Red And Frower

斗弧呂天

文字の大きさ
10 / 20

女と男

しおりを挟む
前回の事件よりは、今回の方が情報は多かった。
女の名前はベティーナ・マレット。28歳。
父親は既に他界しているが、母親はロンドン郊外に在住している。
アーネストとクレイグが母親を訪ねたとき、彼女は不審がりながらも2人を家に上げた。
アーネストが訪問の理由を告げると、彼女は目を見開き、何か言おうと口を開けたが、言葉が出ず、代わりに涙が溢れた。
夫にも先立たれ、ひとり娘は殺人事件の被害者だ。
アーネストには、到底想像出来る心情ではない。
「お気の毒ですが、犯人逮捕のため娘さんの事について教えてください。」
「はい…ですが、あまりお教え出来る事はありませんの。ベティと私の家は離れていますし、年に1、2回位しか会いません…でしたから。」
「娘さんの職業は聞いてますか?」
クレイグが問う。
「ええ、スーパーで働きながら弁護士になる為勉強していると言っていました。」
「なるほど。弁護士になる為に…」
「では、娘さんが何か困ったことに巻き込まれているという素振りは無かったんですね。」
彼女は静かに頷き、目頭をハンカチで押さえた。

家を後にした2人は、母親のある言葉が引っかかっていた。
「『働きながら、弁護士になる為に勉強』…ですか。随分な嘘を並べ立てたもんですね。」
「実際はとんだ売春婦だったがな。」

そう、ベティーナ・マレットは、SNSを利用して男を捕まえては小遣い稼ぎに精を出すという日々を送る女だった。
その証拠に、自宅のパソコンからは多くの男の名前が入ったメールが出てきたし、売春目的のサイトにひっきりなしにアクセスしていることも分かった。
そんな女が自分の娘だと知ったら、彼女はなんと言うだろうか。
「まあ、今はデータの解析が先だ。」
「はい。」
そのサイトは、かなり厳重なロックがかかっており、解除するまで数時間を要した。
データ解析のベテランのオリヴァーがそれほど手こずったといえば、どれほど困難だったか理解できるだろう。
サイトは、金が欲しい女と日頃の鬱憤を晴らしたい男が互いに連絡し合いながら日時を決め、事に及ぶという形のものだった。
だから、ベティーナのページには、欲と愛を勘違いした輩の名前の羅列があった。
アーネストはその全てに殆ど同じ回答をしながら、今月の収入を計算する女の顔を想像したが、上手くいかなかった。
アーネストとクレイグは、オリヴァーの肩越しにパソコンの画面を覗いていた。
「で、女の顧客はどれくらいいるんだ?」
「106人、100人強ですね。」
オリヴァーはマウススクロールしながら、答える。
「コメントを出します」
少し画面をいじると、今度は一人ひとりの客の会話が映し出された。
当然だが男の方は、他の男との会話が見えないので、精一杯抱かれる価値がある事をアピールしている。
うんざりするほど長ったらしい自慢を吐露する者。
捻りも何も無い冗談を言って、とにかく気に入られたい者。
言い回しに凝って、インテリを気どりたい者…
みんなアーネストの嫌いな人間だが、しばらくコメントを見ていると、不意にアーネストは叫んだ。
「ここだ!」
オリヴァーがスクロールボタンから指を離す。
目の前の画面には、1人の男との会話が映し出されていた。
『写真を見たよ。とても可愛いね。
特に金色の髪がよく似合ってる。
今度の金曜日の夜に会えないかな?』
『勿論。どこで会えばいいかしら?』
『ローデリ通りのデ・モルシェはどうだい?よく行くんだ。少し遅くなるけど、8:00でいいかな?』
『分かったわ。楽しみにしてるわね。』
『美しい君の金髪を見るのが待ち遠しいよ。』
もう2人の間に会話は無かった。
アーネストはただこう言った。
「この男について調べてくれ。出来るだけ早く、詳しくだ。」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完】はしたないですけど言わせてください……ざまぁみろ!

咲貴
恋愛
招かれてもいないお茶会に現れた妹。 あぁ、貴女が着ているドレスは……。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...