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第二の犠牲者
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女は、今自分の身に何が起こっているのか全く理解できなかった。
男の言った通りに路地裏で待っていたら、突然口をハンカチで覆われ、何がなにやらわからぬうちに意識を失ったのだ。
身が覚めるとそこはどこかのアパートの一室のようだった。
そして女は自分の身体を見下ろし、思わず小さな悲鳴をあげた。
見覚えのない純白のウエディングドレスを着ていたのだ。
何故?どうして自分はこんな格好をしているのだろう。誰かに着させられたのか。
そう思うと、女は恐怖に顔を歪めた。
職業柄、何度かこんな風に連れ去られる事はあったが、大抵は頭の足りない醜男で、少し戯れれば満足して解放してくれる類いのものだった。
しかし、今回のは違った。
まず、本人の姿が見あたらない。
古いアパートと思われる部屋の中には、ローテーブルと、清潔なシーツが掛かっているシングルベッドしか無かった。
そして、採寸したかのように自分の身体にぴったり馴染んでいるウエディングドレス。
女はこの状況を理解しかねていたが、今自分がとてつもない狂気に晒されている事ははっきりと分かった。
少しでもこの恐怖から逃れる術はないかと、女は辺りを見回した。
すると、ベッドの上に何やら紙切れの様なものを認めた。
近づいてみる。ドレスの端が床に擦れてさらさらと微かな音をたてた。
それは、何の飾り気のないメッセージカードだった。
女はカードを手に取り、活字体で書かれた文に視線を落とした。
”愛しの君へ
晴れ舞台に立つ姿の君は本当に美しい。
君の黄金の髪がより素晴らしく見えるよ。
君だけが持っている美しさに気付けるのは、僕だけだ。だから”
「きっと死にゆく君はよりいっそう美しいだろうね。」
「きゃあ!!あ、あんた…一体…」
「あれ?僕の顔を忘れたのかい?僕の花嫁。」
「嘘…あんた…まさか…」
女の目の前に現れたのは、ワイシャツ姿の男だった。
その顔を認めると、女はすぐに踵を返し逃げだ
した。
しかしドアに辿り着くまでに、長いドレスの端につまづき、倒れ込んでしまった。
何とか起き上がろうと顔を上げると、既に男は女の目の前に立っていて、女を見下ろしていた。
女が口を開きかけた瞬間、女の顔に男の靴の先がめり込んだ。
女は顔から血を流しながら、部屋の隅に転がって行った。
あまりの衝撃と鼻や口から溢れる血に、女はその場でうずくまった。
「逃げるなんて酷いな。折角美しい作品が生まれようとしているのに。」
男は女の長い髪を引っ張ろうと手を伸ばしかけたが、はたと思い直して、代わりに靴の爪先を女の顎の下に差し込み、上を向かせた。
「嫌…やめて!どうして…」
「…嫌?」
再び男の靴が女の頬にくい込んだ。
壁に頭をしこたま打ちつけ、気が遠くなる。
仰向けになって伸びている女を見ると、男はくるりと向きを変え、ドアを開けた。
女はひとりすすり泣いた。
口の中が血と切れた粘膜でいっぱいになり、嗚咽することさえも難しかった。
自分の少し前の方に白いものが落ちていた。
どうやら、歯の欠片らしかった。
再びドアが開き、男が入ってくると、女の泣き声は、悲鳴混じりのものになった。
「恐がらなくて良いんだよ。ただ僕は、君の美しさをより際立たせたいだけなんだ。きっとこの作品は、前のものよりきっと素晴らしいと思う。」
そう言って男は、小振りの折りたたみナイフと何やら透明な液体の入ったガラスのボトルを女の目の前に置いた。
もう女は、悲鳴を上げる事も出来なかった。
「美しい芸術の誕生を祝ってくれるよね?…あの世で。」
「~~~~~~!!!???」
神は愛なり。けがれはてし
