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薫の生まれ育った田舎は、冬は雪深くなるような、山と湖に囲まれた自然豊かなところだった。両親と姉の4人家族で、まだ実家にいる姉は来年結婚する。
薫は大学からこちらに出てきて、就職もここでしたので、実家には盆と正月に帰省するくらいだ。
幼なじみなど田舎に根を張っている奴もいるが、自然と疎遠になってゆく。
大学でできた友人も、仕事の忙しさを理由に飲みに行く頻度も減っていく。
会社の同僚はどこかライバル意識が邪魔をして本音を言い合える奴なんていないし、気が付けば、薫は英司が全てになっていた。英司がいれば、それでいいと思ってきた。
こんな時に連絡をとりたいと思える相手も思い浮かばず、スマートフォンを枕元に放る。
「……風呂」
このまま横になっていると、寝てしまう。
薫は起き上がり、バスルームに向かった。
熱めのシャワーを浴びて出てくると、スマートフォンにメッセージが入っていた。帰り際に連絡先を交換した、櫻井だ。
『今日はお疲れ、明日もよろしく。また連絡する』
薫は返事の代わりに人相の悪いウサギが飛び跳ねるスタンプを送り、アラームをセットした。
明日は、朝8時に現地集合だ。
クローゼットから黒のスーツを出し、これでいいかと壁に掛けた。
帰りの車の中で、美奈子は薫の着ているスーツを見て、言った。
『明日はそんなにいい服着てこなくていいわよ、汚れるから。黒っぽいスーツでお願いね。あと、悪いんだけど香水はやめてね? てかさぁ、その香水好きなの? 本城君には合ってないと思うわよ? いかにも遊び人って感じ』
ケラケラ笑いながら指摘されて、薫は恥ずかしくて堪らなかった。というか、自分では分からなかったので、まだ匂っていたのかと驚いた。ほんのひと吹きしただけだったのだが……それも、服の中の下半身に。
助手席で笑いをかみ殺している櫻井を睨みながら、明日はつけないと返事をする薫だった。
美奈子は、思ったことをはっきり口にするタイプのようだ。でも、嫌味な感じはしなかった。
仕事を辞めたら、しばらくゆっくりしようと思っていた。思いがけず忙しくなってしまったのは想定外だが、お陰で英司のことを考えずに済みそうなのは、ありがたいと思った。
薫は大学からこちらに出てきて、就職もここでしたので、実家には盆と正月に帰省するくらいだ。
幼なじみなど田舎に根を張っている奴もいるが、自然と疎遠になってゆく。
大学でできた友人も、仕事の忙しさを理由に飲みに行く頻度も減っていく。
会社の同僚はどこかライバル意識が邪魔をして本音を言い合える奴なんていないし、気が付けば、薫は英司が全てになっていた。英司がいれば、それでいいと思ってきた。
こんな時に連絡をとりたいと思える相手も思い浮かばず、スマートフォンを枕元に放る。
「……風呂」
このまま横になっていると、寝てしまう。
薫は起き上がり、バスルームに向かった。
熱めのシャワーを浴びて出てくると、スマートフォンにメッセージが入っていた。帰り際に連絡先を交換した、櫻井だ。
『今日はお疲れ、明日もよろしく。また連絡する』
薫は返事の代わりに人相の悪いウサギが飛び跳ねるスタンプを送り、アラームをセットした。
明日は、朝8時に現地集合だ。
クローゼットから黒のスーツを出し、これでいいかと壁に掛けた。
帰りの車の中で、美奈子は薫の着ているスーツを見て、言った。
『明日はそんなにいい服着てこなくていいわよ、汚れるから。黒っぽいスーツでお願いね。あと、悪いんだけど香水はやめてね? てかさぁ、その香水好きなの? 本城君には合ってないと思うわよ? いかにも遊び人って感じ』
ケラケラ笑いながら指摘されて、薫は恥ずかしくて堪らなかった。というか、自分では分からなかったので、まだ匂っていたのかと驚いた。ほんのひと吹きしただけだったのだが……それも、服の中の下半身に。
助手席で笑いをかみ殺している櫻井を睨みながら、明日はつけないと返事をする薫だった。
美奈子は、思ったことをはっきり口にするタイプのようだ。でも、嫌味な感じはしなかった。
仕事を辞めたら、しばらくゆっくりしようと思っていた。思いがけず忙しくなってしまったのは想定外だが、お陰で英司のことを考えずに済みそうなのは、ありがたいと思った。
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