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「っ、」
買ってきた荷物をその場に置いて、薫は急いで事務所を出る。
幸い降りた時のまま停まっていたエレベーターに飛び乗って、震える指で1階を押す。何故か震えている右手をぎゅっと握り、1階に下りると、薫は足早に建物の外に出た。
──2人は抱き合っていた。
胸がずきずきする。息が苦しい。鼻の奥が痛い。
……2人は、抱き合っていた。
それのどこがおかしい? 夫婦じゃないか。
未夏川を過ぎる頃には、薫の歩みは落ち着いてきた。
夫婦じゃないか、普通のことだ。何を、ショックを受けることがある?
「………」
駅までの道を、とぼとぼと歩く。視線が、靴の先に落ちる。
櫻井と美奈子が別居しているのは、決して不仲だからではない。むしろ、夫婦仲は良かった。
そんなこと、知っていた。
そもそも、薫は櫻井と付き合っている訳でも何でもない。特別な気持ちなど……ある筈がない。彼は結婚しているし、子供もいる。そんなこと、分かっている。
それなら、どうしてこんなに胸が痛むのか。自分は、何を勘違いしていたのだろう?
先程出てきたばかりの駅が見えてきた頃、ポケットに入れていたスマートフォンが震えた。
見ると、出ることはなかったがここ数日着信のある番号だった。
「……はい」
『あ! やっと出てくれた!』
耳に当てたスマートフォンから、嬉しそうな英司の声が頭の中に入ってくる。
『やったね、一歩前進!』
無邪気に喜ぶその声に、泣きそうになった。
『なぁ、今どこ? メシ行かねぇ? 薫?』
「……うん。いいよ」
『マジか! よし、気が変わる前に会おうぜ』
「気なんて変わらないから」
『いーや、信用できねぇ。ちょい待て、このまま電話切るなよ、切るなよ! あ、フリじゃねぇからな?』
「何言ってんだよ」
『やっべ、舞い上がってるわ、俺』
「……はは」
くだらない会話に、涙が引っ込む。薫の微かな笑い声に更に浮かれた様子の英司と、馴染みの居酒屋での待ち合わせを決める。
通話を終えた薫は、小さなため息を1つついて、駅の階段を下りて行った。
買ってきた荷物をその場に置いて、薫は急いで事務所を出る。
幸い降りた時のまま停まっていたエレベーターに飛び乗って、震える指で1階を押す。何故か震えている右手をぎゅっと握り、1階に下りると、薫は足早に建物の外に出た。
──2人は抱き合っていた。
胸がずきずきする。息が苦しい。鼻の奥が痛い。
……2人は、抱き合っていた。
それのどこがおかしい? 夫婦じゃないか。
未夏川を過ぎる頃には、薫の歩みは落ち着いてきた。
夫婦じゃないか、普通のことだ。何を、ショックを受けることがある?
「………」
駅までの道を、とぼとぼと歩く。視線が、靴の先に落ちる。
櫻井と美奈子が別居しているのは、決して不仲だからではない。むしろ、夫婦仲は良かった。
そんなこと、知っていた。
そもそも、薫は櫻井と付き合っている訳でも何でもない。特別な気持ちなど……ある筈がない。彼は結婚しているし、子供もいる。そんなこと、分かっている。
それなら、どうしてこんなに胸が痛むのか。自分は、何を勘違いしていたのだろう?
先程出てきたばかりの駅が見えてきた頃、ポケットに入れていたスマートフォンが震えた。
見ると、出ることはなかったがここ数日着信のある番号だった。
「……はい」
『あ! やっと出てくれた!』
耳に当てたスマートフォンから、嬉しそうな英司の声が頭の中に入ってくる。
『やったね、一歩前進!』
無邪気に喜ぶその声に、泣きそうになった。
『なぁ、今どこ? メシ行かねぇ? 薫?』
「……うん。いいよ」
『マジか! よし、気が変わる前に会おうぜ』
「気なんて変わらないから」
『いーや、信用できねぇ。ちょい待て、このまま電話切るなよ、切るなよ! あ、フリじゃねぇからな?』
「何言ってんだよ」
『やっべ、舞い上がってるわ、俺』
「……はは」
くだらない会話に、涙が引っ込む。薫の微かな笑い声に更に浮かれた様子の英司と、馴染みの居酒屋での待ち合わせを決める。
通話を終えた薫は、小さなため息を1つついて、駅の階段を下りて行った。
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