ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

文字の大きさ
48 / 80

47

しおりを挟む
47

「ウォルター殿下と婚約ですか?」
 父フランクの執務室に呼ばれて、第三王子ウォルターからガードナー伯爵家の令嬢へ婚約の申し入れがあったと聞いたヴィクトリアは、その相手が自分だとは全く思っていなかった。
 それはヴィクトリアが、ウォルターと仲が良いのはアイリスだと感じていたからだ。
 アイリスとヴィクトリアがセラフィナの所へ遊びに呼ばれると、よくウォルターがそこに顔を出すのだが、ウォルターはアイリスとばかり話していて、ヴィクトリアが積極的に話し掛けられた事はあまりない。
 恋愛なのかどうかはわからないがウォルターはアイリスを好きなんだろうとヴィクトリアは思っていた。
「…私と、ですか?」
 訝し気に聞くヴィクトリアに、フランクは苦笑いを浮かべる。
「まあ正確には『ガードナー家の令嬢』への申し入れだ」
「それでは、アイリスの方が…」

「やめてちょうだい!」
 執務室に入って来た母マティルダが声を上げた。
「お母様…」
「ウォルター殿下は第三王子とは言え正妃様の御子、正統な血筋の王子は正当な令嬢を娶るものです。それを…」
 刺々しい口調に「あんな泥棒猫の半庶民の子」とアイリスを罵る心の声が聞こえるようだ。
 しかしマティルダはフランクの前では決してアイリスを口汚く罵ったりはしないのだが。

「まあ…私としてはヴィクトリアとアイリス、どちらもどこへ出しても恥ずかしくない立派な淑女だと思っているが、しかしそうは言えど王家となると、出自で肩身の狭い思いをさせるやも知れんしな。だから、アイリスには婿を取ってこの家を継がせようと考えている」
 フランクがそう言うと、マティルダは眉を顰めながらも頷いた。
 私とアイリスは男の兄弟がいない二人姉妹だから、どちらかがお婿さんを迎えてこの家を継ぐのは既定路線よね。
 でもそれは私の方で、アイリスはどこかに嫁ぐのだと思っていたけど…お母様はアイリスがこの家を継ぐ、つまりずっと一緒に暮らすのは許せるのかしら?

「旦那様はアイリスをジェイドと結婚させて、ジェイドを我が家の養子になさるおつもりなのよ」
 マティルダが納得していないようにほんの少し顔を歪ませて言う。
「え…?」
 ヴィクトリアの頭にガンッと殴られたような衝撃が走った。
 アイリスと、ジェイドが、結婚?

 そのヴィクトリアの表情を見て、マティルダはほんの少し口角を上げる。
「ふぅん…なの…」
 誰にも聞こえないような小声で呟いた。

-----

 その後、フランクが「ウォルターとの婚約話を進める」と言った言葉もまともに耳に入らないまま、ヴィクトリアは頷く。
 どうせ王家から来た話をこちらから断る事などできないとの諦めにも似た気持ちと、同時に納得できない思い、理不尽な怒りが胸に渦巻いていた。
 アイリスとジェイドが結婚?
 ジェイドはアイリスにとって特別な幼なじみかも知れないけど、私にとっても幼なじみだわ。
 それに使用人の子だから親しくし過ぎるなと私はお母様に散々言われて…だからもし、もしも、アイリスがウォルター殿下と結婚して、私の方がガードナー家を継ぐ事になったとしても、きっと私の結婚相手はジェイドではないのよ。
 お母様も、ジェイドのお母様、ローレンの事は侍女として信頼しているようだけど、お父様のニコラスやジェイドの事は「裏切り者」と嫌っているじゃない。
 そのジェイドとアイリスが結婚してガードナー家を継ぐのを本当に許せるの?

「ヴィクトリア、貴女、ジェイドに好意を持っているのね」
 ヴィクトリアとマティルダが執務室から出て、並んで廊下を歩いているとマティルダがそう言う。
「…え?」
 目を瞬かせてヴィクトリアがマティルダの方を見ると、マティルダは薄笑いを浮かべた。
「自分でも気付いていなかったの?」
「私が…ジェイドに…」
 ジェイドに好意を持っている。
 その言葉がストンとヴィクトリアの胸に落ちる。
 ああ、そうなんだわ。私…

「婚約しようという時にそれに気が付くなんて…かわいそうに」
 マティルダは大仰に眉を寄せた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

退屈扱いされた私が、公爵様の教えで社交界を塗り替えるまで

有賀冬馬
恋愛
「お前は僕の隣に立つには足りない」――そう言い放たれた夜から、私の世界は壊れた。 辺境で侍女として働き始めた私は、公爵の教えで身だしなみも心も整えていく。 公爵は決して甘やかさない。だが、その公正さが私を変える力になった。 元婚約者の偽りは次々に暴かれ、私はもう泣かない。最後に私が選んだのは、自分を守ってくれた静かな人。

厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです

あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。 社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。 辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。 冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。 けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。 そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ自分の居場所を取り戻していく。 静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。 【追記】完結保証タグ追加しました

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には何年も思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

処理中です...