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蠢く
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結果から言うと、犯人の特定は出来なかった。
その男のアカウントは、市内のネットカフェで作られたものだった。
また、ベティーナとの会話もサイト上で、しかも1回しか行われていないため、どんな男か全く検討がつかなかった。
念のため、カフェの店員に話を聞いたが、やはり一週間程前特定の個室に入った人物の顔など覚えているはずが無かった。
念のため、使われたと思われるパソコンの、男が居た時間帯の検索履歴をコピーしたものの、例のサイトの他は、動画サイトやアダルト系等てんでバラバラのものだった。
次に二人が向かったのは、デ・モルシェだった。
アーネストは知らない店名だったが、クレイグは聞いたことがあるらしく、アーネストに説明した。
「5年程前から営業している店で、名前の通りフランス料理の店です。」
少し考える素振りを見せ、クレイグは無駄の無い動きで自身の手帳を取り出し、何かを探しはじめた。
「失礼しました。正しくは4年9ヵ月です。」
そんなことまで記しているのか。
この男はメモ帳を私生活でも離さないらしい。
デ・モルシェは、かなり感じの良い店だった。
店内の装飾品や照明も程よく凝っていて、客のざわめきもかえって居心地のよさを感じた。
「3日前の金曜日?8:00ごろ…ああ、思い出しました。確かにそのような女性がいらっしゃいました。」
思わず二人は目を合わせた。
店員の男は明るい茶髪の青年で、おどおどしながら答えた。
「そうですか。女性はどんな様子でしたか?」
「えっと、確かあそこの窓際の席に座られて、暫く携帯で…メールを打っていたんだと思います。その後ワインを…そう、フランスの…パルメールだったかな。」
「そして?」
「その後、電話が掛かって来たみたいで、切った後すぐ出ていかれました。」
「なるほど、ところで…」
アーネストの目が男を捉える。
「金曜日の夜の繁盛時によくそこまで記憶に残りましたね。」
「そ、それは、その…実は…余りにその方が…はい。」
「その方が?何だったんですか?」
アーネストは肩眉を釣り上げて言った。
青年は、そばかすのある頬を少し赤らめながら答えた。
「いや、その、お、お美しかったもので…」
少しこの男には意地悪だったかと思い、アーネストは質問を変えた。
「女性の服装は?」
「紫の…ミニドレスっていうのでしょうか…」
ミニドレス。三十路近い女のする格好ではないが、彼女の職業を思えば無理はない。
どうやらこの青年から聞き出せることは、もうほとんど残っていないようだ。
署に戻ると、すぐにデイヴィに呼び止められた。
アーネストはデイヴィのデスクの、ビニールパックに入った黄色い花弁が目についた。
カーネーションだった。
「次はどんな言葉なんだ?」
「『あなたには失望しました』」
デイヴィが口を開く前にクレイグが答えた。
「また意味深な言葉だな。だが、前回のものとは少し意味が違う。」
「?」
「何がだ?」
デイヴィが問う。
アーネストは少し考えてから、話し出した。
「前回は、『私の目は、あなただけを見つめる』だったな。それは犯人ではなく、女側の発言だ。目だけが残った女には相応しい言葉だしな。だが今回は、あの女にその言葉が似合うとは思わない。どちらかというと、犯人の方が女に向けた言葉なんじゃないか?例えば女が抵抗して犯人の機嫌を損ねたとか…全て仮定の話だが、もし犯人が花言葉を残すことに異常なまでにこだわっているのなら、これは元々犯人が残そうと思っていた花弁じゃない。途中で何かしらの原因で気が変わって、あとで新しく手に入れたものだ。」
「おいおい、アーネスト。」
デイヴィが首を振りながら言った。
「いつからそんな犯人の理解者になっちまったんだ。まだ何もわかっちゃいない。たらればで話を進めるなんてらしくないぞ。」
「…確かに、いつもの俺じゃないみたいだ。」
アーネストは、少し驚いた。自分の発言に。
「それに、そんなことが真実だったとして、何の役に立つ?」
アーネストの後ろに立つクレイグも、同じことを疑問に思っているようだった。
「そうだな。……すまない、今のことは忘れてくれ。」
部屋を出る時アーネストは、自分の中で何かが蠢き始めていることに気がついていた。
その男のアカウントは、市内のネットカフェで作られたものだった。
また、ベティーナとの会話もサイト上で、しかも1回しか行われていないため、どんな男か全く検討がつかなかった。
念のため、カフェの店員に話を聞いたが、やはり一週間程前特定の個室に入った人物の顔など覚えているはずが無かった。
念のため、使われたと思われるパソコンの、男が居た時間帯の検索履歴をコピーしたものの、例のサイトの他は、動画サイトやアダルト系等てんでバラバラのものだった。
次に二人が向かったのは、デ・モルシェだった。
アーネストは知らない店名だったが、クレイグは聞いたことがあるらしく、アーネストに説明した。
「5年程前から営業している店で、名前の通りフランス料理の店です。」
少し考える素振りを見せ、クレイグは無駄の無い動きで自身の手帳を取り出し、何かを探しはじめた。
「失礼しました。正しくは4年9ヵ月です。」
そんなことまで記しているのか。
この男はメモ帳を私生活でも離さないらしい。
デ・モルシェは、かなり感じの良い店だった。
店内の装飾品や照明も程よく凝っていて、客のざわめきもかえって居心地のよさを感じた。
「3日前の金曜日?8:00ごろ…ああ、思い出しました。確かにそのような女性がいらっしゃいました。」
思わず二人は目を合わせた。
店員の男は明るい茶髪の青年で、おどおどしながら答えた。
「そうですか。女性はどんな様子でしたか?」
「えっと、確かあそこの窓際の席に座られて、暫く携帯で…メールを打っていたんだと思います。その後ワインを…そう、フランスの…パルメールだったかな。」
「そして?」
「その後、電話が掛かって来たみたいで、切った後すぐ出ていかれました。」
「なるほど、ところで…」
アーネストの目が男を捉える。
「金曜日の夜の繁盛時によくそこまで記憶に残りましたね。」
「そ、それは、その…実は…余りにその方が…はい。」
「その方が?何だったんですか?」
アーネストは肩眉を釣り上げて言った。
青年は、そばかすのある頬を少し赤らめながら答えた。
「いや、その、お、お美しかったもので…」
少しこの男には意地悪だったかと思い、アーネストは質問を変えた。
「女性の服装は?」
「紫の…ミニドレスっていうのでしょうか…」
ミニドレス。三十路近い女のする格好ではないが、彼女の職業を思えば無理はない。
どうやらこの青年から聞き出せることは、もうほとんど残っていないようだ。
署に戻ると、すぐにデイヴィに呼び止められた。
アーネストはデイヴィのデスクの、ビニールパックに入った黄色い花弁が目についた。
カーネーションだった。
「次はどんな言葉なんだ?」
「『あなたには失望しました』」
デイヴィが口を開く前にクレイグが答えた。
「また意味深な言葉だな。だが、前回のものとは少し意味が違う。」
「?」
「何がだ?」
デイヴィが問う。
アーネストは少し考えてから、話し出した。
「前回は、『私の目は、あなただけを見つめる』だったな。それは犯人ではなく、女側の発言だ。目だけが残った女には相応しい言葉だしな。だが今回は、あの女にその言葉が似合うとは思わない。どちらかというと、犯人の方が女に向けた言葉なんじゃないか?例えば女が抵抗して犯人の機嫌を損ねたとか…全て仮定の話だが、もし犯人が花言葉を残すことに異常なまでにこだわっているのなら、これは元々犯人が残そうと思っていた花弁じゃない。途中で何かしらの原因で気が変わって、あとで新しく手に入れたものだ。」
「おいおい、アーネスト。」
デイヴィが首を振りながら言った。
「いつからそんな犯人の理解者になっちまったんだ。まだ何もわかっちゃいない。たらればで話を進めるなんてらしくないぞ。」
「…確かに、いつもの俺じゃないみたいだ。」
アーネストは、少し驚いた。自分の発言に。
「それに、そんなことが真実だったとして、何の役に立つ?」
アーネストの後ろに立つクレイグも、同じことを疑問に思っているようだった。
「そうだな。……すまない、今のことは忘れてくれ。」
部屋を出る時アーネストは、自分の中で何かが蠢き始めていることに気がついていた。
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