「運命の番」と言われましても。

ねーさん

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 カード事件の翌日、エステルはクロフト伯爵家の王都屋敷へと帰って来ていた。
「エステル!!」
「エリシア!」
 エーリックに付き添われたエステルが玄関ホールへ入ると、屋敷の二階からエリシアが駆け降りて来て、エステルに抱き付く。
「会いたかった!エステル」
「私もよ」
 ぎゅうっと抱き合う双子をエーリックと父と母が微笑ましそうに、かつ痛ましそうに見ていた。

 サロンに久しぶりに家族五人が集まる。
 長ソファに並んで座るエステルとエリシアはずっと手を繋いでいた。
「エステル、護れなくてごめん。エリシアも、エステルを護るという約束を守れなくてごめん」
 エステルの正面に座ったエーリックが膝に手を置いて頭を下げる。
「そんな!お兄様は充分護ってくれたわ」
「いや。レオナルト殿下の怒りのオーラと言うか、威圧感は想像以上で、一瞬とはいえ気圧されて動けなかったのは初めてだ。…あれでは護れたとは言えないな」
 エーリックは自嘲気味に嗤った。
「私は同調したからエステルがどれだけ怖かったかよくわかるわ。そんなに怖い男性ひとにエステルが…どうして…」
 悔しそうに眉を寄せるエリシア。
 エステルは困ったように少し笑う。
「普段はそんなに怖い人ではないのよ。今朝も『昨夜はすまなかった』と伝言をくださったし。昨日の今日で直接顔を合わせるのは私の負担になるだろうからって」
「エステルの負担を慮れるようなら、求婚?求愛?それ自体を諦めてくださればいいのよ」
 エリシアは不満気に唇を尖らせた。
「それは…獣人の方々にとってはとても難しい事みたいね」
 エステルは苦笑いを浮かべる。
「それはそうなんでしょうけど」
 エリシアがため息を吐いた。

「エステル、エーリック、レオナルト殿下はどのような方なんだ?」
 父が心配そうに聞く。母も隣で頷いた。
 エステルの両親はエステルが王城へ滞在する事になった時に一度レオナルトと会っているが、挨拶をしただけなのでレオナルトの人となりまではわからなかったのだ。
「殿下は、明朗快活で、王族らしく鷹揚な面もあれば、子供のように素直な面もおありの方です」
「そういえばアンジェがレオナルト殿下が泣いたと言っていたね」
 エステルの言葉を補足するように言うエーリック。
「…大の男が泣くなんて、女々しいわ」
 エリシアがそう呟くと、エステルは困ったように笑う。
「それだけ獣人にとって『運命の番』という存在が大きいという事だよ」
 エーリックが諭すように言うと、エリシアはエステルと繋いだ手をぎゅっと握り、首を横に振った。
「エステルもお兄様も、レオナルト殿下を庇うような事ばかり言うのね」
「そんなつもりは…」
「庇っていると言うより、私もエステルも今まで殿下と接して来た上でレオナルト殿下は『良い人』だと評価しているという事だよ」
「良い人?エステルを気絶させるくらい怖がらせたのに?」
 エリシアはますます唇を尖らせてエーリックを見る。
「……私だから気を失ってしまっただけで、普通の女性ならそんな事にはならないと思う。その点ではレオナルト殿下に非はないと思うし、少し…気の毒にも思うわ」
 少し首を傾げてエリシアに言うエステル。

 エリシアはエステルの方へ身体を向けると、繋いでいる手にもう片方の手を添えて、両手でエステルの手を握った。
「エステル……もしかして、レオナルト殿下を…好きになったの…?」
「え?」
「そうなの?ライルよりも?」
「……」
 エステルの目が泳いだのをエリシアが見逃すはずもなく。
「エステル」
 真剣な表情でじっとエステルを見つめるエリシア。
 エステルはふっと息を吐いた。
 ライルよりもレオナルト殿下を好きになったなんてありえないけど、でも──…
「……私にもフェロモンが嗅ぎ取れれば良かったのに、とは思うわ」
 そうしたら、獣人同士の「番」のようになれたかも。
 エステルが苦く笑う。
 「レオナルト殿下を好きになれたらいい」とエステルが考えている事、でもそれは決して「ライルよりも好き」にはならないだろうと感じている事もエリシアにはわかった。





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