ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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 裾の長い白いドレスに白いレースのベールを被ったヴィクトリアが鏡に写っている。
 今しがた教会での結婚式を終え、控室に戻って来たヴィクトリアは鏡の前に立ち、自分の姿を眺めた。

 ウォルターの態度は冷酷なままだが、婚儀を終え、教会を出ると国民の歓声に包まれ、その時には以前のような柔和な笑顔を見せていた。

 結局あの事故は事件化はせず事故のまま処理をされた。ただ、ウォルターは王妃派の貴族に秘密裏に制裁を加えた。様々な別件での罪を訴え、降爵、財産や領地の没収、私設騎士団の解体などを行い、王妃派の勢力を削ぎ、それらを見た東国派の貴族たちもウォルターを恐れ、すっかり鳴りを顰めたのだった。

 ウォルター殿下から、心からの笑顔を奪ったのは、私なんだわ。
 ヴィクトリアは鏡に写る自分の姿にアイリスを重ねる。
 ウォルター殿下の婚約者は私だった。アイリスが生きていたとしても決してウォルター殿下と結ばれる事はなかった。
 でも、アイリスにはジェイドとの幸せな未来があった筈。こんな風に綺麗な衣装を見に纏い、幸せな笑顔を浮かべる未来が。
 そしてそれはジェイドにも。
「ごめんなさい…」

 そう呟いた時、控室の扉が開いた。
 入って来たのは王族の正装である軍装のウォルターだ。
 厳しい表情のウォルターは、泣きそうなヴィクトリアを見てますます眉を顰める。
 俯くヴィクトリアにウォルターが歩み寄り、手袋をした手を伸ばしてヴィクトリアの顎を掴んで上を向かせる。
 そしてウォルターがヴィクトリアの顔に自分の顔を近付けた。
 ウォルターは鼻が触れそうな至近距離でヴィクトリアの目を覗き込むと、無表情で口を開く。

「笑え」
 ウォルターはそう言うと、辛そうな表情のヴィクトリアの顎を離した。
「この後はバルコニーに立つ。国民たちに辛気臭い表情かおは見せるな」
 踵を返し、扉の方へと歩きながらウォルターは言う。
「はい」
「どんなに嫌でも私の側に居るしかないんだ。観念しろヴィクトリア」
「!」
 いつの間にか一人称が「僕」から「私」に変化したウォルター。そしてあれからずっとヴィクトリアを「お前」と呼び、決して名前を口にしなかったウォルターが、ヴィクトリアの名前を呼んだ。
「…嫌ではありません」
 そうだわ。私にできる贖罪は、どんなに冷たくされようとウォルター殿下の側にいる事だけ。
「どうだか」
 ウォルターはそう言うと、控室を出て行った。

-----

 アイリスが初めてガードナー家に来た時、右手はお父様と、左手はジェイドと手を繋いでいた。

 …あの子、ジェイドと手をつないでるわ。
 アイリスって、わたしの妹なのよね?という事はわたしと同じ「はくしゃくれいじょう」なのよね?
 ジェイドは使用人で、それにおとこの子だからあんまり仲良くしちゃいけないってお母様が言っていたけど…
「アイリスのお姉様のヴィクトリアだよ」
 ヴィクトリアの父フランクがアイリスに声を掛ける。
「おねえさま?」
 アイリスがフランクを見上げながら言うと、ジェイドがアイリスの手を自分の方に引きながら
「ほら見てアイリス、アイリスとよく似てるだろう?」
 そう言ってアイリスにヴィクトリアの方を見るように促した。

 ジェイド、今アイリスの事「様」って付けずに呼んだわ。
「ん~?」
 アイリスが首を傾げてヴィクトリアを見る。
「…よろしくね」
 ヴィクトリアが微笑むと、アイリスもパッと笑顔になった。
「アイリスのおねえさま?」
「そうよ」
 アイリスは満面の笑みを浮かべると、フランクとジェイドの手を離してヴィクトリアの方へ歩いて来る。
 そしてそのままヴィクトリアの腰の辺りに抱き付いた。

「おねえさま」
 驚くヴィクトリアを見上げてアイリスは嬉しそうに言う。
「アイリスね、母さまがいなくなってさびしかったの。でもおねえさまがいるからもうさびしくないね」
「アイリス…」
 かわいい。
 この子がわたしの妹なんだわ。

「そうだぞ。これからはヴィクトリアがいる。父さまとジェイドもずっと一緒だと言っただろう?」
 フランクがアイリスの頭を撫で、それからヴィクトリアの頭を撫でた。
「そう。ずっと一緒だよ。アイリス」
 ジェイドはアイリスの頭に手を置くと乱暴にぐしゃぐしゃと撫でる。
「ジェイド!」
 髪をぐちゃぐちゃにされたアイリスが頬を膨らませてジェイドを見ると、ジェイドは「ははは」と笑った。

 わたし、ジェイドに頭をなでられた事、ない。
 ジェイドに「様」をつけないで呼ばれた事、ない。
 ずっと一緒なんて言われた事なんて、ないわ。

 ヴィクトリアの胸にチリチリとした痛みが走った。



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