われさえ愛したもう 神は愛なり…
男の歌う賛美歌のメロディが、女の声にならない断末魔を覆い隠していった。
男の言った通りに路地裏で待っていたら、突然口をハンカチで覆われ、何がなにやらわからぬうちに意識を失ったのだ。
身が覚めるとそこはどこかのアパートの一室のようだった。
そして女は自分の身体を見下ろし、思わず小さな悲鳴をあげた。
見覚えのない純白のウエディングドレスを着ていたのだ。
何故?どうして自分はこんな格好をしているのだろう。誰かに着させられたのか。
そう思うと、女は恐怖に顔を歪めた。
職業柄、何度かこんな風に連れ去られる事はあったが、大抵は頭の足りない醜男で、少し戯れれば満足して解放してくれる類いのものだった。
しかし、今回のは違った。
まず、本人の姿が見あたらない。
古いアパートと思われる部屋の中には、ローテーブルと、清潔なシーツが掛かっているシングルベッドしか無かった。
そして、採寸したかのように自分の身体にぴったり馴染んでいるウエディングドレス。
女はこの状況を理解しかねていたが、今自分がとてつもない狂気に晒されている事ははっきりと分かった。
少しでもこの恐怖から逃れる術はないかと、女は辺りを見回した。
すると、ベッドの上に何やら紙切れの様なものを認めた。
近づいてみる。ドレスの端が床に擦れてさらさらと微かな音をたてた。
それは、何の飾り気のないメッセージカードだった。
女はカードを手に取り、活字体で書かれた文に視線を落とした。
”愛しの君へ
晴れ舞台に立つ姿の君は本当に美しい。
君の黄金の髪がより素晴らしく見えるよ。
君だけが持っている美しさに気付けるのは、僕だけだ。だから”
「きっと死にゆく君はよりいっそう美しいだろうね。」
「きゃあ!!あ、あんた…一体…」
「あれ?僕の顔を忘れたのかい?僕の花嫁。」
「嘘…あんた…まさか…」
女の目の前に現れたのは、ワイシャツ姿の男だった。
その顔を認めると、女はすぐに踵を返し逃げだ
した。
しかしドアに辿り着くまでに、長いドレスの端につまづき、倒れ込んでしまった。
何とか起き上がろうと顔を上げると、既に男は女の目の前に立っていて、女を見下ろしていた。
女が口を開きかけた瞬間、女の顔に男の靴の先がめり込んだ。
女は顔から血を流しながら、部屋の隅に転がって行った。
あまりの衝撃と鼻や口から溢れる血に、女はその場でうずくまった。
「逃げるなんて酷いな。折角美しい作品が生まれようとしているのに。」
男は女の長い髪を引っ張ろうと手を伸ばしかけたが、はたと思い直して、代わりに靴の爪先を女の顎の下に差し込み、上を向かせた。
「嫌…やめて!どうして…」
「…嫌?」
再び男の靴が女の頬にくい込んだ。
壁に頭をしこたま打ちつけ、気が遠くなる。
仰向けになって伸びている女を見ると、男はくるりと向きを変え、ドアを開けた。
女はひとりすすり泣いた。
口の中が血と切れた粘膜でいっぱいになり、嗚咽することさえも難しかった。
自分の少し前の方に白いものが落ちていた。
どうやら、歯の欠片らしかった。
再びドアが開き、男が入ってくると、女の泣き声は、悲鳴混じりのものになった。
「恐がらなくて良いんだよ。ただ僕は、君の美しさをより際立たせたいだけなんだ。きっとこの作品は、前のものよりきっと素晴らしいと思う。」
そう言って男は、小振りの折りたたみナイフと何やら透明な液体の入ったガラスのボトルを女の目の前に置いた。
もう女は、悲鳴を上げる事も出来なかった。
「美しい芸術の誕生を祝ってくれるよね?…あの世で。」
「~~~~~~!!!???」
神は愛なり。けがれはてし
われさえ愛したもう 神は愛なり…
男の歌う賛美歌のメロディが、女の声にならない断末魔を覆い隠していった。
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