コントレイルとちぎれ雲

葉月凛

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 そんな感じで何度も時計に目をやりながら午前中を過ごしていると、お昼を回ったところで美奈子に声をかけられた。

「本城君。今日はもう帰っていいわ」
「えっ」

 驚く薫に、美奈子がくるりと椅子ごとこちらを向いた。

「周悟、今日、15時の便で帰って来るの」
「っ!」

 薫が、ガタッと席を立つ。
 美奈子が可笑しそうに笑った。

「迎えに行くでしょ? あんたたち仲良かったもんね。私は行けないから、周悟によろしく言っといて。 あとで電話するけど」

 美奈子が何をどこまで知っているのか分からないし、櫻井はおそらく何も話していないと思う。それなのに、美奈子には何となく、色んなことを見透かされているような気がしてならない。

 それでも薫はいてもたってもいられなくて、頭を下げて事務所を飛び出したのだった。

 空港に向かう電車の中で、薫はまだ信じられなかった。

 本当に帰って来るのだろうか。
 7年も帰らなかったのに?

 あの時、薫は26歳だった。今は33歳だ。櫻井は……今、42歳。42歳?

 ……顔を見て、分かるだろうか。
 自分は、分かってもらえるだろうか。

 薫自身体型はほとんど変わっていないが、さすがに7年分の年を取っている。見た目に、年を取っただろうか? 

 薫は思わず顔を撫でた。いや、顕著な年齢が出るとしたら、40を超えた櫻井の方だ。腹が出てたら、笑ってやろう。

 記憶の中の櫻井は、当然ながら35歳のままだった。背丈は薫と同じくらいの、180近いすらりとした長身。すっきり整った目鼻立ちで、それなりの男前だ。

 ……いや。笑えるだろうか。
 櫻井は、自分を見てどう思うだろう? 何故迎えに来たのかと不思議に思われないだろうか。この7年、1度も連絡を取っていないのに何を今さら、と。

 空港が近付くにつれて、高揚した気持ちは徐々に不安へと変わっていった。

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