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ざわざわと人のさざめきがする中で、奈津は1人、端の席で沈み込んでいた。ごちゃごちゃと考えすぎて、今はもう何も考えていない。皆の会話が、遠くに聞こえる。
「やだもう! それ私の」
「その話この前も言ってたよな」
「ねぇねぇ知ってる? 更衣室にさ」
「あれっ、成瀬さん、来られたんですね」
「ああ、お疲れ。結構集まったな」
ふわふわと意識の漂う奈津の上を、皆の会話がぼんやりと流れてゆく。
「高嶺支配人、来てたんでしょう?」
「ああ、ホテルに戻ったよ」
「えー、高嶺支配人来てたんですか? 会いたかった!」
「私も! ダンディーだよね、あの人」
「そうそう」
「あっ、ビールビール」
カチリとグラスを合わせる音が聞こえる。また乾杯しているみたいだ。
誰かが来るたびに行われる乾杯に、奈津はもう参加していなかった。
「新規のノルマ、達成できて良かったですね」
「何とかな」
「成瀬さんの、新郎役が良かったんじゃないですか?」
「そうそう! 新婦のドレスより新郎のタキシードの方が問い合わせ多かったんですよ」
「それは単に衣装室のチョイスの問題だろ。確かに新婦のドレス、イマイチだったよな。衣装室に言っとかないと」
「そうですか? ああ、そうだ。音響の相川くんが成瀬さんのこと捜してましたよ。会いましたか?」
「ああ、会えた……って、あの隅っこで潰れてるの、相川か?」
ざわざわと賑やかな周りの雰囲気から沈み込むように目を閉じていた奈津は、自分の名前にも反応できなかった。
「──きみ! 相川くん、大丈夫かい?」
誰かが、自分を揺すっている。
「おい、誰だ。相川にこんなに飲ませたのは」
「えっ、やだな成瀬さん。俺じゃないですよっ……おかしいな、そんなに飲んでなかったと思うんだけど」
「こいつは病み上がりなんだよ。おい、相川、大丈夫か?」
(……あれ? 成瀬さん? ……ああ、夢か……)
奈津の頭が、ぐらりと揺れた。
「ん……らいじょーぶ」
「うわ、だめだな、これ。いいわ、俺送っていくから」
「え、でも成瀬さん、今来たばっかり……」
「いい、もう遅いしな。方向同じだから、ついでだ。里崎、あと適当にしめといてくれ」
「分かりました」
「ほら、相川、行くぞ」
ぐいと腕が引っ張られ、また頭がぐらりと揺れる。
頭上で交わされる会話にエコーが掛かり、奈津の意識は徐々に遠のいていくのだった──
「やだもう! それ私の」
「その話この前も言ってたよな」
「ねぇねぇ知ってる? 更衣室にさ」
「あれっ、成瀬さん、来られたんですね」
「ああ、お疲れ。結構集まったな」
ふわふわと意識の漂う奈津の上を、皆の会話がぼんやりと流れてゆく。
「高嶺支配人、来てたんでしょう?」
「ああ、ホテルに戻ったよ」
「えー、高嶺支配人来てたんですか? 会いたかった!」
「私も! ダンディーだよね、あの人」
「そうそう」
「あっ、ビールビール」
カチリとグラスを合わせる音が聞こえる。また乾杯しているみたいだ。
誰かが来るたびに行われる乾杯に、奈津はもう参加していなかった。
「新規のノルマ、達成できて良かったですね」
「何とかな」
「成瀬さんの、新郎役が良かったんじゃないですか?」
「そうそう! 新婦のドレスより新郎のタキシードの方が問い合わせ多かったんですよ」
「それは単に衣装室のチョイスの問題だろ。確かに新婦のドレス、イマイチだったよな。衣装室に言っとかないと」
「そうですか? ああ、そうだ。音響の相川くんが成瀬さんのこと捜してましたよ。会いましたか?」
「ああ、会えた……って、あの隅っこで潰れてるの、相川か?」
ざわざわと賑やかな周りの雰囲気から沈み込むように目を閉じていた奈津は、自分の名前にも反応できなかった。
「──きみ! 相川くん、大丈夫かい?」
誰かが、自分を揺すっている。
「おい、誰だ。相川にこんなに飲ませたのは」
「えっ、やだな成瀬さん。俺じゃないですよっ……おかしいな、そんなに飲んでなかったと思うんだけど」
「こいつは病み上がりなんだよ。おい、相川、大丈夫か?」
(……あれ? 成瀬さん? ……ああ、夢か……)
奈津の頭が、ぐらりと揺れた。
「ん……らいじょーぶ」
「うわ、だめだな、これ。いいわ、俺送っていくから」
「え、でも成瀬さん、今来たばっかり……」
「いい、もう遅いしな。方向同じだから、ついでだ。里崎、あと適当にしめといてくれ」
「分かりました」
「ほら、相川、行くぞ」
ぐいと腕が引っ張られ、また頭がぐらりと揺れる。
頭上で交わされる会話にエコーが掛かり、奈津の意識は徐々に遠のいていくのだった──
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