コントレイルとちぎれ雲

葉月凛

文字の大きさ
上 下
38 / 113

38

しおりを挟む
 照明のトラブルも解消されて、後半は問題も起こらず、パーティーは盛況のうちに幕を降ろした。

 大トリを務めた環のルンバは全身全霊で愛を語り、皆を存分に魅了し、照明の桜吹雪が舞う中圧巻のエンディングを迎えた。

 環の希望で、登場時に加えて曲終わりにも桜吹雪を散らすことになったらしく……照明が直って本当に良かったと思う。

 チェイサーが流れる頃、中2階の照明ブースの小窓に、先程呼びに来たホテルスタッフが目元を拭っているのがちらりと見えた。

 昨年揉めたという環の祖父は、やって来なかった。どうやら腰を痛めて入院中らしく、代わりにこれでもかという大きな花が贈られたようで、会場入口で一際存在感を放っていた。札には『祝・桜塞翁踊りの道場・合同オータムパーティー』と書かれており、送り主は『権田原金造』とあった。

「さあ、撤収しましょう!」

  美奈子の掛け声に上着を脱いだ島崎に倣って、薫も上着を脱いだ。
 台車を取りに行った美奈子が戻る間、 ラインケーブルに貼ったガムテープを剥がしてゆく。

「ああ、本城君だめだよー。ラインはこうやって巻くの」

 見たことがないくらい長いラインケーブルを適当に丸めていた薫に、島崎からダメ出しがくる。

「こうやって、8の字に交互に回すの。そしたら、次ほどいた時にもつれないからね」

 会場ではホテルスタッフが、各々片付けに入っていた。長テーブルに並んでいたビュッフェ形式の大皿を下げ、テーブルクロスを外し、円卓テーブルは何と真っニつに折られてコンパクトに畳まれていった。
 パーティー会場の裏の顔を見たような、不思議な光景だった。

『チェリーブロッサムダンススクール・合同オータムパーティー』の横断幕が下げられると、薫は少し寂しい気がした。

 祭りが終わったあとの、あの感覚を思い出していると、美奈子が台車を押しながら戻って来た。

「お待たせ! さっきそこで環先生に会ってね、本城君によろしくって言ってたわよ。いつでも待ってるからって」

 台車を受け取った島崎が笑う。

「本城君、桜道場に入門かぁー」
「しませんから」

 どこまで本気か分からない環に、苦笑いしかない薫だった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

マイホーム

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

夢の中ではハーレムだ…

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

最初から間違っていたんですよ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,462pt お気に入り:3,349

今から女体化しちゃった幼馴染みを抱こうと思います。

BL / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:22

【俺を見つめないで】

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

あやし、妖しや、あやかしに「誰そ彼」とは問うべからず

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

男が子供を産めるなんて、俺は知らなかった。泣きたい。

BL / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:902

【いつかのきみへアネモネの花束を】

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...