67 / 113
67
しおりを挟む
佐々木の言うコーヒーショップは駅前の店ではなく、少し路地に入ったところの店の方だった。
『さっき見たら混んでたから、こっちで』という佐々木に連れられて店に入ると、入れ違うように手前のテーブル席に座っていた大柄な男性客が2人、出て行った。
観葉植物が衝立のようになってカウンターから見えづらい奥まった席に腰掛け、2人ともアイスコーヒーを注文する。デリケートな話だから、人目につきにくい席はありがたい。
「あの……英司は何か言ってましたか」
「うん、そうだね。君が電話に出てくれないって、嘆いてた。君島さんは、君とやり直したいって」
やはり、まだ諦めていないのかもしれない。思わず視線がテーブルに落ちると、佐々木が少し顔を近付けた。
「それでね、あの……もしかして、もう誰かいたり、するの?」
「え?」
「君島さんがね、君に新しい男がいるんじゃないかって心配してるんだよ」
「………」
英司は、櫻井のことを言っているのだろう。
嫉妬というのは自分が好意を寄せている相手からされると嬉しいかもしれないが、そうでなければ不快になるだけだ。英司の嫉妬を快く思わない段階で、もうそういうことなんだと思う。
「英司とやり直すつもりはないんだ。申し訳ないけど、英司にはそう伝えてもらえませんか」
そこで、ウェイトレスがアイスコーヒーを2つ運んで来た。佐々木は前のめりになっていた体を起こして、前に置いてあった水のグラスを脇に避けた。
「ごゆっくりどうぞ」
ウェイトレスが立ち去ると、佐々木が早速アイスコーヒーにガムシロップを入れてストローでくるくると回す。
「それって、やっぱりもう付き合ってる人いるんだ」
佐々木が糸のような目を、ちろりと薫に向けた。その視線に、妙な既視感があった。……やはり、佐々木とはどこかで会ったことがあるのだろう。いつだったかは思い出せないが。
「その人とは、どれくらい? まだ最近なんでしょ」
付き合ってる人などもちろんいないが、もうこの際そういうことにしておこうかとも思う。
ただそうした場合に、相手に会わせろなどと言い出されると面倒なことにはなる。その相手を英司は櫻井だと思っているだろうし、櫻井を巻き込むようなことだけは絶対にしたくなかった。
『さっき見たら混んでたから、こっちで』という佐々木に連れられて店に入ると、入れ違うように手前のテーブル席に座っていた大柄な男性客が2人、出て行った。
観葉植物が衝立のようになってカウンターから見えづらい奥まった席に腰掛け、2人ともアイスコーヒーを注文する。デリケートな話だから、人目につきにくい席はありがたい。
「あの……英司は何か言ってましたか」
「うん、そうだね。君が電話に出てくれないって、嘆いてた。君島さんは、君とやり直したいって」
やはり、まだ諦めていないのかもしれない。思わず視線がテーブルに落ちると、佐々木が少し顔を近付けた。
「それでね、あの……もしかして、もう誰かいたり、するの?」
「え?」
「君島さんがね、君に新しい男がいるんじゃないかって心配してるんだよ」
「………」
英司は、櫻井のことを言っているのだろう。
嫉妬というのは自分が好意を寄せている相手からされると嬉しいかもしれないが、そうでなければ不快になるだけだ。英司の嫉妬を快く思わない段階で、もうそういうことなんだと思う。
「英司とやり直すつもりはないんだ。申し訳ないけど、英司にはそう伝えてもらえませんか」
そこで、ウェイトレスがアイスコーヒーを2つ運んで来た。佐々木は前のめりになっていた体を起こして、前に置いてあった水のグラスを脇に避けた。
「ごゆっくりどうぞ」
ウェイトレスが立ち去ると、佐々木が早速アイスコーヒーにガムシロップを入れてストローでくるくると回す。
「それって、やっぱりもう付き合ってる人いるんだ」
佐々木が糸のような目を、ちろりと薫に向けた。その視線に、妙な既視感があった。……やはり、佐々木とはどこかで会ったことがあるのだろう。いつだったかは思い出せないが。
「その人とは、どれくらい? まだ最近なんでしょ」
付き合ってる人などもちろんいないが、もうこの際そういうことにしておこうかとも思う。
ただそうした場合に、相手に会わせろなどと言い出されると面倒なことにはなる。その相手を英司は櫻井だと思っているだろうし、櫻井を巻き込むようなことだけは絶対にしたくなかった。
0
あなたにおすすめの小説
僕と教授の秘密の遊び (終)
325号室の住人
BL
10年前、魔法学園の卒業式でやらかした元第二王子は、父親の魔法で二度と女遊びができない身体にされてしまった。
学生達が校内にいる時間帯には加齢魔法で老人姿の教授に、終業時間から翌朝の始業時間までは本来の容姿で居られるけれど陰茎は短く子種は出せない。
そんな教授の元に通うのは、教授がそんな魔法を掛けられる原因となった《過去のやらかし》である…
婚約破棄→王位継承権剥奪→新しい婚約発表と破局→王立学園(共学)に勤めて生徒の保護者である未亡人と致したのがバレて子種の出せない体にされる→美人局に引っかかって破産→加齢魔法で生徒を相手にしている時間帯のみ老人になり、貴族向けの魔法学院(全寮制男子校)に教授として勤める←今ここ を、全て見てきたと豪語する男爵子息。
卒業後も彼は自分が仕える伯爵家子息に付き添っては教授の元を訪れていた。
そんな彼と教授とのとある午後の話。
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
【完結】あなたの正しい時間になりたい〜上司に囚われた俺が本当の時間を見つけるまで〜
栄多
BL
都内の広告代理店勤務のデザイナー・澁澤澪緒(しぶさみお)は、上司との不倫から抜け出せないでいた。
離婚はできない不倫相手の上司からはせめてもの償いとして「お前もボーイフレンドを作れ」と言われる始末。
そんな傷心の澪緒の職場にある日、営業として柏木理緋都(かしわぎりひと)が入社してくる。
イケメンだが年上の後輩のである理緋都の対応に手こずる澪緒だが、仕事上のバディとして少しずつ距離を縮めていく。
順調だと思っていたがある日突然、理緋都に上司との不倫を見抜かれる。
絶望して会社を辞めようとする澪緒だが理緋都に引き止められた上、なぜか澪緒のボーイフレンドとして立候補する理緋都。
そんな社会人2人の、お仕事ラブストーリーです。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる