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◇
「ああ、疲れた!」
およそ2日ぶりに自宅に戻った薫は、上着と鞄をソファーに投げ出すと、ベッドの上に大の字に寝転んだ。
大きく息を吐いて、天井を見上げる。
あのあと食事に誘われたが、丁重にお断りして帰って来た。3人で食事なんて、ちょっとした拷問だ。昨夜の出来事にいくら気持ちがなかったとはいえ、平然としている櫻井が信じられない。
今日は長い1日だった。
色々ありすぎて、英司のことを思い出す暇はなかった。
でもやはり、部屋で1人になると嫌でも頭に浮かんでくる。忘れたふりをしていた現実が、重たくのしかかる。
「………」
薫はむくりと起き上がると、ソファーに投げた鞄を取り、あえて今日1日見ないようにしていたスマートフォンを取り出した。
英司から、不在着信が1件、入っていた。
メッセージアプリはブロックしたが着信拒否をしていなかったことを思い出し、すぐに設定する。
その他には、退職願を渡した上司からのメールが1通きていた。ざっと目を通し、改めて自分を引き止めてくれる内容に小さくため息をつく。
彼は、薫が入社当初から面倒を見てくれていた穏やかで人好きのする上司だ。
メールには、もっと話を聞きたい、退職願はまだ有給扱いで止めているし誰にも公表していないから少し休んで戻って来い、と懇切丁寧に書かれてあった。
「……受理したんじゃなかったのかよ」
いきなり退職願を出したというのに、怒りもせず、ただ驚いていた上司を思い出す。
薫の胸が、ちくりと痛んだ。
ありがたいと思う。思うが、退職についてはもう十分考えた。
仕事は嫌いではなかった。むしろ、好きな方だったと思う。でももう、何かが、切れたのだ。
「………」
メールに返信もせず閉じて再び寝転がり、アドレス帳をぼんやりと眺める。
実家の番号が一番上にあった。
会社を辞めたら故郷の田舎に帰ろうかとも思ったが、帰って跡を継ぐような家業もないし、親を心配させるだけだと思い直してやめた。退職したことも、次の仕事が決まってから報告するつもりだ。
「ああ、疲れた!」
およそ2日ぶりに自宅に戻った薫は、上着と鞄をソファーに投げ出すと、ベッドの上に大の字に寝転んだ。
大きく息を吐いて、天井を見上げる。
あのあと食事に誘われたが、丁重にお断りして帰って来た。3人で食事なんて、ちょっとした拷問だ。昨夜の出来事にいくら気持ちがなかったとはいえ、平然としている櫻井が信じられない。
今日は長い1日だった。
色々ありすぎて、英司のことを思い出す暇はなかった。
でもやはり、部屋で1人になると嫌でも頭に浮かんでくる。忘れたふりをしていた現実が、重たくのしかかる。
「………」
薫はむくりと起き上がると、ソファーに投げた鞄を取り、あえて今日1日見ないようにしていたスマートフォンを取り出した。
英司から、不在着信が1件、入っていた。
メッセージアプリはブロックしたが着信拒否をしていなかったことを思い出し、すぐに設定する。
その他には、退職願を渡した上司からのメールが1通きていた。ざっと目を通し、改めて自分を引き止めてくれる内容に小さくため息をつく。
彼は、薫が入社当初から面倒を見てくれていた穏やかで人好きのする上司だ。
メールには、もっと話を聞きたい、退職願はまだ有給扱いで止めているし誰にも公表していないから少し休んで戻って来い、と懇切丁寧に書かれてあった。
「……受理したんじゃなかったのかよ」
いきなり退職願を出したというのに、怒りもせず、ただ驚いていた上司を思い出す。
薫の胸が、ちくりと痛んだ。
ありがたいと思う。思うが、退職についてはもう十分考えた。
仕事は嫌いではなかった。むしろ、好きな方だったと思う。でももう、何かが、切れたのだ。
「………」
メールに返信もせず閉じて再び寝転がり、アドレス帳をぼんやりと眺める。
実家の番号が一番上にあった。
会社を辞めたら故郷の田舎に帰ろうかとも思ったが、帰って跡を継ぐような家業もないし、親を心配させるだけだと思い直してやめた。退職したことも、次の仕事が決まってから報告するつもりだ。
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