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女と男
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前回の事件よりは、今回の方が情報は多かった。
女の名前はベティーナ・マレット。28歳。
父親は既に他界しているが、母親はロンドン郊外に在住している。
アーネストとクレイグが母親を訪ねたとき、彼女は不審がりながらも2人を家に上げた。
アーネストが訪問の理由を告げると、彼女は目を見開き、何か言おうと口を開けたが、言葉が出ず、代わりに涙が溢れた。
夫にも先立たれ、ひとり娘は殺人事件の被害者だ。
アーネストには、到底想像出来る心情ではない。
「お気の毒ですが、犯人逮捕のため娘さんの事について教えてください。」
「はい…ですが、あまりお教え出来る事はありませんの。ベティと私の家は離れていますし、年に1、2回位しか会いません…でしたから。」
「娘さんの職業は聞いてますか?」
クレイグが問う。
「ええ、スーパーで働きながら弁護士になる為勉強していると言っていました。」
「なるほど。弁護士になる為に…」
「では、娘さんが何か困ったことに巻き込まれているという素振りは無かったんですね。」
彼女は静かに頷き、目頭をハンカチで押さえた。
家を後にした2人は、母親のある言葉が引っかかっていた。
「『働きながら、弁護士になる為に勉強』…ですか。随分な嘘を並べ立てたもんですね。」
「実際はとんだ売春婦だったがな。」
そう、ベティーナ・マレットは、SNSを利用して男を捕まえては小遣い稼ぎに精を出すという日々を送る女だった。
その証拠に、自宅のパソコンからは多くの男の名前が入ったメールが出てきたし、売春目的のサイトにひっきりなしにアクセスしていることも分かった。
そんな女が自分の娘だと知ったら、彼女はなんと言うだろうか。
「まあ、今はデータの解析が先だ。」
「はい。」
そのサイトは、かなり厳重なロックがかかっており、解除するまで数時間を要した。
データ解析のベテランのオリヴァーがそれほど手こずったといえば、どれほど困難だったか理解できるだろう。
サイトは、金が欲しい女と日頃の鬱憤を晴らしたい男が互いに連絡し合いながら日時を決め、事に及ぶという形のものだった。
だから、ベティーナのページには、欲と愛を勘違いした輩の名前の羅列があった。
アーネストはその全てに殆ど同じ回答をしながら、今月の収入を計算する女の顔を想像したが、上手くいかなかった。
アーネストとクレイグは、オリヴァーの肩越しにパソコンの画面を覗いていた。
「で、女の顧客はどれくらいいるんだ?」
「106人、100人強ですね。」
オリヴァーはマウススクロールしながら、答える。
「コメントを出します」
少し画面をいじると、今度は一人ひとりの客の会話が映し出された。
当然だが男の方は、他の男との会話が見えないので、精一杯抱かれる価値がある事をアピールしている。
うんざりするほど長ったらしい自慢を吐露する者。
捻りも何も無い冗談を言って、とにかく気に入られたい者。
言い回しに凝って、インテリを気どりたい者…
みんなアーネストの嫌いな人間だが、しばらくコメントを見ていると、不意にアーネストは叫んだ。
「ここだ!」
オリヴァーがスクロールボタンから指を離す。
目の前の画面には、1人の男との会話が映し出されていた。
『写真を見たよ。とても可愛いね。
特に金色の髪がよく似合ってる。
今度の金曜日の夜に会えないかな?』
『勿論。どこで会えばいいかしら?』
『ローデリ通りのデ・モルシェはどうだい?よく行くんだ。少し遅くなるけど、8:00でいいかな?』
『分かったわ。楽しみにしてるわね。』
『美しい君の金髪を見るのが待ち遠しいよ。』
もう2人の間に会話は無かった。
アーネストはただこう言った。
「この男について調べてくれ。出来るだけ早く、詳しくだ。」
女の名前はベティーナ・マレット。28歳。
父親は既に他界しているが、母親はロンドン郊外に在住している。
アーネストとクレイグが母親を訪ねたとき、彼女は不審がりながらも2人を家に上げた。
アーネストが訪問の理由を告げると、彼女は目を見開き、何か言おうと口を開けたが、言葉が出ず、代わりに涙が溢れた。
夫にも先立たれ、ひとり娘は殺人事件の被害者だ。
アーネストには、到底想像出来る心情ではない。
「お気の毒ですが、犯人逮捕のため娘さんの事について教えてください。」
「はい…ですが、あまりお教え出来る事はありませんの。ベティと私の家は離れていますし、年に1、2回位しか会いません…でしたから。」
「娘さんの職業は聞いてますか?」
クレイグが問う。
「ええ、スーパーで働きながら弁護士になる為勉強していると言っていました。」
「なるほど。弁護士になる為に…」
「では、娘さんが何か困ったことに巻き込まれているという素振りは無かったんですね。」
彼女は静かに頷き、目頭をハンカチで押さえた。
家を後にした2人は、母親のある言葉が引っかかっていた。
「『働きながら、弁護士になる為に勉強』…ですか。随分な嘘を並べ立てたもんですね。」
「実際はとんだ売春婦だったがな。」
そう、ベティーナ・マレットは、SNSを利用して男を捕まえては小遣い稼ぎに精を出すという日々を送る女だった。
その証拠に、自宅のパソコンからは多くの男の名前が入ったメールが出てきたし、売春目的のサイトにひっきりなしにアクセスしていることも分かった。
そんな女が自分の娘だと知ったら、彼女はなんと言うだろうか。
「まあ、今はデータの解析が先だ。」
「はい。」
そのサイトは、かなり厳重なロックがかかっており、解除するまで数時間を要した。
データ解析のベテランのオリヴァーがそれほど手こずったといえば、どれほど困難だったか理解できるだろう。
サイトは、金が欲しい女と日頃の鬱憤を晴らしたい男が互いに連絡し合いながら日時を決め、事に及ぶという形のものだった。
だから、ベティーナのページには、欲と愛を勘違いした輩の名前の羅列があった。
アーネストはその全てに殆ど同じ回答をしながら、今月の収入を計算する女の顔を想像したが、上手くいかなかった。
アーネストとクレイグは、オリヴァーの肩越しにパソコンの画面を覗いていた。
「で、女の顧客はどれくらいいるんだ?」
「106人、100人強ですね。」
オリヴァーはマウススクロールしながら、答える。
「コメントを出します」
少し画面をいじると、今度は一人ひとりの客の会話が映し出された。
当然だが男の方は、他の男との会話が見えないので、精一杯抱かれる価値がある事をアピールしている。
うんざりするほど長ったらしい自慢を吐露する者。
捻りも何も無い冗談を言って、とにかく気に入られたい者。
言い回しに凝って、インテリを気どりたい者…
みんなアーネストの嫌いな人間だが、しばらくコメントを見ていると、不意にアーネストは叫んだ。
「ここだ!」
オリヴァーがスクロールボタンから指を離す。
目の前の画面には、1人の男との会話が映し出されていた。
『写真を見たよ。とても可愛いね。
特に金色の髪がよく似合ってる。
今度の金曜日の夜に会えないかな?』
『勿論。どこで会えばいいかしら?』
『ローデリ通りのデ・モルシェはどうだい?よく行くんだ。少し遅くなるけど、8:00でいいかな?』
『分かったわ。楽しみにしてるわね。』
『美しい君の金髪を見るのが待ち遠しいよ。』
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アーネストはただこう言った。
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