ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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 アイリスには専属で付く侍女がいない。
 それは、この家でアイリスの味方となる者を増やさないためのお母様の意向だ。
 だからアイリスが外出する時にはジェイドが付き添っている。特に王宮へ行く時には必ずと言っていい程。

 もジェイドとアイリスと私は三人で馬車に乗り込んだ。

 そして、事故が起こる。

 目が覚めると、お母様が目に涙を浮かべて言った。
「ジェイドが貴女を庇ってくれたのよ。それでヴィクトリアは無傷だったの」
 一瞬。
 ほんの一瞬、私は喜んだ。愚かにも。
「でもアイリスは…」
 ハンカチで目頭を押さえるお母様。でもハンカチで隠れた口元には笑みが見える。
「!」
 お母様の思惑通りになったと言う事?
 つまりアイリスは……
 …私の…私のせいだわ。
 ヴィクトリアがわなわなと震える自分の手を胸の上で組むと、お母様は言った。

「アイリスは、貴女を庇ったジェイドと一緒に天に召されたわ」

-----

 私のせいで、アイリスとジェイドが死んでしまった。
 
 ベッドの上に座り呆然としている私の元にウォルター殿下がやって来る。
「ヴィクトリア…」
 ウォルター殿下はやつれていた。
 目の下の隈が眠れていない事を如実に表していて、頬がこけて食事も摂れていない事がわかる。
 ああ、そうだわ。この方はアイリスを好きだったのよ。婚約したかったのも本当は私ではなくアイリス。
 私はそれに気付いていたのに…

「…ごめんなさい」
「ヴィクトリア?」

 私は、自己満足でしかない賭けで、取り返しのつかない事をしてしまった。
「私のせいなんです………」

-----

 何もかもを話した私に、ウォルター殿下が向けた視線はとても冷ややかだ。
 でも、それでいい。

「…婚約を破棄してください」
 振り絞るように言った私にウォルター殿下は平坦な口調で言う。
「何故?僕はヴィクトリアと結婚するよ」
「でも…」
 アイリスを死なせた私と結婚するなんて、ウォルター殿下は私を許せるの?

「もちろん許さないよ。一生ね」
「え…?」
 ヴィクトリアを見下ろすウォルター。口角が上がり、青紫色の瞳が冷たく光った。
 ウォルターが手を伸ばして来て、ヴィクトリアの顎を掴むとぐいっと上向かせる。
「僕はアイリスが幸せでいてくれるなら、それで良いと思っていたんだ。ただそれを側で見ていたかった」
 僕がこの国に留まりたい理由はそれだけだった。
 そうウォルターはヴィクトリアを見ながら言った。
「それが叶わなくなった今。この顔。せめてアイリスと同じ顔のお前を僕の妻にして一生側に置いておく」
 お前、なんて呼び方、なさる方ではなかったのに。

 ヴィクトリアの目に涙が浮かぶ。
 ウォルターはそれに気付くと、舌打ちをして顎を掴んだ手を離した。
「どうせお前も愛しいジェイドが死んで、修道院へでも行くつもりだったのだろう?それとも僕が婚約を破棄したら、何事もなかったかのように婿を取ってガードナー家を継ぐつもりだったのか?…まあそうだよね。ヴィクトリアのやった事は罪には問えない。ヴィクトリアは敢えてを回避しなかっただけだものね」
 部屋の扉の方へ歩きながらウォルターが言う。
「……」
 何を言われても、私に弁明する資格などない。

「学園を卒業したら、できるだけ早く結婚式を挙げよう」
 そう言って、ウォルターは部屋を出て行った。

-----

「ウォルター殿下は王妃派や東国派がヴィクトリア様を排除しようとしている動きを掴んでいたのに、実際に事を起こされてしまったと悔いておられるんです」
 学園の卒業が迫り、早々に決まった婚儀の準備のために王宮を訪れたヴィクトリアに、ウォルターの側付きから侍従になったデリックが言う。
 ウォルターの私室のソファに座るヴィクトリアの前に紅茶のカップを置くデリック。

「『自分があの日王宮に呼ばなければ』との思いもあるかと。更にアイリス様を死なせてしまったのが王妃派…ご自身を祭り上げる派閥だった事も追い討ちになって、ご自身を許せない気持ちをヴィクトリア様に投影しておられていて…」
「ええ。殿下の気持ちはわかっているわ」
 ヴィクトリアが頷くと、デリックは少し安心したようだ。
「今はヴィクトリア様に冷厳な態度を取られていますけど、いつかきっと改善されるかと…」
「私は大丈夫よ」
 何をされても。何を言われても。
 むしろ責めてもらったが良いわ。

 ヴィクトリアは少し笑って紅茶を飲んだ。



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