ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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          ◇

(ん……あれ。ここ、どこだ……?)

 奈津は、薄暗い部屋の中で、重いまぶたを持ち上げた。周りが、よく見えない。

(うち? ……違うな。本城さんの家かな……)

 徐々に目が慣れて、状況が見えてくる。どうやらベッドに寝かされているらしい。枕が柔らかくて、気持ちいい。

(あれ、本城さんちじゃないな……どこだろ……)

 本城の家には何度か行ったことがある。こんな間接照明に、覚えはない。

(ああ、体が重い……どうしたんだっけ……)

 回らない頭を回していると、部屋のドアがカチャリと開いて、誰か入って来た。その気配はゆっくり近づき、やがてベッドのスプリングがぎしりと揺れた。自分の寝ているベッドに、腰掛けたのだろう。

 ガシガシとタオルで頭を拭く音が聞こえて、石鹸の香りが漂う。その人の顔を見ようと、奈津はごそごそと動いた。

「相川、起きたのか?」

 ふいに聞こえたその声と振り向いた人物に、奈津はギョッとして体を起こした。

「なっ、成瀬さん! なんでっ……」
「なんでって……お前さぁ、潰れるまで飲むなよな。水、飲むか?」

 成瀬が、枕元のサイドテーブルに置いてあったペットボトルに手を伸ばす。一緒に置いてあったリモコンを操作したらしく、部屋の照明がひと段階明るくなった。それでも起き抜けの目が痛くない程度の薄明かりだったが、状況はさっきよりもよく見えた。

 成瀬は引き締まった裸の上半身の肩にタオルを掛け、下はグレーのスウェットを穿いている。濡れた髪は少し癖が出ていて、普段より色が濃く見えた。

(え、待って、何っ)

 明らかに風呂上がりの成瀬に、思わず目が泳ぐ。自分がいるこの広めのベッドは、シンプルな薄い茶系のカバーで統一されていて、妙に手触りがいい。

「酒、弱いんだな」
「………」

 目を細めて、ペットボトルを渡される。

 ──思い出してきた。
 打ち上げで、木嶋と飲んでいた。途中で日本酒に変えて……それがまずかったのか。奈津はこの1週間ふせっていたので、体力が落ちていた。今日も薬を飲んでいる。それも、いけなかったのか……

「お前、軽いな。もっと食った方がいいぞ」
「っ、今週は風邪引いてたんで、食欲がなかったんですよ」

 奈津は、渡されたペットボトルの水をごくごくと飲んだ。かなり喉が渇いていたようで、自分でも驚く。

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