回この国から研究員を何名か派遣する事になったんだ」
「へえ」
「そこにアランが行く事になったの?」
「ああ。この国のためになるなら、俺は行って勉強したい」
真剣な表情で言うアラン。
「そうか。それにしても西国って遠いよな?」
「そうだな。海路と陸路で、片道二か月は掛かるな」
「二か月も…」
「いつから行くんだ?」
「来週には出発する」
「来週!?随分急なのね」
エリザベスが驚いて言うと、アランは苦笑いを浮かべる。
「それで、リジーとロードに言っておく事があるんだ」
「何?」
「何だ?」
アランはエリザベスの眼をまっすぐに見つめた。
「俺はリジーの結婚相手候補から、降りる」
「…!」
アランがそう言うと、エリザベスは息を飲んだ。
「アラン?どう言う事だ?」
ロードが隣に座るアランの方へ身体を向けると、アランは眉を顰めて薄く笑いながら言った。
「西国に、短くとも五年滞在するんだ。流石にそんなにリジーにもロードにも待って欲しいとは…言えない」
「続編?」
エリザベスが目を見開くと、目の前に座った男性が頷く。
「同じ登場人物で続きでも良いし、まったく新しい話でも良いから、また連載してくれないかな?」
「あの登場人物は両想いになって結婚する事になった処で終わったから、もう完結だわ」
「じゃあ新作。とにかくまた書いて欲しいんだよ」
「…考えておくわ」
出版社のある建物を出ると、エリザベスは日傘を開いた。
あの物語は、パトリシア様は世間に思われている様な「性悪女」ではないし、アレン殿下も無責任で節操なしな方ではないと知らせたくて…男女を逆にして書いたけど、新作って…何を書けば良いのかしら?
通りを歩きながら考える。
主人公の双子の妹やその元婚約者を中心に物語を組み立てても良いけど…今度はアランや私の事だと思われるからやめた方が良いわね。
そもそも私、アランともロードとも恋人関係ではないし。
「リジー!こっちこっち」
車道を挟んだ通りの向こうからエリザベスを呼ぶ声がした。
「アラン」
帽子を被って眼鏡を掛けた男性が手を振っている。
髪と瞳を隠したアランだ。
アランは王位継承権を失くし薬学研究所に勤めているが、臣籍降下した公爵で第三王子である事には変わりないため、街中では王子とわからないよう変装している事が多いのだ。
「あ、待って。俺が渡るからリジーはそこに居て」
道路を渡ろうとしたエリザベスを手で制し、アランは馬車の行き交う道路を渡ってエリザベスの前に立った。
「出版社に行ったんだろ?早かったな」
「呼び出されたから何かと思ったら『新作を書け』ですって」
エリザベスとアランは並んで歩き出す。
「ああ…単行本が発売されて半年?だっけ。まだ売れてるらしいし、出版社としては次出したいよなあ」
「でも新作って何を書けば良いのかしらね」
「双子の妹と、姉の元婚約者の恋物語、書いてよ」
アランが目をキラキラさせてエリザベスを見る。
それはアランと私の恋物語って事よね?
「だめだめ。そこは姉の元婚約者と、姉に言い寄ってた恋敵の伯爵令息との恋でしょ」
エリザベスとアランの肩に後ろから手を置き、ピンクの髪の男性がニコニコとして声を掛けて来た。
「ロード」
エリザベスが振り向きながら名前を呼ぶと、ロードはますます笑顔になる。
「安易に妹とくっつくより話の展開が深まるよ?」
「安易じゃないだろ」
アランが不貞腐れた様に言った。
「もうその話は良いから。早く行きましょう」
エリザベスは自分の両側に立つ男二人を交互に見上げる。
「そうだな」
「時間がもったいないしね」
街角にあるカフェに三人で入ると、エリザベスの向かいの席にアランとロードが座る。
ロードが刑期を終えた後、三人はこうして定期的に会っている。短時間でお茶をしたり、夕食を共にしたり、アランが保養地へ行く時エリザベスとロードを呼んだりと、時間や場所は様々だ。
「今日は休みなの?二人とも」
紅茶を飲みながらエリザベスが言うと、ロードは頷いた。
「俺は休み。この春ようやく医療棟の医者になれて暫く休んでなかったからね」
「俺は半休だ。午前中は仕事だった」
アランはそう言うと、コホンと咳払いして姿勢を正した。
「アラン?」
「どうした?」
「俺な、西国へ行く事になったんだ」
「西国?」
エリザベスが首を傾げると、アランは「ああ」と頷く。
「西国には結構先進的な薬学の研究所があるから、今回この国から研究員を何名か派遣する事になったんだ」
「へえ」
「そこにアランが行く事になったの?」
「ああ。この国のためになるなら、俺は行って勉強したい」
真剣な表情で言うアラン。
「そうか。それにしても西国って遠いよな?」
「そうだな。海路と陸路で、片道二か月は掛かるな」
「二か月も…」
「いつから行くんだ?」
「来週には出発する」
「来週!?随分急なのね」
エリザベスが驚いて言うと、アランは苦笑いを浮かべる。
「それで、リジーとロードに言っておく事があるんだ」
「何?」
「何だ?」
アランはエリザベスの眼をまっすぐに見つめた。
「俺はリジーの結婚相手候補から、降りる」
「…!」
アランがそう言うと、エリザベスは息を飲んだ。
「アラン?どう言う事だ?」
ロードが隣に座るアランの方へ身体を向けると、アランは眉を顰めて薄く笑いながら言った。
「西国に、短くとも五年滞在するんだ。流石にそんなにリジーにもロードにも待って欲しいとは…言えない」
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
真実の愛を見つけた王太子殿下、婚約破棄の前に10年分の王家運営費1.5億枚を精算して頂けます?
ぱすた屋さん
恋愛
「エルゼ、婚約を破棄する! 私は真実の愛を見つけたのだ!」
建国記念祭の夜会、王太子アルフォンスに断罪された公爵令嬢エルゼ。
だが彼女は泣き崩れるどころか、事務的に一枚の書類を取り出した。
「承知いたしました。では、我が家が立て替えた10年分の王家運営費――金貨1億5800万枚の精算をお願いします」
宝石代、夜会費、そして城の維持費。
すべてを公爵家の「融資」で賄っていた王家に、返済能力などあるはずもない。
「支払えない? では担保として、王都の魔力供給と水道、食料搬入路の使用を差し止めます。あ、殿下が今履いている靴も我が家の備品ですので、今すぐ脱いでくださいね?」
暗闇に沈む王城で、靴下姿で這いつくばる元婚約者。
下着同然の姿で震える「自称・聖女」。
「ゴミの分別は、淑女の嗜みですわ」
沈みゆく泥舟(王国)を捨て、彼女を「財務卿」として熱望する隣国の帝国へと向かう、爽快な論理的ざまぁ短編!
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる