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陽が暮れるのを早く感じながら、駅へと向かう。心なしか人が多いのは、金曜日だからだろう。
明日の土曜日は現場もなく、薫も休みをもらっていた。
……櫻井も、明日は休みだろうか。あれからどうしているだろう。難しい案件は、まだ続いているのだろうか。それともあれは、自分と会わないための言い訳……だったりするのだろうか。
そんな考えがどうしても拭えなくて、薫はなかなか自分から連絡を取れないでいるのだった。
「あ! ねぇ、ちょっと」
駅への階段を下りかけた時、不意に声をかけられた。
振り向くと、階段の端に同世代くらいの背の高い茶髪の男性が立っていた。
「あー、あの。本城君、だよね?」
「え?」
男性が、にこにこと笑っている。
「えっと……そうですけど……」
薫は困惑した。この男性に、覚えがない。
どこかで会っただろうか。
「ええと……すみません、あの」
「ああ! いや、一方的に知ってる感じ? 佐々木って言うんだけど。まあ、会ったこともなくはないんだけどね。君島さんの知り合いなんだけど」
「あ、英司の……」
「そうそう」
佐々木がにっこりと目尻を下げた。
社内で2人の関係を知っている者はいなかったが、英司の個人的な知り合いには何人か会ったことがある。全員を覚えてはいないし、複数人いた時など、その中の1人と言われても把握できていない。
「あのさ。君島さんのことで、ちょっと話できないかな?」
「……話って」
「本城君さ、君島さんの電話にぜんぜん出てくれないでしょ? すごく落ち込んでるんだよ。それでさ、ちょっと話聞けないかなって」
「………」
「時間取らせないからさ、ね、ちょっとだけ。ほら、そこのコーヒーショップでいいからさ」
「……分かりました」
「良かった」
佐々木が、ほっとしたように眉を下げた。
英司の電話に出ていなかったのは事実だ。佐々木は、最近の事情を知っているらしい。
もう電話もかかってこなくなったから諦めてくれたと思っていたが、違うのだろうか。やはりもう一度、きちんと話さないといけないだろうか。
英司が今どう思っているのかも、佐々木なら知っているかもしれない。
明日の土曜日は現場もなく、薫も休みをもらっていた。
……櫻井も、明日は休みだろうか。あれからどうしているだろう。難しい案件は、まだ続いているのだろうか。それともあれは、自分と会わないための言い訳……だったりするのだろうか。
そんな考えがどうしても拭えなくて、薫はなかなか自分から連絡を取れないでいるのだった。
「あ! ねぇ、ちょっと」
駅への階段を下りかけた時、不意に声をかけられた。
振り向くと、階段の端に同世代くらいの背の高い茶髪の男性が立っていた。
「あー、あの。本城君、だよね?」
「え?」
男性が、にこにこと笑っている。
「えっと……そうですけど……」
薫は困惑した。この男性に、覚えがない。
どこかで会っただろうか。
「ええと……すみません、あの」
「ああ! いや、一方的に知ってる感じ? 佐々木って言うんだけど。まあ、会ったこともなくはないんだけどね。君島さんの知り合いなんだけど」
「あ、英司の……」
「そうそう」
佐々木がにっこりと目尻を下げた。
社内で2人の関係を知っている者はいなかったが、英司の個人的な知り合いには何人か会ったことがある。全員を覚えてはいないし、複数人いた時など、その中の1人と言われても把握できていない。
「あのさ。君島さんのことで、ちょっと話できないかな?」
「……話って」
「本城君さ、君島さんの電話にぜんぜん出てくれないでしょ? すごく落ち込んでるんだよ。それでさ、ちょっと話聞けないかなって」
「………」
「時間取らせないからさ、ね、ちょっとだけ。ほら、そこのコーヒーショップでいいからさ」
「……分かりました」
「良かった」
佐々木が、ほっとしたように眉を下げた。
英司の電話に出ていなかったのは事実だ。佐々木は、最近の事情を知っているらしい。
もう電話もかかってこなくなったから諦めてくれたと思っていたが、違うのだろうか。やはりもう一度、きちんと話さないといけないだろうか。
英司が今どう思っているのかも、佐々木なら知っているかもしれない。
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