コントレイルとちぎれ雲

葉月凛

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 佐々木の言うコーヒーショップは駅前の店ではなく、少し路地に入ったところの店の方だった。

『さっき見たら混んでたから、こっちで』という佐々木に連れられて店に入ると、入れ違うように手前のテーブル席に座っていた大柄な男性客が2人、出て行った。

 観葉植物が衝立のようになってカウンターから見えづらい奥まった席に腰掛け、2人ともアイスコーヒーを注文する。デリケートな話だから、人目につきにくい席はありがたい。

「あの……英司は何か言ってましたか」
「うん、そうだね。君が電話に出てくれないって、嘆いてた。君島さんは、君とやり直したいって」

 やはり、まだ諦めていないのかもしれない。思わず視線がテーブルに落ちると、佐々木が少し顔を近付けた。

「それでね、あの……もしかして、もう誰かいたり、するの?」
「え?」
「君島さんがね、君に新しい男がいるんじゃないかって心配してるんだよ」
「………」

 英司は、櫻井のことを言っているのだろう。

 嫉妬というのは自分が好意を寄せている相手からされると嬉しいかもしれないが、そうでなければ不快になるだけだ。英司の嫉妬を快く思わない段階で、もうそういうことなんだと思う。

「英司とやり直すつもりはないんだ。申し訳ないけど、英司にはそう伝えてもらえませんか」

 そこで、ウェイトレスがアイスコーヒーを2つ運んで来た。佐々木は前のめりになっていた体を起こして、前に置いてあった水のグラスを脇に避けた。

「ごゆっくりどうぞ」

 ウェイトレスが立ち去ると、佐々木が早速アイスコーヒーにガムシロップを入れてストローでくるくると回す。

「それって、やっぱりもう付き合ってる人いるんだ」

 佐々木が糸のような目を、ちろりと薫に向けた。その視線に、妙な既視感があった。……やはり、佐々木とはどこかで会ったことがあるのだろう。いつだったかは思い出せないが。

「その人とは、どれくらい? まだ最近なんでしょ」

 付き合ってる人などもちろんいないが、もうこの際そういうことにしておこうかとも思う。

 ただそうした場合に、相手に会わせろなどと言い出されると面倒なことにはなる。その相手を英司は櫻井だと思っているだろうし、櫻井を巻き込むようなことだけは絶対にしたくなかった。

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