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最後の犠牲者
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女は、今自分がどこにいるのか把握するのに、かなりの時間がかかった。
殴られた頭がまだ鈍く痛む。
かなりの時間をかけて起き上がると、白い布が視界の隅に写った。
見ると、自身の身体に白い布が巻きついていた。
暫く見つめていると、漸くそれがウェディングドレスだということに気がついた。
刺繍やレースが細かく施され、自分の身体にぴったりとはまっている。
恐怖に震えたが、そこをぐっと抑えて周りを見回した。
どうやらどこかの施設のようだ。
元は白かったであろう壁ははげかけていて、床のタイルは所々コンクリートが見えている。
今自分がいるのは施設の奥の方らしく、正方形の部屋の中で壁を背にして座っているようだ。
丁度自分のいる壁の反対側は廊下と繋がっていて、薄暗い雰囲気が更に女を不安にした。
「身が覚めたかい?」
「誰?!」
「僕だよ。さっきまで一緒に居たじゃないか。」
暗がりの中から突然男が現れた。
男はスーツケースを床に置き、女の前に立った。
「あなた…これはどういうことなの?」
「君は知らなくていいよ。知る必要が無い。」
顔を掴まれ、強引に上を向かされた。
男の顔が近づく。
「やはり美しいな。顔も、そしてここも。」
女の腕をそっと持ち上げ、うっとりと見つめている。
力強く振り払えば良いのに、恐怖で力が入らない。
暫くすると、立ち上がって近くに置いてあった何かしらの機械を操作し始めた。
数秒間の沈黙。
女はとにかく時間が欲しかった。
というか、黙っていると恐怖に狂ってしまいそうだった。
「あ、あなたは何者なの?」
「世間に言わせると芸術家。警察に言わせると猟奇的連続殺人犯。」
殺人犯。
女の背筋が凍る。
吐き気がせり上がってきたが、なんとか耐えて質問を続ける。
「私をどうする気?」
「超平凡的な質問だね。まるでチープな映画だ。」
「…なぜ私なの?」
そうだ、そっちの方が面白いと言ってから男は続けた。
「それはね、僕が君を見つけたからさ。今回の作品には、君がぴったりなんだ。」
作品?
「まさか、あなたがあの『芸術家』なの?」
最近イヤでも目に入る記事。
まるで芸術家のように人を殺していく男。
「だとしたら?」
「……お願い。私を殺さないで。死にたくないの。」
もうこれしか、女は言えなかった。
男は延長コードの先に何かしらのコンセントを差し込んでから、首を傾げた。
「殺す?僕がいつ人を殺したって?」
「え?」
男が機械のスイッチを入れる。
と、突然まばゆい光が女に容赦なく当てられた。
暗がりに慣れていたせいで目が開けられない。
どうやら男が操作していたのは、テレビの撮影などで用いるスポットライトのようだった。
「僕は人を殺してなんていない。美しいものの時を止めてあげているんだよ。絵画なんてのもそうさ。一瞬の美しさを永遠にする手段。」
次に男は、手にしていた電動ドリルのスイッチも入れた。
光で真っ白な景色の中で大きな電動音が響く。
女は弾かれたように立ち上がったが、目眩がしてまた倒れ込んだ。
声にならないうめき声をあげながら、なんとか光の外へと出ようとする。
その度に自分の脚に躓き、ライトの光の中で何度も転んだ。
はたから見たら、頭の悪い泥棒が慌てふためいているように見えただろう。
男はアニメを見る子供のような目をしていたが、やがて女に近づき、左手で髪を掴んで力任せにライトの中心に引き戻した。
「最後の作品が君で良かったよ。
… You Live Forever」
電動ドリルが肉体を捉えた。
神は愛なり けがれはてし
われさえ愛したもう
神は愛なり-
男はいつからこの歌を歌うようになったか、思い出せなかった。
まだ物心もついていなかった頃、母親が歌ってくれた歌。
母親の優しい声、どこかに寂しさを感じる表情。
それが永遠に続くのなら、悪魔に魂を売ったって構わなかった。
追い求めても、母はどこにも居ない。
代わりを探しても、それは母ではない。
なら、自分は一体、何を探しているんだ?
微かに携帯電話の振動音が聞こえる。
彼女が持っていたバッグの中だ。
「君に電話だよ。」
女は俯いたまま動かない。
「疲れているんだね。代わりに僕が受けるね。」
男は相手を確認してから通話ボタンを押した。
「もしもし?鈍感な警部さん。」
殴られた頭がまだ鈍く痛む。
かなりの時間をかけて起き上がると、白い布が視界の隅に写った。
見ると、自身の身体に白い布が巻きついていた。
暫く見つめていると、漸くそれがウェディングドレスだということに気がついた。
刺繍やレースが細かく施され、自分の身体にぴったりとはまっている。
恐怖に震えたが、そこをぐっと抑えて周りを見回した。
どうやらどこかの施設のようだ。
元は白かったであろう壁ははげかけていて、床のタイルは所々コンクリートが見えている。
今自分がいるのは施設の奥の方らしく、正方形の部屋の中で壁を背にして座っているようだ。
丁度自分のいる壁の反対側は廊下と繋がっていて、薄暗い雰囲気が更に女を不安にした。
「身が覚めたかい?」
「誰?!」
「僕だよ。さっきまで一緒に居たじゃないか。」
暗がりの中から突然男が現れた。
男はスーツケースを床に置き、女の前に立った。
「あなた…これはどういうことなの?」
「君は知らなくていいよ。知る必要が無い。」
顔を掴まれ、強引に上を向かされた。
男の顔が近づく。
「やはり美しいな。顔も、そしてここも。」
女の腕をそっと持ち上げ、うっとりと見つめている。
力強く振り払えば良いのに、恐怖で力が入らない。
暫くすると、立ち上がって近くに置いてあった何かしらの機械を操作し始めた。
数秒間の沈黙。
女はとにかく時間が欲しかった。
というか、黙っていると恐怖に狂ってしまいそうだった。
「あ、あなたは何者なの?」
「世間に言わせると芸術家。警察に言わせると猟奇的連続殺人犯。」
殺人犯。
女の背筋が凍る。
吐き気がせり上がってきたが、なんとか耐えて質問を続ける。
「私をどうする気?」
「超平凡的な質問だね。まるでチープな映画だ。」
「…なぜ私なの?」
そうだ、そっちの方が面白いと言ってから男は続けた。
「それはね、僕が君を見つけたからさ。今回の作品には、君がぴったりなんだ。」
作品?
「まさか、あなたがあの『芸術家』なの?」
最近イヤでも目に入る記事。
まるで芸術家のように人を殺していく男。
「だとしたら?」
「……お願い。私を殺さないで。死にたくないの。」
もうこれしか、女は言えなかった。
男は延長コードの先に何かしらのコンセントを差し込んでから、首を傾げた。
「殺す?僕がいつ人を殺したって?」
「え?」
男が機械のスイッチを入れる。
と、突然まばゆい光が女に容赦なく当てられた。
暗がりに慣れていたせいで目が開けられない。
どうやら男が操作していたのは、テレビの撮影などで用いるスポットライトのようだった。
「僕は人を殺してなんていない。美しいものの時を止めてあげているんだよ。絵画なんてのもそうさ。一瞬の美しさを永遠にする手段。」
次に男は、手にしていた電動ドリルのスイッチも入れた。
光で真っ白な景色の中で大きな電動音が響く。
女は弾かれたように立ち上がったが、目眩がしてまた倒れ込んだ。
声にならないうめき声をあげながら、なんとか光の外へと出ようとする。
その度に自分の脚に躓き、ライトの光の中で何度も転んだ。
はたから見たら、頭の悪い泥棒が慌てふためいているように見えただろう。
男はアニメを見る子供のような目をしていたが、やがて女に近づき、左手で髪を掴んで力任せにライトの中心に引き戻した。
「最後の作品が君で良かったよ。
… You Live Forever」
電動ドリルが肉体を捉えた。
神は愛なり けがれはてし
われさえ愛したもう
神は愛なり-
男はいつからこの歌を歌うようになったか、思い出せなかった。
まだ物心もついていなかった頃、母親が歌ってくれた歌。
母親の優しい声、どこかに寂しさを感じる表情。
それが永遠に続くのなら、悪魔に魂を売ったって構わなかった。
追い求めても、母はどこにも居ない。
代わりを探しても、それは母ではない。
なら、自分は一体、何を探しているんだ?
微かに携帯電話の振動音が聞こえる。
彼女が持っていたバッグの中だ。
「君に電話だよ。」
女は俯いたまま動かない。
「疲れているんだね。代わりに僕が受けるね。」
男は相手を確認してから通話ボタンを押した。
「もしもし?鈍感な警部さん。」
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