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その後のリハーサルは、人前式から披露宴へと続き、滞りなく進んでいった。
成瀬がふざけることもなく、というより何故か淡々としてしまったので、予定より早く終了した。急に笑わなくなった成瀬を訝り、里崎が釘をさす。
「本番では笑ってくださいよ。成瀬さん、黙ってると怖いんですから」
「怖くて悪かったな。分かってるよ」
本番まで時間が空いたため、モデル役の2人は控え室へと移動した。
小休止が入り、奈津がお手洗いから戻ると、ちょうど本城がスマートフォンの通話を切るところだった。
「ああ相川、悪い。今日の打ち上げなんだが、俺は行けなくなった。病み上がりで悪いんだが、お前1人で出てくれるか」
本城が、すまなそうに奈津を見る。
今日はブライダルフェアのあと、打ち上げと称した飲み会があった。親睦会も兼ねているから必ず出席するようにと、お達しが来ていたのだった。
「何かあったんですか?」
「ちょっと機材の搬入が遅れそうな会場があってな。模擬が終わったら行ってくる」
「そうですか……分かりました」
「まぁ、そこそこで帰っていいから。これも仕事のうちだから、頼むな」
「……はい」
もとより気乗りしていなかった奈津は、ますます憂鬱になった。本城が隣にいるのといないのとでは、状況が全く違う。かといって、事務所から誰も行かない訳にもいかない。
(……30分で、帰ろう)
奈津は小さくため息をついて、諦めた。
「お前がいてくれて、本当に助かる。だいぶ自由に動けるようになったよ」
奈津のため息には気付かず、本城は続けた。
「これまでメルマリーは誰も続かなかったからなぁ。成瀬さん、きついだろ? 他で評判のいいベテランの音響にも、遠慮なく言うからな。女の子入れた時は酷かった。仕事終わってから1時間も残されて説教されたって泣きながら電話してきたよ、辞めさせてくれって」
「僕も、残されて注意受けてますよ」
あまりに毎回のことなのでいちいち報告していないが、細かな注意はいつも受けている。音響台周りが散らかっているだけで、10分くらい小言を受けたこともある。
「そうなのか? 成瀬さん何も言ってこないぞ? 今までの奴は、『どういう教育してんだ』ってすぐ電話してきたけどな。女の子が叱られて泣いた時は、『仕事中に泣くな!』って更にキレたらしい。まあそれは当然だが……あ、お前の『泣く』とは意味が違うから安心しろ」
「っ、もう泣いてませんよっ」
初めの印象というのは、なかなか覆せないものだ。本当は今でも怪しいのだが。
「ははっ、まあ感性豊かなのはいいことだ、程々ならな。結局成瀬さんには妙に出来上がったベテランよりお前みたいなタイプがいいかと思ったんだが、正解だったな。未経験ってのはある意味、賭けだったが」
「……日々、鍛えられています」
「お前は素直だからな、覚えも早いし。それでいいんだと思うよ」
本城は、褒める時はきっちり褒める人だ。励みになる。それに、ただ甘い訳ではなく、だめな時はきちんと叱ってくれる。マネージャーという職種に、向いているのだと思う。
「ま、何かあったらいつでも相談に乗るから。遠慮なく言ってくれ」
「……ありがとうございます」
さすがに、言えることと言えないことがある。
奈津はまた、小さくため息をついた。
成瀬がふざけることもなく、というより何故か淡々としてしまったので、予定より早く終了した。急に笑わなくなった成瀬を訝り、里崎が釘をさす。
「本番では笑ってくださいよ。成瀬さん、黙ってると怖いんですから」
「怖くて悪かったな。分かってるよ」
本番まで時間が空いたため、モデル役の2人は控え室へと移動した。
小休止が入り、奈津がお手洗いから戻ると、ちょうど本城がスマートフォンの通話を切るところだった。
「ああ相川、悪い。今日の打ち上げなんだが、俺は行けなくなった。病み上がりで悪いんだが、お前1人で出てくれるか」
本城が、すまなそうに奈津を見る。
今日はブライダルフェアのあと、打ち上げと称した飲み会があった。親睦会も兼ねているから必ず出席するようにと、お達しが来ていたのだった。
「何かあったんですか?」
「ちょっと機材の搬入が遅れそうな会場があってな。模擬が終わったら行ってくる」
「そうですか……分かりました」
「まぁ、そこそこで帰っていいから。これも仕事のうちだから、頼むな」
「……はい」
もとより気乗りしていなかった奈津は、ますます憂鬱になった。本城が隣にいるのといないのとでは、状況が全く違う。かといって、事務所から誰も行かない訳にもいかない。
(……30分で、帰ろう)
奈津は小さくため息をついて、諦めた。
「お前がいてくれて、本当に助かる。だいぶ自由に動けるようになったよ」
奈津のため息には気付かず、本城は続けた。
「これまでメルマリーは誰も続かなかったからなぁ。成瀬さん、きついだろ? 他で評判のいいベテランの音響にも、遠慮なく言うからな。女の子入れた時は酷かった。仕事終わってから1時間も残されて説教されたって泣きながら電話してきたよ、辞めさせてくれって」
「僕も、残されて注意受けてますよ」
あまりに毎回のことなのでいちいち報告していないが、細かな注意はいつも受けている。音響台周りが散らかっているだけで、10分くらい小言を受けたこともある。
「そうなのか? 成瀬さん何も言ってこないぞ? 今までの奴は、『どういう教育してんだ』ってすぐ電話してきたけどな。女の子が叱られて泣いた時は、『仕事中に泣くな!』って更にキレたらしい。まあそれは当然だが……あ、お前の『泣く』とは意味が違うから安心しろ」
「っ、もう泣いてませんよっ」
初めの印象というのは、なかなか覆せないものだ。本当は今でも怪しいのだが。
「ははっ、まあ感性豊かなのはいいことだ、程々ならな。結局成瀬さんには妙に出来上がったベテランよりお前みたいなタイプがいいかと思ったんだが、正解だったな。未経験ってのはある意味、賭けだったが」
「……日々、鍛えられています」
「お前は素直だからな、覚えも早いし。それでいいんだと思うよ」
本城は、褒める時はきっちり褒める人だ。励みになる。それに、ただ甘い訳ではなく、だめな時はきちんと叱ってくれる。マネージャーという職種に、向いているのだと思う。
「ま、何かあったらいつでも相談に乗るから。遠慮なく言ってくれ」
「……ありがとうございます」
さすがに、言えることと言えないことがある。
奈津はまた、小さくため息をついた。
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