ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 リハーサルは、順調に進んでいった。

 誓いの言葉はマイクを通さずに肉声で行うことになり、音楽を止める。今日はオーソドックスな雛形を読み上げるが、自分たちで文章を考えることも可能だ。指輪を交換したあとに手の甲を皆に向けてゆっくりと披露する様子は、芸能人の結婚記者会見のようだった。

 雰囲気を壊さないよう、挙式中の音楽は控えめに入れる。今日の選曲は全て本城が行ったが、センスの良さが伺えるものだった。あとで曲目を控えておこう、と奈津は思った。

 新郎新婦の立ち位置や角度など、司会者のコメントに合わせて細かなチェックが入ってゆく。

「じゃ次、誓いのキス。新郎新婦は向き合って──はい。新婦はちょっと屈んで、新郎は新婦のベールを上げて……もっとゆっくり! そうそう」

 キャプテンの里崎が、1歩下がって2人の様子を見ながら指示を出す。

「はい、そのままキス──って、成瀬さん、顔は持たないっ、肩ですよ、両手は新婦の肩に軽く置いてください」
「ん? ああ、そうだったな」

 ごく自然に新婦の頰に手を掛けた成瀬が、首を傾げつつ手を離した。

「生々しいんですよ、もう。あと角度は逆の方がいいですね、そっちだと新婦の顔が見えないので……そうそう、新郎は向こう側で。ちょっと顔を寄せるだけでいいですからね……って、成瀬さんっ、ほんとにしちゃだめですよ!」

 今にも唇が触れそうな距離に顔を寄せる成瀬に、里崎がぎょっとする。新婦役のモデルは、全く嫌がっていない。

「このくらいの役得はあってもいいと思うんだが」
「あら、私も成瀬さんなら別にいいけど?」

 新婦役のモデルも、にこりと微笑む。何度も来ているから、スタッフとは顔見知りだ。

「もう、真面目にやってくださいよ。次いきますよ、次!」
「はいはい」

 和やかな笑いに周囲がさざめく。その笑いに紛れるように──成瀬の視線が、音響台に立つ奈津に向けられた。

「っ、」

 ドキリとして、反射的に目を逸らして俯く。
 自分だけ笑っていなかったのが、ばれてしまったかもしれない。楽しそうなその光景に、奈津だけは笑えなかった。

 奈津の心は……嫌な、もやもやとした気持ちで、何故か一杯になっていた。

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