ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 あの2人のことは、よく覚えている。披露宴に対するこだわりが強くて、ちょっと大変だったのだ。

 挙式、披露宴が決まった新郎新婦には、ブライダルコーディネーターである担当者が必ずつき、共に相談しながら披露宴当日に向けて様々な事柄を決めてゆく。お色直しの回数や着る衣装、料理内容に装花の種類、テーブルクロスの色から招待状の封筒まで、細々とした事柄が山程ある。

 一般的には、担当者のアドバイスを聞きながら順に決めていったり、ある程度はお任せにされたりするのだが、中には非常に細かいリクエストをされたり、新郎と新婦で意見が分かれてなかなか決まらなかったりする。

 あの2人は、まさにその典型的なカップルだった。

 新郎は衣装は洋装だけにするつもりだったが、新婦は着物も着たいと言った。担当者は、『新郎様はタキシードのままで新婦様だけお着物着られることもありますよ』とアドバイスするも、新婦はどうしても2人で着たいと言う。どこかで見たのか、新郎には番傘を持ってもらいたいらしい。

 会場の装花は、新婦は白を基調に淡いピンクを混ぜた柔らかい雰囲気にしたいと言ったが、新郎は赤いバラを中心に情熱的なコーディネートにしたいと言って、譲らない。

 引き出物についても、新郎は荷物にならないカタログギフトを推していたが、新婦はメッセージ入りのペアグラス以外は考えられないと言う。

 こんな調子で、デザートのケーキの種類から食器の色まで、事あるごとに意見が分かれて時間が掛かった。

 中でも、とりわけ2人がこだわったのが、音楽だった。それぞれに、好きなアーティストが異なる。

 新郎はあるロックバンドに入れ込んでいたし、新婦は某女性アーティストを崇拝していた。どの場面でどちらの曲を流すかで、揉めに揉めたのだった。

 メルマリーでは、通常打ち合わせに音響は呼ばれない。担当者が、2人が使用したい音楽の意向を聞いて音源を預かり、音響に伝えてくれる。

 だが、音楽のアドバイスが必要だったり何か相談に乗って欲しいような要望があれば、事前に音響とも打ち合わせを行うことがある。なので、打ち合わせに音響が呼ばれるということは、その時点で音楽へのこだわりが強いと分かるのだった。

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